寝顔
「……ここはどこだ?」
私は浴衣で布団に寝かされていた。
「たしか、露天風呂で…」
あの後、氷夜が私のことをからかってきてそのまま……
「のぼせちゃったのか。」
「あっ、起きた?
まったく、のぼせて倒れるまで俺と遊びたかったの?」
「あぁ。
良かった元気になったみたいだな。」
まだのぼせているのか意識が朦朧としており、私は氷夜の意地悪にも真面目に答えていた。
「不思議だよね、神楽って。
俺、どんどん神楽に惹かれてるよ。」
神楽はまた眠ってしまい、その言葉が届くことはなかった。
「ほら神楽、何か飲まないと脱水症状を起こすよ。」
体が揺さぶられ、氷夜が私を呼ぶ声が聞こえるが、私はまだ起きたくない。
「眠い。」
「とりあえず、水だけでも飲んで。」
「わかったわかった。」
話半分で私は返事をし、それを実行する気はなかった。
「仕方ない、口移ししよう。」
「!?」
瞬間、私は氷夜から距離をおく。
危なかった、危うく私のファーストキスがこんな情けない理由で終わるところだった。
「遠慮しなくてもいいのに。」
「氷夜のおかげで一気に目が覚めたよ。」
そして、覚醒した私はあることを疑問に思う。
誰が私を着替えさせたんだ?
「なぁ氷夜、まさかとは思うが、氷夜が私を着替えさせたのか?」
「いや、残念ながら女将さんがそれはやってくれたよ。」
よかった、氷夜なら理由があったら喜んでやりそうだからな。
「でものぼせた神楽をここまで運んだのは俺だよ。」
全然よくなかった……
「氷夜、まさか私に何かしてないよな?」
「さ〜て、それはどうでしょう。」
氷夜はこの上なく意地悪な顔になっていた。
私はとりあえず体に異常がないかを確認した。
「あと神楽、下着を脱ぎっぱなしにするのはどうかと思うよ。」
「なっ!?」
そ、そういえばあまりにも緊張しすぎていて、下着やら服やらをしっかり片付けるのを忘れていた!!
「俺の前以外でそういう事はしちゃ駄目だよ?」
「く、屈辱だ……
せっかく氷夜が喜ぶと思ってやってやったのに…」
もう顔は赤いし、不甲斐ないし、氷夜にはからかわれるし最悪だ。
「神楽、ありがとう。
おかげで俺はかなり救われたよ。
でも今はお水を飲んで暫くお休み。」
氷夜は私の近くに腰を下ろすと、私の頭を手で持ち上げそこに自分の膝を入れて私の頭を戻した。
「ほら、膝枕。」
「普通は逆じゃないか?」
「じゃあ、今度は神楽がしてね。」
「前向きに考えておく。
それにしても、氷夜は良い匂いがするな。」
今夜はよく眠れそうだった。
††††††††††††
まったく、無防備に眠っちゃって。
俺は暫く、神楽の可愛い寝顔をつついたりして堪能した。
「なぁ神楽、自分でしといてアレだけど、俺はいつまでこの状態でいればいいんだ?」
「ん〜。」
寝息で可愛いお返事が帰ってくる。
「明日の朝までには、足が痺れて動けなくなっているかな……」
「おはよう、氷夜。」
やっとお目覚めですかお姫様。
俺はアレからずっと神楽の寝顔を眺めて過ごしていた。
俺は一晩くらい寝ないでも平気だが、俺の足は感覚が既に無い。
「おはよう。
悪いんだけど、頭どけてくれない?」
「すまん!!
ひょっとして一晩中膝枕してくれていたのか?」
「神楽の寝顔が可愛かったから許す。
それに、ほっぺもプニプニだったしね。」
「そうか氷夜、で、痺れたのはここか?」
神楽は今まさにビリビリしている部分に触れる。
「……あぁ、そこだな。」
「そうか……。」
無言で刺激を与え続ける神楽。
地味にけっこう痛い。
「ちょっと神楽、地味に痛いんだけど?」
「なぁ氷夜、覚えておいてくれ。
女の子の寝顔は見ちゃいけない物なんだ。」
「でも可愛かったんだからいいじゃん。」
「そういう問題じゃない!!」
その後はずっと神楽に痺れた足をいじめられた。
「神楽、今日はどうするの?」
俺の足も治り、朝食も宿で食べ終わって俺は神楽にたずねた。
「今日も聖森で稽古だろうな。
で、今日こそはその後、祭りに行こう。」
「今日は俺もついて行っていい?」
今日の俺は特にやる事も無く暇だった。
「別に構わないが、氷夜は聖森には入れないだろ?」
そう、それは昨日も問題になった事だ。
「あ〜、それならここから直接、聖森まで道を繋げるから大丈夫だよ。」
要は誰かに見られなければ良いのだ。
「能力を使ったりしてバレたりしないか?」
「これくらいなら周りに能力行使は気付かれないから平気だよ。」
「そうか、なら私は準備をするから少し待っていてくれ。」
「あぁ、分かった。」
俺も待ち時間を有効活用することにし、宿の厨房を借り、昼食のお弁当を作ることにした。