楽しい反応
さてと、思わず朝食を共にし、お茶で和んでしまった。
よく見ると、目の前の女性は黒髪の長髪でかなりの美人だ。
この人が俺を助けてくれたんだから、御礼しなきゃなんだけど、テンパっている彼女が面白くて、可愛いから、彼女から動くまではしばらくそれを楽しんでいた。
「って和んでる場合ではない!!」
おっ、やっと状況が掴めたらしい彼女は勢い良く立ち上がり叫んだ。
「俺の名前は氷夜。
助けてくれてありがとう。」
「あ、あぁ。
私の名前は月詠 神楽だ。」
なる程、神楽という名前といい、格好といい、どうやらここの様式は古い日本に近いようだな。
あと気になるのは"月詠"という名前の神が日本にもいて、この世界には神様が普通に存在するから何か関係があるかもしれないということか。
「お茶のお代わり飲む?」
「あぁ、頼む。」
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
「神楽って神様なの?」
「ブーー!!」
神様はお茶を思いっきり吹き出した。
「な、なぜ、そんな事を聞く?」
「いや、"月詠"って神様の名前だろ?」
俺は神楽の反応が面白くて笑いを堪えながら答えた。いや、若干堪えきれずに笑っていた。
「何故、貴様がそんな事を知っている?」
いきなり神楽の雰囲気が変わった。
しかし、俺にはそんな事よりも重要な事があった。
「氷夜。」
「は?」
「貴様じゃなくて、氷夜だから。」
少し拗ねて言ってみる。
すると神楽は顔を赤くしてしまった。
やっぱり可愛いな。
この時、神楽は氷夜の拗ねた顔に先程までのクールな感じとのギャップで思わず顔を赤めてしまったのだがもちろん、氷夜は知っててやっている。
「あぁ、もう分かった、氷夜。
これでいいか?」
「あぁ神楽。」
氷夜が嬉しそうに答えるのを見ていると神楽は完全に毒気が抜けてしまった。
「はぁ、氷夜と話していると調子が狂うな。
話を戻すが、何で"月詠"のことを知っているんだ?」
先程と同じ質問だが多少緊張感はあっても先程のような威圧感はなかった。
「俺の世界では一般的だよ。」
"月詠"と言ったら日本では有名な神様だったしな。
確か夜を司る神様だったか?
「きみ…氷夜の世界?」
きみと言おうとした神楽を睨むとすぐに言い直してくれた。
やっぱり楽しいな神様は。
「あぁ、異世界から来た。と言って信じてくれるか?」
突拍子もない話だから信じてもらえるとも思えないが。
「氷夜は異世界人か!?」
意外にすんなり受け入れられたな。
「俺の他にもいるのか、異世界?」
「いる。ここ数年の間に現れて、天界に戦争を仕掛けてきている。」
いや〜、俺らがいなくなって異世界交流が盛んになってるね〜。
「天界?」
「そうか、氷夜が異世界人だから分からないか?」
「そうだね、言葉以外は何も知らないと思ってくれて構わない。」
大ざっぱに魔法のある世界というくらいしか俺はこの世界を知らない。
「じゃあ、少し説明すると、世界は、魔界、人間界、そしてここ天界の三つに別れていて、それぞれに魔力を持つ魔人、能力を持つ人間、霊力を持つ天界人が住んでいる訳。」
「魔力、能力、霊力の違いは何?」
「それぞれ魔力を使って魔法、霊力を使って霊術が使える。
そこには火や水といったたくさんの属性があり、魔法も霊術もそこは変わりない。
ただし、闇属性は魔法、光属性は霊術でしか使えない。
この説明で分かったか?」
「大体は理解した。
けど、能力はどうなんだ?」
「能力については、さっき言った属性を一種類だけしか使えない。その代わり、その一種類の能力が高いのが特徴だな。」
なるほど、能力に関しては俺の世界と大差なしか。
「けど、能力は人間全てが使える訳ではないからな。確かに能力は強力だが、使えるのは一握りの人間だけだ。だから種族全体を見るとそこまでの脅威ではない。いや、"なかった"と言うべきか。」
「"なかった"ってのは?」
「氷夜は異世界人で能力者だな?
何の能力かは分からないが白猪を倒したのも、足が治っているのもその能力のためだろ?」
まぁ、俺の場合は普通と違って随分と応用がきくがな。
「確かにそうだが、それがどうした?」
「天界に攻めて来ている異世界人もほとんどが能力者なんだ。
まさか人間にここまで苦戦を強いるとは思ってもなかったからな。」
あいつら、本気で侵略でもする気かね?
「って事は俺の立場は危ない訳だな。」
「……そうだ。」
「で、俺は神楽に見捨てられて、野垂れ死ぬ訳か。」
別に一人でも生きていけるけど、何となく神楽ともう少し一緒にいたかった。
俺が一緒にいたいと思うなんて、白夜とマゼリナ以外では初めてだな。
「いや、私もできる限りのことはするから!!」
俺が悲しげに振る舞うと、神楽は慌てて答えた。
(っく、何でそんな捨てられたら子犬のような目で私をみるんだ…)
「よし、じゃぁ、俺を神楽の家に泊めて。」
俺のお願いを聞いた神楽の顔は暗いものになっていった。
「すまない。黙ってるつもりじゃなかったんだが、私はこの国の姫なのだ。」
「という事は……」
「あぁ、すまな「俺を泊める部屋もあり余ってる訳だな。」」
「待て、聞いていたのか氷夜?
私は姫なのだぞ?」
「だから?」
「私の勝手で決める訳には…」
「…………(捨てられた子犬の目)」
「そんな目で見られても…」
「…………」
「私にも責任が…」
「…………」
「そんな私を信頼仕切った目で見ないでくれ…」
「…………」
「分かった、分かったから。
私がなんとかする。」
「(勝った。)」
思わずガッツポーズをしてしまった氷夜だった。