1
「ボクは夢をみる」番外編「喧嘩上等ッス」
頭がガンガンする。
「病院にいかなきゃダメ?」、こんな痛みぐらいで気弱になって馬鹿みたいだ。
口の中はサビた鉄の味がしていて、舌を動かしたら傷口から血が流れ出た。
身体中がギシギシと痛んで、顔を上げるのもままならない・・・
「・・・クっ」
薄汚れたコンクリートの上にぶっ倒れている無様な自分の姿、なんでこんな目に?
「しかたないだろ、ヒトの女に手を出したんだから」そりゃそうだ・・・相手が悪かったと反省中。
地べたに顔を押し付けられたまま、引きずられて、まさにボロ雑巾って感じ?
もしかしたら、少年Aにしちゃうかもな・・・コイツのこと。
急に可笑しくなって、笑いを必死で押し殺している自分に気が付いた。
「テメー、何笑ってんだ!頭おかしーんか!!」
「グフッ」
腹を思いっきり蹴られた衝撃に、口の中に溜まっていた血を噴出す。
自分の吐き出した血液が、顔にヌルリとくっ付いて気持ち悪いな・・・
彼女を寝取ったくらいで、尋常じゃないよ、まったく。
自分が非力なのはしかたないとしても、正々堂々と相手にならなくたって良かったのに・・・
オレって、ホントのお馬鹿さんってね。
「馬鹿な奴、マサシさんの彼女に手ぇ出すなんてなぁ」
「ホント、どーなるかフツーはわかるよなぁ」
オレ、フツーじゃないからわかんない。
オレとマサシとかいゆー高校生を取り囲んでいる奴らの靴が、僅かに視界にはいるだけ。
きっと目とかスゲー腫れてるんだろうな・・・重くて開かないもん。
ほとんど感覚のない腕で、血溜まりから逃れようと仰向けに身体を転がした。
「うぇ、サイアク」
「マジヤバクね?」
そんなにスゲーんだ。
何がなんだかわかんねー、あー、喉渇いたなぁ・・・
身体中が物凄い悲鳴をあげてオレを襲っているってのに
まったく恐怖を感じないのは、オレが元から現実逃避してるからかもしれない。
「キレイな顔してからって、調子のってんじゃねーぞ、コラ!」
「マサシさん!!」
蹴られるのを覚悟して身構えていたけれど、身体に激痛は走らない。
なんで?
顔のスグ横でバタバタしないでくれる?うっとうしいっていうか
いつ踏みつけられるかって、気がきじゃないんだから。
「もう止めてよ、これ以上ヤったらマジで死ぬって」
「うるせー田辺、ヤらせろ!」
「もう十分だよ、コイツだってわかってるよ」
「・・・チッ!テメー、今度ミホに近づいたら本気でぶっ潰すぞ」
いや・・・もーかなり本気でぶっ潰されてるのに、これ以上ってアルんだ。
親切な誰かさんのお陰で命拾いしたって?お節介なヤツもいるんだな・・・
意識が少しずつ途切れ始めているのがわかる、頭の上でゴチャゴチャとした話し声。
次に気が付くと、奴らの気配は無くなっていた。
このまま死んだりして・・・出血多量?それか窒息死かも・・・
さっき仰向けになったせいで上手く息が出来ない・・・苦しいな・・・コレ・・・
ゴホゴホッと咳き込んだ拍子に、激痛が全身を走り抜け、オレを心地良い世界にいざなっていった。