来客
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世界が本当に俺達三人だけたった頃。
それはまだ白夜もマゼリナと俺以外には心を開いていなかった頃だ。
既に俺達は戦闘に投入されていたし、"神羅"の最強戦力として扱われていた。
何度か危険過ぎる戦力として処分する案はでたらしいがそもそも、俺達を処分できる奴がいないのでその案は却下された。
あの日から俺達に注がれるのは愛ではなく恐怖の視線。
俺達の心はひどく歪んだが、壊れはしなかった。
一人では耐えられなかったかもしれないが、三人だから耐えられた。
俺達はいつも三人で遊んでいた。
「「チェックメイト!!」」
白夜とマゼリナはチェスが好きだった。
「なんでおまえ達はそんなに息が合うんだ?」
俺は白夜にもマゼリナにも個人で戦えば負けない。
しかし、白夜とマゼリナが二人掛かりで俺と戦うと何故かいい勝負になる。
どう考えても二人で協力できるようなものでは無いと思うが、二人はお互いの弱点をカバーするかのように良い手を打ってきた。
「今日から俺の事はキングと呼んでくれ。」
「じゃあ、私はクイーンだね。」
白夜とマゼリナは得意げに言う。
「まだ俺の方が一勝多いだろうが!!」
「よしマゼリナ、後二回勝つぞ!!」
「お〜!!」
結局、俺達の勝負は引き分けで終わった。
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俺達は祭りをたっぷり堪能したので、家に戻ってくる頃には日をまたいでいた。
もちろん、あの後も神楽と俺は指を絡まして手を繋いだままだった。
余談だが、俺に襲いかかり神楽に沈められる奴の数は倍増した。
明日、まぁ正確に言えば今日は稽古も霊術の修行もあるので、神楽も俺もそれぞれの部屋に戻り眠ることとなった。
俺の部屋に入るとそこには蒼い髪の美少女がいた。
「はじめまして、氷夜。」
俺が気づけなかったのは検索ではそこに存在を確認できなかったからだ。
どうやら、そいつは物質量のない何かのようで、本体は別にあるらしい。
俺はその女を無視して布団に潜る。
「ちょっと何で無視するのよ!?」
その女は俺に叫ぶが質量がないため触れることはできない。
「なに?
うるさいんだけど。」
「いやいや、もっと反応してくれてもいいじゃない。」
「おやすみ。」
俺は実害がないから放っておく。
「あ〜、もう!!
要件を話すからちゃんと私の話を聞いて!!」
「……仕方ないな。」
これ以上うるさいと神楽も起きてしまうので、渋々起き上がった。
「で?」
「魔王になって頂戴。」
「やだ。」
話は終わった。
さぁー寝よう。
「氷夜が嫌って言ってもダメだよ。
私が決めたんだから」
まったくもって面倒臭い奴に捕まってしまった。
「一応聞いてやるよ、何で俺が魔王に決められてるんだ?」
魔王というのはたしか魔界を治めている内の一人だったはず。
「氷夜の攻撃が美味しいから。」
意味が分からない。
「そういえば何で俺の名前を知ってる?」
「私は何でも知っているわよ。」
「あっそ。」
「少しは驚いてよ〜!!」
もうどうでも良くなった。
「そもそも魔王って何だ?」
「魔界を統べる王のこと。」
「おかしくないか?
魔界を統べるのは六大魔将で、魔王はその内の一人だろ?」
少なくとも俺は神楽からそうきいた。
「表向きはそうよ。
けど魔王の保持する戦力が圧倒的だから、事実上の王と言って差し支えないわ。」
「一体どれくらいの戦力を保持してるんだよ?」
「七人」
俺は無言で布団の中に戻る。
「待って待って、確かに七人だけれども、七人とも覇族なのよ!」
俺は顔だけそいつに向けた。
「覇族ってなんだよ?」
「魔将や神と同じくらいの力を持った魔物のことよ。
力を持ちすぎた魔物は他の魔人達と同じように思考できるようになるの。
そして魔人と同じように思考できるからそれは魔人として扱われるようになったのよ。」
「確かに一人で神七人並みの戦力を保持しているなら納得だな。
だけど、よくそんな力を持った奴らが魔王に従うな。」
「魔王の条件は私達一人一人に勝つことだから。
私達は私達より弱い者には従わないもの。」
"私達"ということはこいつも覇族なのだろう。
つまり見た目は美少女だが実はめちゃくちゃ強い訳だ。
「じゃあ、覇族内で王を決めろよ。」
「ダメダメ、私達は同じ覇族に指図されたくないの。
だから、覇族以外の誰かを王におくのよ。」
「俺、人間だけど?」
「問題ないわ。」
おっと、待て待てこれは、まるで俺が魔王になるような流れじゃないか。
「とりあえず、俺は魔王にはならないから。」
「別に王ってのはあなたがなるかどうかを決める物じゃないわ。
周りがその人を王と認めればそれは紛れもない王なのよ。」
…なぜか説得されそうになってしまった。
とりあえずは無視することにする。
「まぁ、いずれ氷夜は私と戦うことになるから。
そういえば、名前を教えてなかったわね。
私の名前は葵。
じゃあ、またね〜。」
勝手に言葉だけ残して葵というらしい奴は消えていった。
「ったく、面倒臭いな…」
それでも俺が葵の言葉に最後まで耳を傾けていた。
それは葵の目がまるであの日の俺のように曇っていたからだ。
愛を知らない目をしていたあの日の俺と同じ。
「葵……か。」
一応名前は覚えておいてやるよ。
俺が名前を覚えておくことはかなり珍しい。
それほど、俺にとってその目は印象的だった。