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宇宙人と、恋と、侵略計画。④

──私は今、彼女が、真花さんが勤めている“あの”店にいる。

 

この店で、一人でコーヒーを啜るのは久しぶりだ。そう──思えば、かれこれ半年以上もの間──私は、“あの“最強のエージェントの相棒であり、戦友だったのだ。エージェント”0000“と言えば──私の故郷では、皆が彼の武勇伝に憧れ──そして、たかが一戦士である彼を、まるで神でも崇めるかのように仰ぎ見るのだ。私は、その男の、最初で最後の戦友になったのだ。こんな名誉なことはないだろう──。

「もう奴に会うことはないのか──。」


 ふいに人の気配を感じた私は、ハッと我に帰り困惑する。物憂げな表情を浮かべていた私を心配したのだろう。真花さんが、まるで──我が子を心配する母親の様に、ただただ優しい瞳を此方に向けていた。


「どうかされましたか。」

「いや、ごめんなさい。ただ、昨夜、、そう、、、眠れなかったもので──。」

 真花さんが、中腰になって私の顔を覗き見たのを感じて、私は言葉に詰まってしまう。

「そう?──何かあったら、気軽に話してね。」


 すっかり冷めてしまったコーヒーを盆にのせ、彼女は厨房へと帰っていった。私は安心したのと同時にまた思い出す。ラモーが殺されたことを──そう、私の“計画通りにラモーが殺されたこと”を──。


「戦友なんて寝言を吐いて──挙句に命を落として、何が戦士だ。──反吐が出るね。」

 私は笑い声を上げてしまわぬように、胸の奥から込み上げる嘲笑いを必死に堪える。私の前にはもう、いないのだ。──そう、私の言動に、きょとんとした“馬鹿面”で応える“あの”男はいない。もう、金輪際、“あの“男に邪魔されることはない。私の計画を、恋路を、”侵略計画“を。


 もしも“あの”男が生きていたなら、また“わからない”という表情で私に質問をするに違いない。私が如何にして、最強のエージェントを陥れたのかを──。



──計画の鍵となったのは、“あの”男の宇宙船だった。


 半年前に、本部への“侵略計画延期”要請をしたすぐ後のこと。私は本部以外に、“ある”場とのコンタクトを試みた。それは──そう、想像がついているかもしれないが、“地球の”いわゆる首脳会談である。私は、地球の人間たちが現状では到底知り得ないだろう知識を、情報を発信し続けた。“あの“男の宇宙船ではなく、私の乗ってきたものを使う手も勿論あった。しかし、やはり前者は、最強のエージェントのものだけあって、彼が今までに経験してきたであろう膨大な量の戦闘データが記録されている。地球の人間が、どれほどに優秀か計りかねる以上は──”最強“の知識を、情報を与えてやるのが確実だと、私は考えた。そして、結果は、私の想像以上のものだった。


 私は彼らの──地球の人間の持つ恐怖心を、過小評価していたと今回──そう、身を持って思い知らされたのだ。彼らは私の情報で、最新鋭の技術を知ると同時に、それを駆り地球を狙う侵略者の存在を知った。いつ侵略が始まるかわからないという──そんな緊張下に置かれた彼らの能力は、彼らより遥かに高い文明を持つ私すらも目を見張るほどのものだった。僅か半年──そう、彼らは、この半年の間で不意打ちとは言え、最強のエージェントである“0000”を抹殺出来るだけの武力を手に入れたのだ。


 そんな彼らの努力に、私も答えるべきだと思った。──そう、そして、私は決心したのだ。私も私の努力を見せる。短い様で長かった──この計画に終止符をうつ時が来たのだ。


「真花さん、お仕事の後に少し、お時間よろしいですか──。」

 空いた食器を運ぶ真花さんを、私は渾身の勇気を振り絞って呼び止めた。

「え、結構遅くなるし、その後も予定があるので、、、」

「本当に少しでいいんですっ。お願いします──。」


 私は、頑な意志を持って頭を下げた。すると彼女は、困ったように笑いながらも「わかりました。」と答えた。


──彼女に告白する、私の全てを。


 私は、本当に滑稽な人間だ。侵略者でありながらその対象に恋をして、故郷を──そして、私を戦友と呼んだ男すら裏切ってまでも──やはり、恋をした。挙句に、最後の最後で私の背中を押したのも“侵略対象”なのだ。



──それから、私は、永久に等しい時間を過ごした。


 彼女の仕事が終わるまで──あと三時間、二時間、、一時間、、、息が苦しくなった、胸が張り詰めた、何度も逃げ出したい衝動に駆られた。だが、逃げない。私が今──そう、立っているこの場所は、報われない努力を貫き通した人間の、その命の上にあるのだ。私は報われるべきだ。こんなにも、懸命なのだから。──そして、こんなにも、成り下がったのだから。


──時計の長針が約束の時間を指した。


 私がまた、ハッとなって顔を上げると──そこには、温かい眼差しをこちらに向ける彼女がいた。彼女は、私の前に淹れたばかりのコーヒーを置き──そして、微笑んだ。


「よかった。」

 真花さんが小さく──そう、呟いたので、私は首を傾げる。

「何が、です。」

「──ふふ。」


 真花さんは口元を手で押えて──そして、笑いをこらえながら此方を見つめる。


「あなた、気付いていないのね。」

「だから、何が、ですか──。」

「この半年で、すっかり顔色が良くなった。」

 よく分からなかった。彼女が何を言っているのか──そして、これから、何を言おうとしているのか。

「“彼”に頼まれていたのよ。“俺の友人の話相手になってやってくれ”って──。」


 心臓の鼓動が激しくなる。だが、今までとは違う感じのもの。


「そうそう、さっき言ってた予定っていうのが、まさに“それ”で。」

 扉が開く音がした。私は後ろを振り返らなかった──いや、振り返ることが出来なかった。

「おっす、大分顔色も良くなったんじゃあないのか。」

「そうなの。わたしやっぱり、カウンセラーとかの才能あるかも。」


 扉から此方に歩いて来る影──それは、仲橋だった。私が我に帰って机をよく見てみると、私の分と真花さんの分──そして、もう一つ、仲橋の分のコーヒーが既に用意されていた。


「二人は付き合ってるのか、知らなかった──。」

 私がそう言うと、仲橋は子供の様な──屈託のない、満面の笑みを浮かべる。

「あぁ、そうなんだ。“あの”合コン以来──な。いやあ、俺の方がすっかり惚れ込んじゃって──。」

「陽気で人当たりが良くて、“この人しかいない“って初めて思えたの。」

「悪かったな。付き合いたてで二人で過ごしたいだろうに、気を遣わせてしまって──。」


 二人は何の嫌味も言わずに「そんなことないよ。」と笑った。同じ時に笑って、同時に同様の言葉を口にしかけては、また笑っていた──。二人はとても幸せそうだった。私のことなど見えていないくらいに──。もう、私などが入る余地がないくらいに。そう、これから先に私がどんな手を使っても、私と彼女との愛が始まることは──もう、あり得ない様に思えた。


「色々と心配してくれてありがとう。この半年間、話し相手がいて励みになった──。」

 どんなに繕っても、もう、私の言葉からは感情が失われていた。

「あぁ、気にすんなよ。俺ら“友達”だろ。」

「そうそう、出来るなら皆、幸せでいて欲しいじゃあない?」



─ガシャアアアン─

 コーヒーカップが床に落ちる音──そして、扉が乱暴に開く音。



 私はついに、耐え切れなくなった──。私は、子供の様な嗚咽を上げて、その場を後にした。どうすればいい。私は全てを捨てたんだぞ──、私は全てを捧げるつもりだったんだぞ。どうしてくれる、どうしてくれる、どうしてくれる──。


「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああっっっっ」

 叫んだ、走って疲れては転んで──まるで、漫画の様だった。


 私が友と呼ぶ存在も、私に愛されるはずだった──そして、私を愛するはずだった女性も、全て私の妄想だった。私には何の価値もないものだった。これから、私は何度も何度も後悔し続けるのだ。私のことを、本当の意味で“友“と呼んでくれた人間を駒の様に扱い、挙句には捨てたことを──。


「ゃく──し───りゃく────。」

 息も切れ切れになって、私の口から出る言葉は、不明瞭だ。


「っこんな──、こんな星、とっとと、侵略すればよかった───。」

 私は振り絞るように怒鳴った。そうだ、さっさと侵略すればよかったんだ、初めから──。こんな星、塵でも掃除するかの様に侵略して、邪魔な“イキモノ”は全て、他の星に売って捌いて殺して──そうすれば、こんなに痛くなかった、苦しくなかった、悲しくはなかった。


「そ、そうだ、、こんな星、、、侵略してしまえばいいんだ──。」






──その日、私の侵略計画が始まった。

 これで一先ず完結します。今後この作品の続編を書くかもしれませんので、その時はまたご覧になっていただければなと思います。ここまでご覧になっていただきありがとうございました。

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