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稽古



俺達は今、"どこでもドア"をくぐって聖森にいた。


「私は湖のほとりで稽古をしているが、氷夜はどうする?」


「俺はここで横になって見てるよ。」


神楽は既に完全な巫女服に着替えており、その長髪の黒髪にあいまって、とても魅力的に感じた。

神楽は手に持った自分と同じ名を持つその"神楽鈴"を鳴らす。


「シャン」


その瞬間、時が止まった。


「うん?」


時間にして一瞬。

鈴の音が広がった後のほんの一瞬。

それでも神楽は時を止めていた。

しかし、神楽はそれに気付く様子もなく、美しく舞い始める。


「シャン」


俺は周りに極少量の"リリス"を張り巡らせ、僅かに止まるその時を燃やした。

そのことにより、俺はいちいち止まることなく、神楽の舞いを鑑賞できる。












一時間が経った。

どうやら舞いも一区切りついたようで、神楽はこちらに歩いてくる。


「どうだ?」


「可愛いと思うよ。」


「?」


「その巫女服姿。」


「そんな事を聞いてはいない!!

いや、嬉しくない訳じゃないがな。」


いちいち顔を赤くして反応する神楽はやっぱり可愛いくて、見てて飽きない。


「神楽、一つ訊いていいか?」


「構わないが。」


「神楽は時を止める霊術を使えるの?」


「……私がか?」


神楽は身に覚えがないのか、不思議そうな顔をして聞き返してきた。


「そう。

神楽が舞っている時にその鈴の音が響いた瞬間だけ時が止まるんだよ。」


暫く思案顔になる神楽。


「私には身に覚えがない。


だが、有り得ない話でもないか……」


「どういう事?」


「霊術と魔法は基本的には同じなんだが、根本的な発動方法が違うんだ。

霊術は詞でそれを発動させ、魔法は文字でそれを発動させる。

もし、この鈴の音が詞となり、それを私が無意識で発動させていたと考えれば一応辻褄はあう。」


「なるほどね。

試しに、霊力を込めて鳴らしてみて。」


「分かった。」


神楽の霊力が"神楽鈴"に流れて行くのを感じた。


「シャン」


刹那、今までよりもかなり強力な時を止める力が放たれる。

しかし、その多くは拡散してしまい、長くなったとはいえ、止まったのは一瞬といって差し支えない程の時間だった。


それを近距離で浴びた俺の周りの"リリス"はそのエネルギーに応じ肉眼で捉えられる程の黒炎となる。


「きゃっ!!」


普段の口調からは考えられない可愛らしい悲鳴が神楽から上がった。


「ごめんごめん、そういえば、まだ俺の能力の説明をして無かったね。

俺の能力は重力と闇を操る事。

闇っていっても重力によって生み出した未知物質(ダーク・マター)の事なんだけどね。

で、今のはその未知物質(ダーク・マター)の応用で生み出した黒炎、"リリス"って言うんだ。


それにしても神楽、凄いよ。

時を操るなんて俺の世界にはそんな奴、いなかった。」


時を"創り出す"っていう荒技なら白夜がやってたけど。


「この世界でもそんな霊術は聞いた事がないな。」


先程のかわいらしい悲鳴をまだ気にしてるのか、神楽の顔は少し赤かい。


「どうする?

その力、鍛えてみる?」


「そうだな。せっかく使えると分かったんだから使いこなしてみたいな。」


俺はこの力に俺達、能力者の"神格化"つまり概念にまで及ぶ力に似た物を感じていた。


「じゃあ、俺も手伝うよ。

それにここなら俺が能力を使っても誰にもバレないしね。」


「そうだな、よろしく頼む。」


万が一、神楽の力が暴走した時の為に俺は神楽の特訓の相手を勤めることにする。


「だが、今日は祭りもこの後控えてるんだし、舞いの稽古だけにしておいて、特訓は明日からでもいいか?」


「そうだね。

じゃあ、そろそろお昼だしお弁当にしようか。」


俺は持ってきたお弁当を広げた。


「……氷夜、よくあの短時間でここまでメルヘンチックな物ができたな。」


今日のお弁当は、ニンジンをウサギの彫刻のように削った物や、ブロッコリーの上に鳥の形に切ったカマボコをのせた物。

後は無難に唐揚げとタコさんウインナー。


「頑張れば何とかなるものだよ。」




「なぁ氷夜、箸が一つしかないんだが?」


「おかしいな〜、忘れてきちゃったかな?

でも、一つでも大丈夫だよ。

ほら、あーん。」


俺はタコさんウインナーを箸で掴み神楽の口に運ぶ。


因みに、箸が一つしかないのは勿論わざとだ。


「待て、私は別に手掴みでも大丈夫だ!」


俺は神楽の言葉を無視し、タコさんウインナーを更に近付ける。


「うっ。」


神楽はのけぞり、それ以上後ろには下がれない。


「はい、あーん。」


俺のタコさんウインナーが神楽の唇に触れた。

神楽は観念したようでそれを口にした。


「うん、美味いな。」


そこから先は神楽は従順なもので、俺が差し出したものを余すことなく、食べてくれる。

正直、雛鳥にご飯を与えているようで可愛かった。

気がつくと俺が用意したお弁当は空になっていた。


「……すまん、氷夜の分が無くなってしまった……」



「別に構わないさ。

元々神楽の為に作ったものだしね。

それに俺は小食だから全然腹は減ってないよ。」


俺は空気中から養分を取り入れる事が可能なので、極論、何も食べなくても生きてゆける。



「それなら良いのだが…」


「その代わり、お祭りでは奢ってくれよ。」


いつかの暗殺者から頂いたお金は既に底をついていた。


「父上に氷夜に給料を払うよう言っておこう。」


「俺は神楽がいればそれで良いよ。」


「金銭的な意味で言われても嬉しくないな。」


神楽は苦笑い。



「この世界に神楽さえいてくれれば、それで俺は満足だよ。」


俺は神楽に顔を近付け、頭を撫でながら、割と真剣に言った。


「ちょ、調子にのるな!!」


神楽は顔を瞬時に真っ赤に染め、目にも留まらぬバックステップで俺から離れる。

いや〜、神楽の反応は楽しいなぁ。


「もう稽古に戻る!!」


神楽は怒った口調で戻っていってしまった。

が、俺は神楽の顔から笑みが漏れているのを見逃さない。


その後、稽古は夕暮れまで続いた。















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