白い霧の中へ
深い霧の中に
老人と小さな女の子は
手を繋ぎながら
消えて行った
奇しくも、臨終の床に子供が五人、みんな集まってくれた。
そして嫁も。
『おかあさん…おかあさん…』
私はうっすら目をあけた。
そしてまたつむった。
『おかあさんっ、おかあさんっ…』
なんだか責められているような気がした。
私は頑張って瞼を開け、ありがとうと言ったが、声にならなかった。
『おかあさん、なにっ?なんなのっ?』
なんだかうるさかった。
大した事じゃないと、力無く手を横に振ったが、バイバイと勘違いされたらしかった。
『もう、おかあさんったら…』と苦笑する子や、泣き出す子がいた。
ああ…賑やかだ。
お別れは寂しい。
だが、みんな無事に育ってくれ、それぞれ幸せに暮らしているようだ。
私は安心して、すっかり満ち足りた気持ちになった。
楽しかった事が浮かんだ。
その向こうに、苦しかった事、辛かった事がみえた。
間もなく、辺りに白い靄がかかり、私の両手をみんながしっかり繋いでくれていたが、わたしの身体は軽くなり、その存在が感じられなくなってくる。
みんなの声が遠くに聞こえてくるようになる。
わたしは、だんだん靄の中に吸い込まれ、、さらに懐かしい声が遠くなる。
周りは真っ白になり、何も見えなくなる。
気付くと、真っ白なその霧の向こうに老人が一人立っている。
わたしは、小さな女の子になり、駆け出し、老人の方に手を伸ばす。
老人は大きな手でしっかり私の手をつないでくれる。
『どうだった?』
『うん、大変だった。』
『そうかそうか、大変だったか。』
老人は笑い、ご苦労様と言って、優しく私の頭を撫ぜてくれる。
二人は手をつなぎ、楽しそうに、霧の中へ消えて行く。
幸せな死を想像してみました。