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 水・・・水が飲みたい・・・口の中の血なまぐさい匂いに吐き気を覚えながら目覚めると、

見知らぬ奴が傍らで呆けたように眠っていた。

悪ぶって抜いたような茶髪の髪の毛と、あどけない寝顔が似合わなくて思わず笑ってしまった。


コイツがオレを助けたのかな・・・テキトウに貼られた絆創膏の下から、

未だに出血していてる血液が滲んでいる・・・ヤルならちゃんとヤレっての、テキトウ過ぎ。

流れた血が乾いて頬が強張っていた。


軋む身体をゆっくりと起こすと、激しい痛みがわき腹と頭に襲い掛かってくる。

「つぅ・・・」アバラ・・・イってるかもな・・・腕も脚も折れてはいないようだけど、それでもひどく痛んだ。

革張りのソファーには、オレから流れた血が乾いて固まっている。


身体中が熱をもってジクジクと疼いていたけれど、いつまでもココに居る訳にはいかないな。

助けてくれたのは有難いけど、あのまま放って置いてくれたら良かったに・・・

お節介な馬鹿の、暢気な寝顔に反吐が出る。


「くぅ・・・」激痛で気が狂いそうになりながら、テーブルに手をついて立ち上がろうとしたけれど

平衡感覚を失って床の上に四つん這いに手をついた・・・チキショウ、動けっての・・・

ポタリと垂れた血の滴に、少し気が遠のいた気がした。

早く、行こう・・・


這いつくばるような無様な格好で玄関までたどり着き、おぼつかない脚を靴に滑らせたその時、

ガチャリと音を立ててドアの鍵が回った・・・ヤベぇ、誰か帰ってきた・・・

ありったけの力を振り絞って立ち上がったけれど、グルグルと視界が回り始めた。


ユラユラと揺れているのが自分なのか、周りの景色なのかわからないまま

オレの視界に入ってきた男の驚愕した顔・・・笑えるかも、コレ・・・


「おい!」


グラリ・・・歪む、世界が歪んでいく・・・

パタンと音を立て、オレの全てが闇に閉ざされた。


 喉が・・・水、水、水・・・

カラカラに乾いて張り付いた唇に、やさしい甘い水滴が落ちてくる。

もっと・・・もっと水・・・頂戴・・・、陸に打ち上げられた魚のように喘いだ口の中に滴り落ちる甘い水。

「んぁぁ・・・」声にならない声で、渇きを癒すその水を貪る・・・


「・・・もっと」、困ったように微笑んだ男は、傍らのペットボトルの水を己の口に含むと

躊躇することなく、オレの濡れた口に流し込んでくれた・・・生きてる、オレ・・・

柔らかな男の唇の感触にうっとりとしながら、口移しに流れこむ水の甘さに酔った。


「もう、いいかな?あとで水差しを持ってこさせるから」


僅かばかりに頷いて、肺の中の腐った息を吐き出した。

大きく息を吸った途端、激しい痛みがわき腹を襲った。


「くっぅぅ・・・」

「アバラが3本ばかり折れているからね、しばらくジッとしていなさい」


腕に繋がれた点滴と、身体に巻かれた包帯の匂い・・・白い天井・・・

ベッドの上に寝ているオレは、病院へ担ぎ込まれたらしいけど。

コイツ、誰?医者か?


「キミは、リョウの友だちかな?」

「だれ?」

「私の弟の田辺リョウの友だち?」

「しりません」


不可解そうな顔をして、その男は腕を組んだ。

ベッドの脇のイスに腰を下ろして、首から聴診器を提げてはいたけれど、

白衣なんて着ていなかった・・・それより、医者には見えないくらい・・・素敵。


「んー、キミはウチの玄関先で倒れたんだけど、覚えてない?」

「・・・あ」


こいつ、あのお節介ヤローの兄貴なんだ・・・オレの最後の記憶・・・

アイツの家にいて、帰ろうって思って靴を履いて・・・そこで、コト切れたんだ。


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