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ズキン、ズキンと、容赦なく身体に杭を打ち込まれるような痛みで目が覚める。
くそっ、痛み止めが切れた、くぅ、コレって痛すぎぃ・・・激しすぎる痛みに仰け反ってしまう。
手が握ったベッドの柵が、ガチャガチャと大きな音を立てる。
真っ暗な病室の異様な気配に気が付いてか、若い看護士が慌てて走ってきた。
「どうしました?」
「つぅ・・・」
聞くなよ、訴えようにも、こんなんじゃ・・・ムリ・・・「くっぅぅ」・・・額に冷たい汗が流れる。
柵を固く握った手は、徐々に血の気が失せていく・・・痛てぇー
「一応、先生、呼びますね・・・待っててね」
待っててねって、何処にも行けないってのー、身体の不自由さと痛みとで朦朧となりながら
意識失った方が、絶対、ラクになれるよなーなんて・・・イテテ、イッテー・・・
バタバタと看護士の廊下を走る足音が遠のいて行く、ナースステーションでは
他の病室からもお呼びが掛かってるみたいだ。
枕に顔を埋め、息を殺して痛みを我慢していた。
突然、カチャカチャっと医療器具の音がしたかと思うと、腕にアルコール綿が触れた。
「動かないで」
中年の男の声がした。
「MRI は、したのか?」
「明日の朝の予定で・・・」
「まったく、ジュンのやることは・・・今から連れて行きなさい」
痛みに冷や汗を流しながら、僅かばかりに見えた
医者の顔を睨み付けた・・・
「ん?そんな元気があるなら、このくらい我慢しなさい」
我慢しろって・・・ヤブ医者かよ、こいつ・・・あの人に似た医師は言う。
ベッドサイドの明かりに照らされた顔は、無表情で厳しい雰囲気、近寄りがたい印象だった。
「田辺先生がいらしてくれて、助かりました」
「ジュンはどうしたんだ、当直じゃないのか?」
「はぁ・・・そうなんですが・・・ちょっと外出しておりまして」
検査の間中、その医師は片時も傍を離れなかった。
救急救命へ運ばれてきた患者とすれ違うように検査室を移動して、その間中ずっと。
よっぽどヒマな先生なんだな・・・
薬が効いてきて、スーっと痛みが引いていったと同時に、強烈な眠気も襲ってきていた。
身体がフワリと浮いて、ベッドに寝かされた時には、目なんて開けてられなくて
枕元の話し声が、子守唄のように耳に流れていた。
「まだ、子供じゃないか・・・なんなんだ、コレは」
「ジュン先生がお連れになって、大袈裟に騒ぐなとおっしゃいまして」
「すぐにジュンを呼びなさい」
慌てたようにガタガタと開かれた扉、看護士のパタパタと走る足音。
そして、呆れたようなため息が聞こえる。
ややおいて、腫れた瞼に冷たいタオルが押し付けられた。
「身体は、大事に扱いなさい」
父親と変わりない年齢に見えるその男の言葉に、何故だか素直にオレは頷いていた。
「少し頭の中が腫れてるんだけど・・・数日安静にしていれば手術しなくても大丈夫だからね
明日、話をしよう。薬は朝まで効いてるはずだから、安心して眠りなさい・・・」
彼の低い穏やかな声に安堵しながら、オレの身体も心も久しぶりに深い眠りに落ちていった。