1話
今の日本には王。王妃。王女。王子。
つまり王族というものが存在する。
この王族たちは日本のトップに君臨する存在。日本を統治する存在だ。
そしてこの王族の一人である王女―――――東城 朱莉は今現在東京で庶民と親しくなろうという名のパレード&握手会を行っている。
パレードは誰でも観ることができるが握手会にいたっては抽選で選ばれた一握りの人達しか参加できない。
この握手会に参加できた俺は待ちに待ってやっと王女様とご対面することができている。
周りは熱気と歓声で満ちている……のは先ほどまでのこと…今は狂気染みた熱気と悲鳴で満ちている。
なぜかって?
それは目の前の王女様の顔がクリームまみれで笑顔のまま顔をひきつらせているから。
なぜそうなったかって?
俺が王女様の顔目掛けてクリームたっぷりのパイを投げたから。
俺がこんな自殺行為を行ったのはちゃんと理由がある。
それはこの握手会が始まる4時間程前のこと・・・・
☆☆☆
早朝 5時
警察庁 警察庁長官室にて
「美織…突然だが王女様にパイ投げをしてもらいたい」
「…はっ!?」
意味の判らない唐突すぎる発言に思わず間抜けな声を出してしまった。
スーツを着こなし髪をスッキリと整えデスクで深刻な顔をしている警察庁長官もとい俺の父親は告げた。
「すまない。話を切りすぎた。実はこの国の第一王女東城朱莉様のお命を他の国の暗殺者が狙っているという情報を掴んだんだ。暗殺は4時間後のイベントで実行される」
「―――!!!」
とても驚愕的な話だがますます判らない一体パイ投げと王女様の暗殺がどう繋がるのか。
「美織にはこの暗殺を止めるべく王女様にパイ投げをだな・・・」
話の内容を掴むべく話を遮る。
「ちょっと待ってくれ意味が判らない。なぜ暗殺を止めるのにパイ投げ何だそして何よりなぜ俺がやるんだ?」
「お前に頼むのは、王女様直々の命令で警察の者やボディーガードを付けないという命が出た4時間後に控えているイベントのためにも…そして俺の息子だからという理由もある。パイ投げの理由は金属探知機に引っ掛からない上に握手会の時に王女様にプレゼントが出来るらしい。上手くパイ投げが出来れば周りは大騒ぎで暗殺どころではなくなるだろう」
握手会用のチケットはここに、とデスクの上にチケットを出してきた。
俺はそのチケットを見ながら訊ねる。
「王女様はこの事を知ってるのか?」
「ああ。知っているよ。知ってもなおイベントをやるそうだ」
とんだ王女様だ。
自分の命よりも庶民との交流か……
「わかったやるよ。勘違いするなよこれはお前のためじゃない。肝の据わった王女様のためだ」
「ありがとう美織」
「でも王女様にパイ投げって場合によっては周りの反感を買って俺処刑だよね?」
「安心してくれ。そんなことは起きないようにするから」
☆☆☆
(っと言ってたくせに…)
「これより被告人 八雲 美織の裁判を行う」
これはとてもまずい状況だ。このままじゃ確実に処刑だ。
あいつ「安心してくれ。そんなことは起きないようにするから」とか格好よく言ってたけど全然駄目じゃん。
「いろいろと裁判の流れってもんがあるけどいいよねもう。王女様にパイ投げしたんだから処刑で」
何だこの裁判官!
とても顔立ちがよく眼鏡をかけスーツを着こなしている美人裁判官。
とてもその容姿からやるとは思えない裁判の杜撰さ。
一体誰がこの人を裁判官に選んだのか。
そんな事に焦りを抱いているなか一つの澄みきった声が部屋中を包み込む。
「ちょっとその判決お待ちください」
その声の主は荒野に咲く1輪の花のように美しい女の子―――――東城 朱莉だった。