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クレーマー

作者: 藍植りん太

 とある刃物メーカーに、一本の苦情電話が寄せられた。

「お前んとこの包丁、アレ全然切れねえじゃねえか! ふざけんじゃねえ!」

 その声は男性で、余程頭にきているのか、捲し立てるように暴言を放つ。

 電話を受けたクレーム担当の女性社員は、まず怒りを和らげるために謝罪をし、相手を落ち着かせる為になるべくゆっくりと、使用した包丁の商品名を尋ねた。

 男性は相変わらずの早口で答えた。

「知らねえよ! 手元にあったやつを適当に引っ掴んで使ったんだ!」

 その返答に微かな違和感を感じながらも、女性社員は続けてその包丁の使用状況を尋ねた。

 すると男性は突如口を噤み、ややあって何かはっきりしない言葉を電話口で零し始めた。

 このままでは埒が明かないと、女性社員は丁寧にはっきりと、何を、どうやって切ろうとしていたのかをもう一度問うた。

 男性は絞り出すように答えた。

「あー肉だよ、肉。骨付きのデカいやつだ。押しても引いても切れやしねえ」

 さすがにおかしいと思った女性社員は、相手に少々待っていて欲しい旨を告げて電話を保留にすると、上司の意見を仰いだ。

 話を聞いた上司は、すぐに警察に連絡しておくから、相手を刺激せずに会話を続け、可能ならば男性の所在の分かる情報を引き出すようにと女性社員に命じた。

 電話口に戻った女性社員は、今回の御客様の御主張を元に生産部門の確認・調査を行い、迅速に改善に努める云々というクレーム対応の常套句を述べた上で、お詫びの品を贈りたいので住所を聞きたいと言った。

「住所なんてねえよ」

 男性の語調は烈火のような怒りから静かなものに変わっていた。

 女性社員は息を飲みながら、もう少し突っ込んで現在の所在地を訊いてみた。

「すぐそばだよ」

 えっ、と言葉の出ない女性社員を無視して、男性は続けた。

「お前んとこの包丁が切れなかったせいで、やっと死ねるまで長々と苦しい思いさせやがって」

 その声は電話口ではなく、背後から聞こえた。

「絶対に赦さねえ」



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