「どうしてこうなったのかしら」
愛花ちゃんの結婚報告を知らせる手紙を見て私はふと呟いた。
「どうしてこうなったのかしら」
私には双子の弟達がいた。
弟達はそれはそれはそっくりの顔立ちをしていた。そのせいで家族や親戚からも間違えられて、その度に傷ついていた事は私や両親は気付いていた。
だから、私達は出来るだけ弟達を見分ける様に服を色違いにしたり、小さな癖を見つけたりと何とか理解しようとしたのだが。
しかし、年を取って行くと二人は悪知恵を覚える様になった。
ワザと互いの服を交換したり、癖を逆にしたりと周りを困らせた。まあ、その程度は微笑ましい悪戯だと思えるし、そんな風に周りをからかう位に気にはしなくなったと喜んだ。
それなのに……何時からあんな風になってしまったのか。
獅子若愛花は弟達が入学する前に知り合っていた少女だ。
彼女の本当の父親についてはこの世界の人間は暗黙の了解で知っていた。だからこそ、彼女に無体を起こす馬鹿はいなかったし、彼女を取りこんで力を得ようとした人間も確かにいた。……まあ、そう言う人間は愛花ちゃんの戸籍上の両親によって潰されたが。
愛花ちゃんは非常に才能あふれる少女だ。
服装、靴、アクセサリー、香水までファッション関係のモノは何でも作れる子だった。しかし、製品化するにはあと一歩足りない様なモノばかりだった。
それに目を付けた私は、その一歩を満たして製品化にさせた。勿論その商品の権利は愛花ちゃんの物。
愛花ちゃんの作ったモノは誰もが知る様な大ヒット商品となった。
此処である女の子の話をしよう。
女の子はとある企業の一人娘だった。
容姿をそれなりに良かったし、頭も優等生の分類に入った。そして彼女も愛花ちゃんの真似をして商品を作り始めた。
しかし、愛花ちゃんは才能のある女の子だった。彼女は普通の女の子だった。
私は『まずは色んな勉強をしてごらん』と彼女に会った時、アドバイスを送った。現に彼女の作品は発売しても直ぐに消えていた。
彼女は私の言葉に頷いていたが……少し不満そうだった。
そんな弟達と愛花ちゃんと彼女があの学園で出会ったのだが……
「どうしてこうなったのかしら」
私はあの事件があってからもう何万回も呟いている言葉を吐いた。
「またあの事を思い出しているのか?」
私に声をかけてくれたのは私の夫だ。
「……ねえ総司。私はどうすべきだったのかしら」
「どうって?」
「私が弟達を見間違えなければ、私があの子にもう少し適切なアトバイスをすれば、私が愛花ちゃんばかり贔屓しなければこんな未来にならなかったのかしら」
正直あの事件の事は思い出したくない。
愛花ちゃんの無数の傷。吐き気を催す程の凄惨なイジメ。それを実行したのは他ならない私の弟達だった。そしてそれを助長した原因の一人があの女の子。
嵐の様な毎日だった。
有名企業の子息達の通う有名校で起きた凄惨な虐め。しかも理事長が逮捕されると言うショッキングなニュースを含めたこれらの話はマスコミの格好の餌だ。
それをたった一週間で落ち着いたのは愛花ちゃんの実の父親のお陰だ。本当ならば火に油を注いでも可笑しくなかったのだが、このままでは愛花ちゃんにも被害が及ぶと考慮して(世間は被害者にも非情な言葉を吐く)行動を起こしたのだ。
それでも地に落ちた信頼を取り戻すのには時間が掛かった。愛花ちゃんと婚約していた少年の家族は親類全員が辞め、他の人間に会社を譲ったと仕事の合間に耳にした。
別れを告げられても文句は言わなかったのに、総司は私の事を見離す事はせずボロボロの私をサポートしてくれた。
今は信頼をある程度回復させ、こうして家でのんびりと寛げる所まで落ち着かせた。
そして愛花ちゃんの結婚報告の手紙を見て色々と思い出してしまったのだ。
私の行動は間違っていなかったのか? 本当ならばもっと正しい選択はあったのではないか? あんな風に弟達を見捨てるのが良かったのか? 見捨てなくても良かったのか? 本当に……
「『もしも』の話をしても限がねえよ。お前を含めた周りの人間全員が色んな選択をした結果が『今』だ。その『今』で被害者が笑っていればそれで良いじゃあないか。それにお前の弟達とそのガキだけじゃあなく、他にも協力した人間がいたんだろ? ソレを見ていた人間が確かにいたんだろう? それでもあの事件が起きたんだ。お前が全部の責任を背負い込む必要はねえんだよ」
総司はぶっきらぼうにそう言って私をお姫様抱っこして寝室に運んだ。
「取りあえず寝ろ。最近働き過ぎなんだよお前」
そう言って私を寝かせてポンポンと寝かしつける。何時の間にかアロマまで焚いてある。私はゆっくりと目蓋を落とした。
夢を見た。
幼い頃、私の後ろをトコトコと付いてきて無条件に慕っていた弟達の事を。
最初に会った時、目をキラキラさせて私の事を憧れていると真っ正面から言ってくれた彼女の事を。
新しい商品を考えたからアドバイスが欲しいと笑顔で慕っている愛花ちゃんの事を。
幸せだった毎日なのに。
「……どうしてこうなったのかしら」
総司は何も答えずただ私の涙を拭った。
総司は口が悪いけど根は良い奴な男です。
周りから別れを勧められましたが、別れたら一羽は壊れるまで働くと思い別れず結婚しました。双子達の事も勿論知ってます。前は将来の義弟なのでそれなりに好感度があったのですが、例の件と一羽の様子を見て好感度はマイナスになってますので、二度と目の前に現れるなと思ってます。
一羽は『悪役令嬢役』の女子生徒とは知り合いです。彼女は悪い子ではない事は彼女が良く分かっています。
だからこそ今回の選択は生涯悩む問題です。
自分が選択したとはいえ、弟達を不幸のどん底に落としたのは間違いなく自分が切っ掛けです。これから先、彼女は『本当に正しい選択なのか?』と悩み続けます。根は真面目で優しい子ですから。
それでも総司をはじめとした周りの人達の支えで潰れずにいます。
つまり言いたい事はと言うと、『電波な行動は自分だけではなく周りも不幸にする』です。