花子さんのパンツは、赤かった
少し短めな話し。何処かで見た子達が出ています
「トイレの花子さんってどんな話?」
火姫の言葉に秀一が即答する。
「今一番ポピュラーな学園の怪談だな、色々パターンがあるが、基本的には、奥から三番目のトイレに出てきて、こちらに色々問いかけて来て、その対応の仕方を間違えると殺されてしまうというパターンだが、この手の話は、それこそ江戸時代からある。実際の事件と絡められる場合があるが、主な発生理由は、学校七不思議の数あわせだ」
横で聞いて居た優美が苦笑しながら言う。
「身も蓋ふたもない意見ね。まあ、確かにあたしが、学生の頃もあったけど、たいてい最後の方になるわね。それよりどうしてそんな事を聞くの?」
火姫は、ノートに秀一に聞いた内容を書きながら言う。
「いま、うちの学校で流行ってるの。それでクラスメイトが退治するんだと言って、専門家の意見を聞きたいんだって」
笑いながら優美が言う。
「よくある小学生の冒険ごっこね」
火姫が平然と答える。
「3Sに成るには、実績が必要だから、事件になる前に解決するんだって」
秀一が気になったのか顔を向ける。
「なんだ、それは?」
火姫が考えながら答える。
「学校の委員で、正式名称は、特殊清掃委員らしい。でも、普通は、3Sって呼ぶの。よく、学校に出てくる魔獣を退治してる」
聞きなれない言葉に優美の顔が引き攣る。
「魔獣って何?」
火姫が当然の事の様に答える。
「時空の乱れから侵食した、異界の力が凝固した物で、こちらで固定しやすいように獣の姿を真似るから、魔獣って呼ばれてるって話だよ。玉藻のおばあちゃんも言ってた」
興味をそそられたのか秀一が聞いてくる。
「お前の学校ってよくそんなのが出るのか?」
頷く火姫。
「元々、学校なのも、若い人間の不安定な魂を利用して、魔獣の発生を八刃学園に集中させるのが目的だって話。週に二三度は、出てきて、3Sに退治されてるらしいよ」
慌てて優美。
「凄く危険なんじゃない!」
それには、首を傾げて火姫が言う。
「でも、入学の誓約書にも断りの文章が入ってるよ」
優美が慌てて、入学関係の資料を漁る。
「しかし、そんなのが実際居るのに都市伝説で怖がるのか?」
秀一のもっともな意見に火姫が眉を顰めて言う。
「それが、不思議なんだけど、魔獣が出ても誰も気にしないの。それなのに、テレビに出てくる妖怪とか、お化けとか怖がるのよ。学校で出てくる魔獣の方が絶対的に強いはずなのに。不思議」
「なにこれ! 常識では、考えられない異常事態って何!」
優美が叫ぶ中、秀一が自分の中でまとめて言う。
「多分それは、人間が解らない物の方により恐怖を感じるからだ。昔の妖怪話の大半は、そういった解らない物に明確な形を作り、少しでも理解し、対処方法を生み出していた。その為、自分の目で見えて、退治される化物より、実際体験していない、噂のほうが怖いんだろう」
納得した顔をする火姫とその火姫を理解力が高い良い子だと頭を撫でる秀一の後ろでは、「転校だ!」「女子校に入学させる!」と騒ぐ優美が居た。
「という事で、今回は火姫のお父さんに、特別保護者として着てもらいました!」
火姫のクラスメイトで、クロスボウを背中に背負った少女、遠糸歩が宣言すると、純和風で刀を持った少女、一文字千剣と明らかに白人の容姿で、マウンテンバイクに乗る少女、ツモロー=ホープが手を叩く。
「どうしてこうなったの?」
何時もより無感情に呟く火姫に歩が笑顔で答える。
「トー姉って保護者が居ないと、夜中の学校探索許してくれなかったんだもん」
理由になってない理由であるが、秀一が苦笑して続ける。
「俺も、少し興味があったからな」
複雑な表情をする火姫。
そして、四人の少女の引率しながら、秀一は、夜の校舎に入っていった。
「それじゃあ、三人とも白風さんとは、知り合いなのかい?」
秀一の言葉に、最初に歩が答える。
「うん。うちのおばあちゃんと知り合いで、今は、家を借りてるよ」
続いて、千剣が答える。
「拙者とツモローの両親は、昔、非合法の賭け試合で本気で戦った事があるらしい」
「昔は、あたい達の両親の方が強かったって言ってたぞ」
胸を張るツモローを横目で見て千剣が言う。
「拙者の両親は、今でも負けない」
「嘘を吐け!」
ツモローと千剣が睨み合う中、歩が平然と言う。
「二人とも本当に仲が良いね」
「「大きな勘違い!」」
声を合わせる千剣とツモロー。
「平然と物騒な事を言ってると、気付いてるか?」
秀一の突っ込みに歩が言う。
「化物が闊歩するこの学園じゃ普通ですよ」
そう言っている間にも、窓から見える校庭に大きな猪を追いかける、三人組の女子中学生が通り過ぎていくのが見えた。
「今のが、歩のお姉ちゃん達?」
火姫の質問に歩が頷く。
「うん。現役の3Sメンバーだよ」
「今のを見て、なんとも思わないのか?」
俊一の言葉に、その場に居た小学生達は、強く頷く。
「日常茶飯事」
「週一は、ある事だよ」
「あの程度の化物でいちいち騒いでられない」
「許可があったら、あたし達がヒットね」
本気で頭が痛くなる秀一だったが、気を取り直して、校舎を進んでいく。
問題のトイレに入り、火姫が言う。
「何の霊気も感じない」
他の三人も頷くと、秀一が奥に入っていく。
そして、一番の奥のトイレから真っ赤な下着を見つけ出す。
それを見て、ざわめく女子小学生達。
「花子さんの遺留物だよね!」
歩の言葉に、千剣もツモローも頷く。
苦笑する秀一。
「残念だけど違うよ。これは、突然生理が来た女の子の下着だよ」
その言葉に顔を赤くする歩以外の三人。
「生理って何?」
歩の素朴な質問に、千剣とツモローがこけて、火姫が突っ込む。
「つい一週間前の授業で習ったばかりだよ」
秀一が納得顔で言う。
「なるほどな、それに影響受けたんだな。その少女も驚いた筈だ。慌てて咄嗟にここに隠して、トイレの花子さんの噂を広げ、近付かなくしようとしたんだろうな」
火姫が歩達を見て言う。
「それが、逆にこの三人を呼び込んだって事だね」
ばつが悪そうな顔をする三人に、秀一が微笑み言う。
「トイレの花子さんは、居なかった。それで良いね?」
頷く歩達であった。
○蒼井秀一学会発表レポート
トイレの花子さんと小学生心理
トイレの花子さんが何故少女なのか、それには、その年頃の少女の肉体の急激な変化に関係あると思われる。
中略
噂を表面的にだけ捉えるのでは、なく、その噂が発生した原因を捉え、対応が必要と考えられる。
民俗学博士 蒼井秀一
「あたしが行けば良かったかも」
話を聞いた優美の言葉に、俊一が肩を竦めて言う。
「まあ、小学校の娘には、色々あるんだろう」
優美が笑顔で、火姫に言う。
「火姫ちゃんは、どんな事でもあたしに相談してね」
火姫が頷く。
「歩達に一緒に4Sやらないって、誘われてるんだけど、どうしたら良い?」
「止めなさい」
顔を引き攣らせながら説得する優美であった。