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お祭り



††††††††††††


私達は氷夜が作った扉のようなものを通り、借り屋に戻ってきていた。


「神楽は浴衣とか着ないの?」


一応、浴衣一式を持ってはいるが、アレは動き難いので私はめったに着ない。


「……着て欲しいのか?」


「うん。」


こういう時の氷夜の笑顔に私は弱い。

おそらく氷夜もそれを知っていてやっているのだろうからたちが悪い。


「はぁ、仕方ないなぁ。」


結局いつも氷夜のお願いを了承してしまう。


「着替えるから、外で待ってろ。

覗いたら、ここから追い出すからな。」


「それは困るね。」


氷夜が外に出て行ったのを確認し、私はしまってあった浴衣を取り出して着替えた。


料理はできないが、こういう着付けは姫の嗜みとして習わされていたので、問題なく一人で着替えられた。


「氷夜、入ってもいいぞ。」


入ってきた氷夜は私を見たとたんに固まった。

今までの経験から、氷夜は私を見た瞬間、ベタ褒すると思っていたので、少し心配になる。


「どこか変か?」


「……いや、綺麗だよ。」


氷夜は私のもとに歩み寄って、私の手を取り顔を私の顔に近付けてきた。


「だから襲っていい?」


なんで私は氷夜に襲われそうになってるんだ!?


からかわれてると分かってはいる。

分かっていても目の前にある氷夜の整った顔に見つめられて顔が赤くなることを防ぐことはできなかった。


「いいわけあるか!!」


「じゃあ、今日はこれで我慢するよ。」


氷夜は手に取っていた私の手をそのまま握った。


「まったく、しょうがない奴だな。」


私もその手を握り返した。












「神楽、あーん。」


氷夜は私の持つパックからたこ焼きを取って私に差し出してくる。


「あーん。」


この"あーん"攻撃は避ける事が不可能なのは経験済みなので、抵抗することなくそれを受け入れる。

しかし、そこで私は周りの視線に気付いた。


……もしかして私はかなり恥ずかしい姿を人前に晒しているのではないか?


「なぁ、人前でこういうことをしたくはないんだが?」


「でも、これ以外に方法がないよ。」


私は右手にたこ焼きを持ち左手は氷夜と繋いでる状態でたしかにこの状態から私一人でたこ焼きを食べるのは難しい。


「手を離せばいいだろ!」


「ダ〜メ、離さないよ。」


手を振り、氷夜の手を離そうとするが、どういうわけか氷夜の手は離れない。


「はい、あーん。」


はぁ、もう諦めた。

なんだか氷夜に調教されている気もしないでもないが………。


「もう、分かった。

その代わり、このたこ焼きは氷夜が持ってくれ。」


氷夜は不思議そうな顔をしながらも、私の持っていたたこ焼きを持つ。

そして私は氷夜が持っていた楊枝を受け取る。


「氷夜は昼飯も食べてないんだから、食べなきゃダメだぞ。

ほら、あーん。」


これは"あーん"する方も案外恥ずかしい。


氷夜は嬉しそうに食べてくれた。

たしかに氷夜に食べさせるという行為はなかなか楽しいものだった。




私達はその後、いろんな店を回った。

その間も氷夜とずっと手を繋いでいたので、知り合いと出会う度に勘違いされ、祝福されたり、からかわれたりした。

中には何故か泣きながら氷夜に飛びかかるという過激な祝福もあったが、そのあたりは全て私の拳で沈めておいた。

おそらく、祭りの雰囲気に悪乗りしてしまったのだろうが、それは節度を守るべきだと、身を持って教えてやった。











「氷夜、すまないお手洗いに行ってもいいか?」


どうやら少し水分をとりすぎたらしい。


「構わないよ。」


「そうか、なら手を離してくれ。」


「え……」


氷夜は迷子の子猫のような目で私を見つめてくる。

しかし、いくら氷夜に弱い私でも、これは越えられない一線だ。


「氷夜、帰ったらまた繋いでやるから。」


「それなら許す。」


子猫から一変、かなり上から目線で言われた。

私一応、姫なのだが……


なっとくはいかなかったが私はお手洗いに向かった。








††††††††††††


へ〜、この世界にも公衆トイレってあるんだ〜。


俺はかなり下らないことを考えつつ、また一人、俺達をというより神楽をつけ回す所謂ストーカーを排除した。

排除とはいっても"どこでもドア"で街の別の場所に移しているだけなのだが。


だが、これで排除したストーカーが十人。

直接攻撃してきて神楽に沈められたのが三人。

道で俺に呪うような視線を送ってきたのも含めると数え切れないほどの男が神楽に好意を寄せていることが分かる。


「やっぱり神楽は人気があるなぁ。」








「や、やめてくれ!!」


すると、近くから叫び声が聞こえた。


見ると数メートル先の店の前で柄の悪い兄ちゃん達が大人の男を殴っていた。


「しっかり諸場代払ってくれれば、こんなことはしないんだよ?」




うん、どこの時代にも悪い奴はいるもんだ。

けど、天界人にもヤクザさんはいるんだなぁ。


と、俺はそんなことを考えていた。

因みに助ける気などない。諸場代を払うのがルールならそれをすべきだろう。

できないなら、ここで店を開くべきじゃなかったし、知らなかったなら調べるべきだったのだ。

既に大人になった人は自分で起こした事の責任は自分でとるべきだろう。


俺は見てみぬふりをし、神楽を待った。

神楽なら助けるのかな?

そんなことも思いつつ。




「パパを虐めるな!!」


ほんの小さな八歳ていどの男の子がその男を庇っていた。

言葉からして息子なのだろう。


「この社会のゴミくずめ!!」



最近の子は凄い言葉を知ってるな……

その子の言葉には驚いたがその内容には同意した。


「てめぇ、子供だから殴られないとでも思ってんのか?」


柄の悪い兄ちゃんが棒のような物を振り上げる。

その子の父親である男は恐怖で腰が抜けてるのか子供を庇おうとしていない。


「死んだらゴメンな!!」


そして、その棒が子供に振り下ろされた。









「やめとこうか、社会のゴミくずさん。」


すんでのところで俺の腕は子供を庇った。

そのまま素手で棒をへし折り、兄ちゃんをそのまま殴り飛ばす。


「死んだら、ゴメンな。」


さすがにこんな人目につくところで殺す訳にはいかない。

俺は殺気を男達に当てた。

男達はビビってそのまま逃げていってくれた。




俺は人は嫌いだが、基本的に子供には優しい。

というのも、子供の頃に人生をねじ曲げられた経験のある俺は子供の人生をねじ曲げるのを良しとしなかった。

だが、これはただの偽善に過ぎない。

その証拠に俺は一度助けた子供が大人になり俺の敵となって現れれば迷わず殺すし、仕方ない場合も迷わず殺す。











「大丈夫かい?」


「あ、ありがとう。」


俺は子供の頭を撫でてから神楽のもとに戻る。


「ありがとうございました。」


その子の父親も頭を下げてくるが、俺は殺気すら込めた冷たい視線だけ返した。

子供を危険に晒し尚且つ庇うことすらできなかったその男は嫌悪に値した。













「氷夜、格好良かったぞ。」


神楽がお手洗いから出て一部始終を見ていたのは分かっていた。


「そうでもないよ。」


「照れるな、照れるな。」


俺は神楽の手を再びとり今度は指を絡ます。


「じゃあ、これはご褒美ということで。」


「ま、待てこれはさす…」


俺は神楽が何か言い終わる前に歩き出した。














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