表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6

 若い医師に向けられた険しい表情を崩すように、彼は優しく微笑んだ。

その包容力に捕らえらたオレは、ぼんやりと、ただ彼を見上げていた。


「どうかな」

「少し、頭が痛い。」

「話をしていて疲れたんだろうね、静かにしていなさい」

「夕べは、ずっと傍に居てくれたんですか?」

「キミの状態が落ち着くまで、モニターを睨んでいただけだよ」


何度か目が覚めたその時、視界に端に入る白衣の姿。

額の上に置かれたタオルは冷たいまま、何度も裏返して顔の熱を奪っていってくれる。

エライ先生がこんなことまでするんだ・・・不思議と彼が傍に居てくれた事が嬉しかった。


「それで、都築ミナミさん・・・15歳っていうことは・・・」

「4月から高校生です」

「高校はどちらに?」

「T大附属高校に」

「奇遇だね、ウチの末の息子も同じ高校だよ、キミは何科?」

「特進に・・・」

「優秀なんだね、あそこの特進はイイからね、頑張りなさい。

ウチの息子にも、キミのように上昇志向があるといいんだけど、周りに流される傾向があるんだよ。」


愚痴ともとれる家族の話をしながら、外科部長はモニターを見つめてカルテに書き込む。

オレの様子を観察しながら・・・


「ずっと濡れタオルで冷やしたからね、顔の腫れはスグに落ち着くでしょう。

これからも、濡れタオルで。氷嚢で冷やさないように」

「ハイ」

「なにか不便な事はないかな?」

「いまのところは・・・」

「うん、安定しているから心配はないよ、とにかく安静にしていなさい」

「ハイ・・・先生・・・あの・・」

「なんだい?」

「あの、時間があったら、また来てくれますか・・・」

「ああ、そのつもりだよ。じゃあ、また後で」


心地よく響く低い声に安心しながら、彼の後姿を目で追った。

父親とさほど変わらない年齢の男性の暖かな瞳に見つめられると、

胸の奥に、これまで感じたことの無い、暖かな気持ちが生まれる事に気が付く。

ずっと何年も感じたことの無かった感覚に戸惑いながら、オレはその気持ちを失いたくなかった。


目の前で、両親が亡くなって以来・・・容易に他人に開かれる事の無くなった心は頑なまま。

全てを斜に見て、孤独を肌に感じていた。

都築の家に引き取られても、彼らの気持ちは同情、哀れみ・・・オレには不快な情けでしかなかった。

そして、幼かったオレがその中で身に付けたもの・・・それが己を装うこと、若いあの医師のように

ある意味、自分の姿を偽る事だった。


本当の自分はこんななのに、都築の家の中でのオレは、可愛らしいキレイなキレイなお人形さんなんだ。

タカ兄の助けが無かったら、高校に入って一人で暮らす事なんて出来なかったに違いない。

あのまま、アノ家の中で人形のような自分を演じているなんて、ほぼ限界。

こうやって自分を取り戻すような真似を、この1年ばかりの間に繰り返してきた。


キッカケをくれたのは、中2の時に出逢った男。

少しの間付き合ったその男に、色んな事を教えてもらった。

男と女のこと、社会のこと・・・そして、オレ自身のことまでも。

別れてしまった今でも、たまに思い出し懐かしく恋しくなるその男が、オレにとって初めての男だった。

ああ、あの人に逢いたいな・・・逢って、抱きしめてもらいたい・・・オレを初めて受け入れてくれた人だから。


誰もが羨んだ、サラリと流れた長い髪をバサリと切り落としたのは、1年前。

本当の自分の姿を探して街を歩いて・・・いろんな友だちが出来た・・・そして、


自分の本性を知ったんだ・・・


愛されても、決して愛する事の無い、愛を信じることの出来ない自分の性を。

誰だっていいんだ、ただ、オレの傍に居てくれて愛を囁いてくれる誰かであれば。

満足に愛の言葉も口にできなくても、その優しいぬくもりに溺れていたいと願う。



こんにちは、洗井あい です。お付き合い頂きありがとうございました。

ムーンライトノベルズ「ユメのつづき」のラストでハルキとリョウが話していた「ミナミがリョウを好きなワケ」を急に書きたくなって、番外編として登場させてしまいました。

「好きなワケ」は未回答のまま、ミナミを助けたシーンを書いただけに?だって、15歳のヤンチャなミナミは、リョウを「アホ」扱いですからね・・・これが恋に発展するのかいささか疑問が残ります。

少し見えてきたミナミの家庭の事情や、従兄弟のタカ兄が歯科医とかなんとか。

もちろん、ジュン先生はリョウの正真正銘お兄さんですよ・・・相当な不真面目キャラで作るつもりです。

ミナミをイタぶって病院送りにしてしまいましたが、それでもへこたれないんですから流石ですね。

リョウと出会う前までの、ミナミの遍歴とでもいいましょうか・・・ハルキとの出会いや関係も気になるし、奇妙な恋愛遍歴も披露してみたいし、番外というか、ミナミの事情を少し書いていこうと思っています。

この続は、ムーンライトノベル「ユメのつづき」にて連載予定です。10月吉日  洗井あい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ