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出会い②


「王、また姫君が脱走されましたぞ!!」


「またか…、神楽にも困ったものだな。」

この国、「円」の玉座に座る王は毎度の娘の脱走に頭を抱えていた。


「いかがなさいましょう。」


「なら聞こう、この国で神楽を止められるものがいると思うか?」


そうなのだ、神楽は生まれた時から極端に霊力が強くその上、体術にも優れている為、もはや円では、彼女の師匠であり、武官長のカリスくらいしか相手にならないのであった。

しかし、カリスは彼女に甘い為、戦力外なのだ。



「カリス殿は…無理ですね。」


「まぁ、良い。おそらく、またカリスの下に転がりこんでおるのだろう。

いつも通り、監視をつけて報告させろ。」


「御意。」


「はぁ、儂もカリスのことは言えんかのう…」

何だかんだ言って、王も娘には甘かった。










「はぁ!!」


「ぶはっ」


彼女、神楽の前には屍の山があった。


「神楽様、もう少し手加減して差し上げてはどうでしょう?」


神楽に話かけたのは耳の長い老人で、円では珍しいエルフである。

もう齢、三百を超えており、裏から円を支えてきた人物でもある。


「カリスか。

これでも手加減している。しかし、将来はこの国を守る者なのだから、甘やかす訳にもいかないだろ?

それに最近は"人間"の動きも活発化しているしな。」


「いやはや、お厳しいですな。」


そういい、カリスは苦笑した。


「神楽、また王朝から抜け出して来たのかい?」


「おやおや、新入りを殺さないでくださいよ。」


稽古場に入ってきたのは神楽の兄弟子達で、今では高位の武官達である。


「はぁ、女だと思って油断してたんだろうな…、可哀想に。」


「いや、例え油断してなくとも神楽には勝てないだろ。」


「失礼な奴らだな。」


彼らは彼女と古くからの付き合いであり、身分を考えずに話せる数少ない友人である。


「そういや神楽、また貴族に求婚されたんだって?」

この国の王族の女性は特別であり、ある役目を担う代わりに結婚は気に入った者とする事ができる。



「ああ、すっぱりお断りしたけどな。」


「神楽は美人だし気立てもいいから男がほっとかないだろうよ。」


事実、神楽はこれまで多くの人達に求婚されてきたが、全て断ってきた。

しかし、その数は止まることを知らず、この道場内でも神楽に密かに思いを寄せている者が数多くいた。


「私はまだ十六歳だぞ?

結婚なんぞしてたまるか。それに、今まで求婚してきた男は私の好みではなかったしな。」


「じゃぁ、神楽の好みの男性ってどんなのだよ?」


「私を守ってくれる男だな。」


「いや〜、無理じゃないか?」


「分からないだろ!!

私だって女だからな、守ってくれるような男に憧れるんだよ。」


顔を赤くして照れる神楽の破壊力は凄まじく、ここにいる全ての男を魅了した。


「じゃあ、私は聖森の湖で体を清めてくるから。」


照れ隠しをするように神楽は急いで道場を後にした。










「森が怯えている?」


聖森を目の前に神楽は違和感を感じていた。

この森は聖なる湖があるため、魔物は近付けない筈である。勿論、湖の影響のない森の深部には強力な魔物が存在するが、湖で水浴びをする予定の私には関係ない。



「山賊でもいるのか?」


例えそうだとしても山賊ごときが何十人束になって現れようが、神楽の霊術の前では紙屑同然である。

よって問題ないと判断した神楽は聖森に足を踏み入れた。










「やっぱり、おかしいな。」

湖に続くいつもの道を歩いていると段々と違和感が濃くなっていくのを感じた。

「(いや、これは気配?

しかし、もしこれが気配なのだとしたら、よっぽど強力な魔物でしか…)」



「「£%#&¢$」」



神楽の推測を肯定するかのように、遠くから魔物の雄叫びが聞こえた。



「(馬鹿な!?

ここは湖のすぐ近くだぞ?こんな場所に魔物が現れる筈がない!!)」


そう思いながらも神楽は魔物の声がした方へ駆けていく。


「$¢&#%!!」


またしても魔物の声が聞こえたが、その距離はそう遠くではない。





次の瞬間、大地が揺れた。




揺れが収まると同時にさっきまであんなに濃かった魔物の気配が消えているのが分かる。

何があったのかと、魔物の気配があった方へ向かうと一人の男と巨大な猪、"白猪"が倒れていた。

更に、"白猪"を中心に巨大なクレーターが生じている。


「この男が殺ったのか?」


白猪は森の最深部に潜む強力な魔物だ。

人里にはめったに現れず、ましてや聖森でなど絶対に見かけない。

一度、現れようものなら、国軍を出すようなレベルの化け物だ。

私でも、負けはしないが、苦戦を強いられるだろう難敵である。

それを私と同じくらいの年齢であろう男が一人で倒したのだから驚愕に値する。



少しの間、呆然としていたが、すぐに我に帰り、全く動かない男の方へ駆け寄った。



男の顔を見るなりまた違った意味で驚愕した。


そこには黒髪の美青年が横たわっていた。

見たこともないような美形の顔に気圧されつつも、体を起こし、怪我がないか確かめる。



上半身は何の異常もない。そして下半身へと目を向け足に触れた瞬間、その違和感に気がついた。


「右足が…」


もはや骨折などという生易しい状態ではなく、見た目は足だがもう、歩くことは出来ないだろう。


「可哀想に今、医者に連れて行くからな。」


神楽は回復霊術を使えない自分を歯がゆく思った。



そして男を持ち上げた瞬間今更ながらにこの男が天界人でない事に気がついた。


「お前、人間か?」



これはまずいことになった。

普段なら何の問題もないが今、円を含む天界は人間に戦争を仕掛けられているのだ。

しかも見つかった場所が聖森となれば処刑は免れないだろう。



そこまで考えた神楽は王朝にこの男を運ぶのを諦め、湖のほとりの小屋に運びこんだ。






小屋につき、ベッドに男を寝かせ、布団をかけ、額に濡れた布をあてがった。



彼が心配ではあったがこれ以上長居すると聖森に入れず待機しているであろう私の見張りに怪しまれるので白猪の死体を処分してから帰る事にした。










「………死体がない。」



おかしい、クレーターは残っているのだからここに白猪の死体があったのは間違いない。しかし今、白猪の死体があった場所には何もなかった。



薄気味悪いものを感じながらも神楽は聖森を後にした。




††††††††††††


翌日、昨日の彼が心配だった神楽は朝食も食べずに急いで小屋に戻り扉を開けた。



「あはよう。朝ご飯もう少しでできるから座って待ってて。」


そこには昨日の美青年が朝ご飯を作る姿があった。


「あ、あぁ分かった。」


思わず男の声に従い、椅子に座ってしまうと、いよいよ頭が混乱してきた。



「(おかしい、彼は大怪我をしている筈であんな風に朝食を用意できる訳がない。

そもそもなんで昨日の足で歩けているんだ?)」



「お待たせ。ご飯と焼き魚しかできなかったけど、どうぞ召し上がれ。」



混乱する頭でひたすら考え、知恵熱で茹で上がりそうになる神楽の前に美味しそうな朝食が用意された。


「い、頂きます。」

恐る恐る、焼き魚を口にする。

すると、焼き加減といい、塩加減といい、文句なしの美味しさだった。


「うまい!!」


「それは良かった。

おかわりもあるからゆっくり食べてね。」



あまりの美味しさに夢中で食べてしまった。


「御馳走様でした。」


「お粗末さまでした。

はい、お茶をどうぞ。」


「ありがとう。」


「「ズズー」」


「「ほっ」」








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