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宇宙人と、恋と、侵略計画。①

──通信が届いた日から、もう三日になる。


 どうしようもない困難に遭遇した私が選んだ選択肢は──そう、沈黙である。私はあれから本部と連絡を取っていない。恐らく、私がこのまま沈黙を続けていれば、不審に思った本部が遅かれ早かれ別の”調査員”を派遣するに違いない。つまり、それまでに良案を考えないと予定通りに”この星”は侵略されるだろう。私は本当に情けない男だ。侵略者でありながら、原住民に”恋”をして──そして、大きすぎる困難を前に、ただ膝を抱えることしか出来ないのだから──。

 

「考えろ、考えるんだ──。」

 私は静かに、顔を枕に埋める。埋めた途端に皮脂の、酷く鼻につく匂いのせいでむせ返ってしまった。


「彼女に会いたいな。」

 ふと、口をついた言葉がそれだった。


 本当に情けない男だよ、私は。仕事を投げ出して子供の様な恋をして、挙句好きな人を守ることも出来ないのだから。──中途半端だ。私に何が出来る? ──ただの”調査員”だから、特に武器も与えられていない。それに、地球外から来たと言っても、地球のメディアに登場する宇宙人の様な驚異的な能力も秘めていない。


──こんなに苦しむくらいなら、醜いほうが良かった。そう、もしも私が地球の人間とは似つかないような異形の姿であったなら、仲橋も──そして、何より真花さんも私を”拒絶してくれた”に違いない。


 何が”会いたい”だ、馬鹿馬鹿しい。会ってどうする──何が出来る。それに、そもそも彼女の連絡先の一つでも聞いたのか、私は。一体何を思い上がっているんだ。──本当に馬鹿馬鹿しい。


 ふと、彼女の言葉が頭を過ぎった。

─このお店も実は私の実家で─


 気がつくと私は、走り出していた。自分で自分の行動の意味が分からなかった。会いに行ってどうする、──会えたところでどうしようもない。頭に幾ら疑問が湧いても足は止まらなかった。髪もぼさぼさ、それに、部屋着の様な見っとも無い格好で私は商店街を駆け抜ける。息が苦しくて吐き気がする。何度も子供の様に転んだ。しかし、それでも足は止まらない。


──たどり着いた。


 ドッと押し寄せる疲労感に、私は冷たくて固いアスファルトに両手をついて倒れ込んだ。


「きゃあ。だ、大丈夫ですか。」

 ずっと聞き焦がれていた声が私の耳に届いた。私が息も切れ切れに顔を上げると、掃除用具を持った真花さんがそこに立っていた。真花さんは、すぐにあの店主を呼び出し私を店内まで連れて行ってくれた。


──しばらくして。


 私が落ち着いたのを見計らったのか、真花さんがコーヒーとお茶菓子を盆で運んできた。盆をテーブルに置いた後に私のすぐ右隣に彼女が座ったので、またも私の動悸は激しくなる。


「どうしたの。こんなに生傷つくって、失恋でもしたの?」

 彼女は私の傷に消毒液を塗りながら、冗談交じりに話す。

「貴女に会うために走って来た、って言われたらどう思う?」

「え?」


 私が意地悪く言うと、彼女は少し考えてからニィと笑った。


「今度は私が走るから、とか?」

 ロマンチスト風の台詞で返された。

「本気で答えてくださいよ。」

「えー、本気?」


 またしばらく、彼女は考え込む。


「うん、決めた。もしアナタが本気でこの台詞言ったなら、私は──」

 二人の間に沈黙が訪れる。だが会話の間にしては少し不自然な様な。

「おーい、どうするの?」

「────。」


─ガシャアアアン─

 入り口の方から大きな音が聞こえた。何だ、何が起ったんだ。嫌な予感がする。三日前に感じた不安と、どこか似ている。私はこちらに刻一刻と近づく足音に気づき、咄嗟に身構えた。


「ご心配なく。時間を止めただけだ。」

 聞き覚えのある声だった。

「お前は──。何でお前がここに?」

「何を言う。察しはついているだろう?」

「──はい。」

 私より一回り大きい体格で、人相の悪い男が立っていた。この男が、そう、私の尻拭いをするために現れた”第二の調査員”である。──私も、政府の対応がこんなにも迅速とは思ってなかった。終わった、何もかも。


「──それにしても、最強のエージェントと名高いお前が私の後釜をするなんて、”この星”にそれほどの価値があるとは思えないのだが。」

 少しでも時間を稼がなくてはならない。私の前に立っているこの男は、”第二の調査員” "エージェント0000"は、私の知る中で最も腕の立つエージェント。つまり、この男が此処に着いた時点でもう地球の命運は尽きたのとほぼ同義だ。


「さぁな。俺も詳しいことは聞かされていない。ところで──。」

 0000が訝しげな目で私を見た。

「どうした?」

「俺は──そう、お前の生存が確認できた段階で”共同戦線を”という命令を受けているのだが──。」

「最強のエージェントともあろうものが、はっきりしないなぁ。」

「宇宙船の損傷が激しくてな。しばらく寝床を貸して欲しいのだが──。」


 私は大きく息を吐き、真花さんを残してその場を去ることを惜しんだ。──この男さえ現れなければ。


「わかった。ついて来てくれ、案内するから。」

「すまんな。恩に着る。」

 こんな些細なことでこいつに、私の真花さんへの好意を知られるのはつまらない。私は自分にそう言い聞かせながら、0000とともに店を出た。

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