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キジムナーの手と人の手が結ばれる時

いきなり最終回です


「優美さん、一人で大丈夫でしょうか?」

 飛行機の窓から、秀一の家がある辺りを見ながら、心配そうな顔をする火姫に、アイマスクをして、眠ろうとしていた秀一が答える。

「大丈夫だろう。マネージャーの人もちょくちょく見に来てくれるって話だ」

「でも、妊娠してるのに何かあったら……。やっぱりあちきは、家に居た方が良いよね?」

 物凄く複雑な顔をする火姫を、アイマスクをずらして確認し、微笑する秀一。

「そんな顔のお前が居たら、優美も気が休まらない。ここは、こっちに集中するんだ。それに本気で民俗学の研究するんだったら、沖縄の文化を体験する事は、大切だ。一番近い外国と言っても良いからな。日本から見た外国の民族、逆に外国から見た日本の民族。それを常に意識しておく事で、世界に通じる研究が出来る筈だ」

 火姫が頷き、呟く。

「秀一と一緒に研究したいから頑張る」

 頭を撫でる秀一。

 二人は、沖縄に向かって空の旅を開始するのであった。



「シーサーって狛犬と同じ様な物なんだよね?」

 沖縄の街中を歩きながら火姫が質問すると、秀一が答える。

「そうだな。源流は、古代オリエントのライオンだったらしい。こういった小さい共通点から、文化の流れ、人の行き方を探って行くのが、俺の民族学の醍醐味だ」

「あちきも、もっと勉強するよ」

 火姫も笑顔で答え、幸せな空気が流れていた。

「今回のフィールドワークは、沖縄で、ここ最近に起こっている、キジムナー審問だ」

 秀一の言葉に、火姫が必死に予習した事を思い出す。

「キジムナーは、沖縄の妖怪と言われているけど、精霊的な側面も強く、同時に、人と接触を持つのが有名だった筈だよね?」

 秀一は、幾つかの資料を見せながら答える。

「そうだ、気に入られると財を成せるといういわれがある事でも解るが、座敷童に近い属性もある。しかし、この所、怪事件が連続していて、怪事件の現場には、目玉が無い魚があることから、犯人は、キジムナーでは、無いかと言われて、キジムナー審問が行われている」

 首を傾げる火姫。

「妖怪の審問なんてどうやるの?」

 秀一が肩を竦める。

「キジムナーは、人に紛れる。だから、怪しいと思った人間に、審問を行う。簡単に言えば魔女裁判だ」

 火姫が眉を顰める。

「あんまり、いい事に聞こえないんですけど」

 頷く秀一。

「ああ、単なる嫌がらせだ。たいていの場合は、根拠の無い民間伝承だが、そういった物の真実を調べるのが、俺達の仕事だ」

 二人は、審問が行われるという、広場に着く。

 そこでは、不思議な御香が焚かれていた。

「この匂いは、何だ? 嗅いだ覚えが無い。もしかして、人体にも影響があるかも……」

 少し悩んだ後、秀一は、火姫をホテルに帰そうと振り向いた時、火姫が蹲っていた。

「大丈夫か!」

 慌てて駆け寄るが、虚ろな目をする火姫。

「秀一、おかしい、体が熱いよ」

 周囲の視線が集まり、祭壇と思われる所に立つ、仮面の男が宣言する。

「その娘、キジムナーだな!」

「違う!」

 秀一が断言するが、周囲の視線が一気に敵意に満ちる。

 秀一が軽く深呼吸をすると、冷静に質問を返す。

「何を根拠に、私の娘をキジムナーと言うのですか?」

 仮面の男は、香が焚かれている、香炉を指差して言う。

「あの御香には、人あらざる者を炙り出す効果がある。その娘の反応こそが、キジムナーの証拠だ」

 熱にうなされる様な火姫の様子に、周囲の人間も疑惑を深める。

 肩を竦める秀一。

「もし万が一、娘がキジムナーだとしても、怪事件に関っていたという証拠は、どこにあるのですか? 私は、娘が怪事件の発生している時に、東京に居たという証明が出来ますよ」

 仮面の男が反論する。

「そんな物が、妖怪に意味があるのか? 妖怪だったら、どんな遠くに居ても怪事件の一つや二つ起こせよう」

 秀一が鼻で笑う。

「何がおかしい?」

 仮面の男が反応すると、必死に笑いを堪える仕草をしながら秀一が言う。

「キジムナーに対する正しい知識も無い。そんな貴方がどうして、娘をキジムナーと断定するのですか? そして、怪事件の犯人が娘だとする証拠は、何も無い。正直、はっきりとした答えが聞けると思ったのですが、残念です」

 仮面の男が手に持った杖を突きつけて言う。

「キジムナーでない証拠をなんとする?」

 秀一は、あっさりとパスポートを見せて言う。

「娘のパスポートです。国が正式に発行した物ですが、貴方の言うキジムナーは、パスポートを持っているのですか?」

「それは、偽造に決まっている!」

 秀一が余裕たっぷりな態度で火姫を抱えあげて、答える。

「問合せれば直ぐ解る事です。私達は、ホテルに居ますので、もし偽造だという証拠が見つかったら、来てください。逃げも隠れもしません」

 そして、ホテルに戻っていく秀一と火姫であった。



『問題の仮面の男だけど、オカルト世界の正式な人間で、黄井キイリョウ。拝み屋組織の正式メンバー。問題の御香も本物で、妖狐の血が反応したと思うわ』

 携帯からのヤヤからの回答に、火姫をベッドで休ませた後、色々と動いていた秀一が頭を掻く。

「本物か、面倒だな。しかし、そんな奴が動くという事は、キジムナーは、本物か?」

『そっちも調べておいたけど、更に面倒な話で、怪事件を起こしてるのは、米軍基地から逃亡した生物兵器。実際は、そいつ自身は、もう米軍が回収済みなんだけど、原因究明されると面倒だからってキジムナーの所為で決着つけようとしてるの。それで予算がついて、本物の拝み屋を呼んでしまったのよ』

 舌打ちする秀一。

「隠蔽工作か。良くある事だが、今回は、面倒なことになったな」

『拝み屋の方は、私の方から、手を回すから、明日には、騒がなくなるから、それまで、適当に誤魔化しておいて』

 ヤヤの言葉に、秀一は、同意するしかなかった。

「すまないが、よろしくお願いします」

 携帯電話を切り、ソファーに横になった時、火姫がやってくる。

「ヤヤさんは、何て言っていましたか?」

 秀一が笑顔で答える。

「あいつは、本物の拝み屋みたいだが、明日には、話をつけてくれるそうだ」

 落ち込んだ顔をする火姫。

「ちゃんとした取材が出来なかったのは、あちきの所為だよね?」

 秀一が頭を掻きながら言う。

「気にするな、元々、キジムナーと関係ない儀式だ。今回の事も、妖怪とは、関係ない、アメリカの生物兵器が原因だったらしいからな」

 それでも、火姫が心細そうな顔をするので、秀一が強く抱きしめて言う。

「安心しろ。この位のトラブルなんて日常茶飯事だ」

 小さく頷く火姫であった。



 拝み屋、良は、ホテルの裏で、術具を身に纏い、戦闘準備を始めていた。

「まさか、本物の妖怪が出てくるとは、思わなかったが、金も貰っている以上、ほっとけないな」

 ホテルの裏口から、侵入すると、良は、秀一達の部屋の前に立つ。

 鍵をピッキングで開けて、突入すると、即座に術札を投げる。

『呪縛符!』

 術札は、引き寄せられるように火姫に向かい、くっつく。

「嫌!」

 火姫が叫び、秀一が慌てる。

「俺の娘に、何をするんだ!」

 良は、一気に間合いを詰めると、手に持った杖で秀一を壁に押し付ける。

「お前が、この妖怪を操る、術者だな? この妖怪を使って何をするつもりだ!」

 秀一が睨み返す。

「馬鹿も休み休み言え、何の根拠があって、俺の娘を妖怪呼ばわりするんだ!」

 良は、火姫の服を切り裂く。

「止めて!」

 火姫が裸を見られる恥ずかしさに叫ぶが、良は、気にせず、服を切り裂き続ける。

「止めろ、女の服を切り裂くなんて男として恥ずかしくないのか!」

 良は、冷たい目で答える。

「妖怪の姿は、仮初の物だ、それを見たからといってどうなるものか。ほら、出て来た、その尻尾、妖狐の物だな? 中途半端な変化しか出来ないところを見ると、下位の妖狐と見たが」

 裸を見られている恥ずかしさに、火姫が涙を流す。

 それを見て、秀一が切れた。

「よくも火姫を!」

 渾身の力を込めて、杖から逃れると、力の限り殴りつける。

 しかし、素人の攻撃を食らう良では、無かった。

「往生際の悪い男だ。俺は、邪悪な術者には、容赦をしない事にしている」

 杖を振るい、足を払うと、杖で秀一の喉を突きぬこうとした。

「やらせない!」

 火姫の言葉と共に狐火が一斉に、良に向かう。

「その程度の術が通用するか!」

 良は、杖を回転させて、弾く。

「秀一には、お父さんには、誰も危害を与えさせない!」

 火姫の全身から炎が立ち上り、術札が焼ききれる。

「馬鹿な、お前程度の妖怪に打ち破れる術では、無いんだぞ!」

 尻尾が蠢き、火姫が右手を掲げた時、巨大な炎の塊が生まれる。

「許さない!」

「こんな、強力な力を持つ、妖怪なんて……」

 良が恐怖に顔を引き攣らせながら、身に付けた術具を開放する。

「死ね!」

 火姫が炎を爆発し、ホテルに大穴が空く。



「俺の術具で相殺させたのにも関らず、この威力か……。尻尾が三本しかない妖狐の力とは、とても思えないぞ」

 良がぼやき、杖を火姫に向ける。

 そんな中、呆然と秀一は、立ち上る炎と煙の中に絶対的な炎の支配者として立つ裸の火姫を見ていた。

 それは、ある種の美であり、同時に人の深層心理に恐怖を与える、異質な存在。

 火姫が、再び炎の玉を生み出そうとした時、良が一気に間合いを詰め寄る。

「させるか!」

 良が杖を突き出すが、突き出した杖が火姫をすり抜ける。

「しまった! 幻だ!」

 良の横に突如現れた火姫がその指先の炎の塊を作り、打ち出そうとした時、秀一が怒鳴る。

「火姫、止めろ!」

 火姫の顔に戸惑いを浮かべた時、良がそのチャンスを生かすように渾身の一撃を放つ。

 少女の体の火姫は、あっさり吹き飛ぶ。

 良は、上着を脱ぐと、それを火姫に投げつける。

「これで終わりだ!」

『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前(リン・ビョウ・トウ・シャ・カイ・ジン・レツ・ザイ・ゼン)、魔を滅ぼせ、妖魔滅殺ヨウマメッサツ

 良の上着に刻まれ、良の気を蓄積した、破邪の印が爆裂する。

 良が勝利を確信し、膝をつき、秀一が慌てて駆け寄る。

「火姫、大丈夫か!」

 良は、残った力を振り絞り、杖を掴んで、秀一に近寄る。

「無駄だ、俺の最強の術だ。妖怪には、耐えられない。お前も後を追え!」

 杖を振り上げた良を睨む、秀一。

 その時、炎が良を覆う。

「火姫、大丈夫だ……」

 振り返った秀一の言葉が途中で止まった。

 そこに居たのは、姿こそ、大差ないが、常人には、決して出せない殺気を身に纏った火姫が居た。

『お父さんは、傷つけさせない!』

 全身から噴出する炎は、物質を瞬間的に昇華させ、熱風で、周囲の全てのものが吹き飛ぶ。

 良が、自分の目を疑る。

「……こんな化物、敵う筈がない」

 諦めに似た表情を浮かべ、しゃがみこむ。

 そして、恐怖で、動けない秀一の横を通り過ぎ、良に止めを刺そうとする火姫。

「落ち着きましょうね」

 突然、空中から現れるヤヤ。

『敵は、殺す』

 火姫が反射的に攻撃するが、ヤヤは、数千度の炎の玉をあっさり弾くと、近づき、でこピンをする。

『バハムートプチブレス』

 その一撃で気絶する火姫。

 良が、安堵の息を吐く。

「どこの奴だか知らないが、助かった、ありがとう」

 ヤヤが笑顔で言う。

「いえいえ、お礼を言われる事は、していません。火姫ちゃんを犯罪者にしたくなかっただけですから。それに……」

 無雑作に近づいたヤヤの拳が良の腹にめり込む。

 激しく嘔吐する良にヤヤが告げる。

「勝手な暴走で、その程度で済むと思わないでよ、八刃を敵に回したんだから、永遠に後悔しなさい」

 一気に青褪める良。

「まさか、あの娘、八刃の関係者?」

 頷くヤヤ。

「八刃の一つ、萌野の直系」

 良が頭を抱えて、後悔する中、ヤヤが秀一を見る。

「ここの後始末は、私がやりますから、火姫と一緒に、休んでいて下さい」

 ヤヤが火姫を渡そうとした時、無意識に身をひく秀一。

「……火姫は、こちらで預かりますね」

 ヤヤは、そう言って、火姫をつれてその場を離れる。

 秀一は、何も言えなかった。



 翌朝、問題のホテルとは、違うホテルの食堂で、秀一が食事をしていると、そこに火姫がやってきて言う。

「昨日は、ごめんなさい。秀一が襲われているのを見たら、感情が暴走して……」

 秀一が引き攣った笑顔で答える。

「別に良いさ」

 そして火姫が安堵の息を吐いて、何時もの様に隣に寄り添うように座ろうとした時、秀一が体をずらせた。

 火姫の顔が強張り、秀一は、慌てて抱き寄せようとするが、火姫は、食堂を出て行ってしまう。

「中途半端な気持ちだったら追いかけないでくださいね」

 いつの間にかに来たヤヤの言葉に秀一が悔しそうに言う。

「無意識で避けてしまった。理屈じゃ解っているのに、体が恐怖で動いていたんだ」

 ヤヤが告げる。

「萌野は、いつでも引き受けるそうです。昨日の件も、萌野の長が大喜びしていました。あの年で、あれだけの炎を出せるのは、萌野の血のなせる業だと」

 秀一は、何も言わない。



 その日の東京行きの昼の飛行機、そこに秀一と火姫が乗っていた。

 取材対象が雲隠れしたからだ。

「ヤヤさんの話では、全力で逃げてるそうです。しかし、八刃は、自分の関係者に危害を加えるものを絶対に許しません。多分、地の果てまでおいかけられ、生まれた事を後悔する事になります」

 火姫の言葉に、秀一が出来るだけ明るい口調で答える。

「お前にあんな酷い事をしたんだから当然だ。捕まったら連絡してもらおう。俺も一発、殴りたいからな」

「……伝えておきます」

 火姫は、そう答えた後、何も言わない。

 秀一もそれ以上、何も聞けない。

 重い沈黙が二人の間の溝を深めていく。



「このままじゃ駄目だ」

 洗面台で顔を洗い、気を引き締めた秀一の呟き。

「そうだ、このままでは、すまない筈だ」

 トイレの中から、秀一の聞き覚えがある声がした。

 秀一が扉を開けると、そこには、良が居た。

「お前がどうしてここに居るんだ?」

 良は、口を押さえて言う。

「静かにしてくれ、事情は、聞いた。こっちの事情も知ってるだろう。八刃に見つかったら。本気で生まれた事を後悔する事になるんだ」

 秀一が睨みつけながら言う。

「お前があんな事をするからだ。人の娘をひん剥いた上、物騒な術を撃ち込みやがって、俺が許すとでも思ったのか?」

 良が手を合わせて言う。

「それは、謝罪する。あんたの気がすまないというのなら、幾ら殴ってもいい。だから八刃に知らせないでくれ」

 苛立ちながらも秀一が言う。

「どうしてそんなに八刃を恐れる? お前の所属している組織だってそんな小さい物では、ないだろう? 組織の人間に助けを求めたらどうだ?」

 良が舌打ちをする。

「八刃は、別格なんだ。あそこは、基本的には、無干渉だが、一度、関ったら最後、誰も止められない。例えアメリカ大統領でも、その前に立ちふさがる事は、出来ないんだよ」

 秀一が唾を飲み込む。

「お前も、一般人だったら八刃と関りあおうと思うな。あれは、人外だ。俺達とは、別の世界の人間だ」

 その時、ヤヤが現れて言う。

「逃げられると思ってた?」

 恐怖に震える良を尻目に、秀一が席に戻っていく。



 秀一が席に戻っても、火姫が俯いたまま、何の反応も示さない。

 秀一は、席に戻り、後悔するように昨夜の出来事を思い出す。

 何度も何度も、頭の中に昨夜の事を思い出している間に、秀一が眉を顰めた。

「何か違和感が……」

 その時、ある事実に気付き、火姫を凝視する。

 火姫は、戸惑いながら言う。

「どうしたの、秀一?」

 秀一は、興奮した顔で言う。

「あの時、お父さんって言ってくれたよな?」

 火姫が顔を真赤にする。

「あの時の事は、覚えてない!」

 秀一は、断言する。

「俺は、覚えてるぞ! 確かにお父さんって言った!」

 火姫が首を振って言う。

「そんなの関係ない! 秀一は、お父さんは、あちきの事を怖がってる! あちきは、怖がられても傍に居られるほど強くない!」

 秀一が嬉しそうに言う。

「また言った。お父さんって呼ばれるのがこんなに嬉しい事だって始めてしったよ」

 その顔に火姫が何もいえないで居ると秀一がはっきり言う。

「正直、怖かった。さっきまでは、一緒に居られるか不安だった。でも、今は、違う。お父さんと呼んで貰えるんだったら、あんな恐怖なんて、たいした事じゃない」

 上機嫌の表情で秀一が言う。

「優美に自慢したら悔しがるだろうなー」

 火姫が慌てて言う。

「本当に良いの?」

 秀一が苦笑しながら答える。

「俺の気持ちは、今言ったぞ。優美が、あのくらいの事で、お前を嫌いになると思うのか? 大体、お前の事を嫌う優美なんて想像できるか?」

 火姫は、一生懸命に考えるが首を横に振る。

「全然、思いつかない」

 深く頷き秀一が言う。

「そうだろう、俺も驚いたぞ、別の女性との子供をあそこまで好きになれるのは、ある種の才能だよな」

 嬉しそうに頷く火姫。

 そこにヤヤが良を連れて来て言う。

「そっちの話しが済んだところで、コイツの後始末どうする? 一応、被害を受けた火姫の保護者が決める事にしてあるんだけど」

 秀一が拳を握り締めて言う。

「取敢えず、一発、殴らせろ」

 ヤヤは、あっさり、良を前に出す。

「手加減してくれると、助かる」

 秀一が微笑み言う。

「娘を裸にされた父親にそんな言葉が通じると思うな!」

 秀一の渾身の一撃が良の顔面に決まった。



○蒼井秀一学会発表レポート



 キジムナーに関する報告



 沖縄地方に伝わるキジムナーの伝承には、本島における鬼伝説に近いものがある。

 異人の事を鬼と呼ばれていた事を考えて、キジムナーが異人であった可能性もありえる。



 中略



 この様な逸話の多くが、当時の権力者によって、自分に都合の悪い真実を隠蔽する為に使われている可能性がある。

 逸話の奥に隠された、当時の真実を探り出すことも民俗学者の重大な役目の一つと考える。



 民俗学博士 蒼井秀一



「この子の名前、何にするんだ?」

 秀一の言葉に、嬉しそうに妹を抱き上げている火姫を、優しい笑顔で見ていた出産直後の優美が答える。

炎妃エンキにしようと思うわ」

 複雑な顔をする秀一。

 火姫が驚いた顔をして言う。

「お母さんの名前で良いの、ママ?」

 結局、ママと呼ぶことに妥協点をつけた火姫に、嬉しそうに優美が言う。

「当然よ、火姫みたいな、本当に良い娘を産んでくれた人の名前だもの、きっと良い女性に育つはずよ」

 苦笑する秀一。

「そうだな。でもな、近親に同じ名前をつけるのは、出来ないんだ」

 そこに良がやってくる。

「ボス、キジムナーの件について新しい情報が入りました」

 結局、秀一のところで下働きをする事で、罪滅ぼしをする事になった良。

「解った。すまないが行って来る」

 秀一の言葉に、手を振る優美。

「気をつけてね」

 部屋を出て行く秀一を見送ろうとした火姫に、優美が声をかける。

「一緒に行きなさい」

 火姫が妹を見て言う。

「でも、妹の世話もしないといけないし」

 優美が口を膨らませて言う。

「貴女の赤ん坊の頃の世話が出来なかった分楽しむのは、あたしの役得よ。貴女は、お父さんの後を追いかけなさい。お父さんを追い越して、引退させて。そうしたら、引退したあの人に家事をやらせてやるんだから」

 火姫が嬉しそうに頷き、秀一の後を追いかけるのであった。

これで一応ラストです。

実は、本サイト掲載分とは、少しだけ違います。

その理由は、次の特別編に関わってきます。

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