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神羅Ⅳ


くぐって出た所は山の頂上付近だった。



「ここなら、被害も出まい。」


「久しぶりだな、氷夜と喧嘩だなんて。」


俺が明を嫌っていた頃、こいつはやけに俺をかまう為、何度となく喧嘩になった。


「俺が負けた事は無かったけどな。」


「だが、今日も勝てるとは限らないぜ?」


明の周りに風が集まる。

そして明は姿を変えた。

服装は装飾品が多くついた美しいものになった。

髪も伸び、その色もエメラルド色に変化した。

右手には槍を持ち、周囲に風が吹き荒れる。


"神格化"、今、明が行ったそれであり、自身を"風"という概念そのものに変化させるというものだ。

"神格化"すれば同じ、概念による攻撃しかくらわず、まさに神のごとき力を得ることができる。

これが、1stクラスと(ゴッド)クラスを分ける越えられない壁だ。



「俺も少し本気を出すか。」



重しは既に解いている。

更に重力を操ることによってスピードを上げ、体の周りは空間を歪ませ、防御膜を張る。


「冷たい黒炎"リリス"」


俺の周りを黒い炎が燃え上がる。

それは"未知物質(ダークマター)"の本来の姿であり、超重力によって分子レベルにまで動きを止められた物質は絶対零度でありながらも高エネルギーにより、黒い炎を生み出した。

そして生み出した黒炎は燃え移った対象をエネルギーに変換し、自らを大きくする。

よって、黒炎が広がった場所には何も残らない。

しかも、それは概念重力から生まれた物であるから、"神格化"した明にも攻撃可能である。


黒い炎から放たれる冷気でそれとは対照的に周囲は白く染まった。



「全てを略奪する剣"バルムンク"」


虚空から取り出すのは禍々しいオーラを纏う漆黒の剣。

これは白夜から貰った剣で俺がこの剣に流し込んだ能力を何倍にも増幅してその身に宿す事ができる。



「"神格化"も無しに概念を操るとか、いつ見ても規格外だよな。」


俺は左手を突き出し握りしめる。

今回は明を中心とした半径二十メートル程の重力球を生み出し、瞬時に圧縮した。



「遅いな。」


気がついた時には明は俺の後ろにいて、いとも簡単に防御膜を破り俺の腹に槍を突き刺していた。

だが、それも予想の範囲内。

俺はそのまま槍ごと明を燃やそうと"リリス"を迫らせる。


「あっぶねぇ。」


しかし明はとっさに槍を手放し消え、すぐに離れた場所に現れた。

槍は"リリス"によって消え去りその代わり"リリス"は勢いを増した。



「やっぱり厄介だね、"一体化"って奴は。」


明は風の概念となることで周囲の風、もっと言えば空気のある所にならばどこにでも移ることができる。

炎や雷と違って、何処にでもある空気との"一体化"はかなり強力である。



俺は腹に空いた穴を分解、再構成し修復した。


「いや、お前の再生能力のほうが厄介だから。」


明は手を振り上げそして下ろした。

それと同時に先程の槍が無数に俺に向かって落ちてくる。

俺は"バルムンク"を一閃。その衝撃波に触れた物から漆黒の炎に染まり、俺にたどり着く物は無かった。


気がつくと明は俺のはるか上空にいた。

そして、新たに現れた柄しかない槍を振り下ろす。

それは明が得意とする風による"不可視の刃"。

しかもそれは超巨大であり、はるか上空から余裕で俺に届くものだった。


俺は周りを"リリス"で被い"不可視の刃"に対抗する。


迫り来る"不可視の刃"は"リリス"に触れると同時に炎上した。

しかし、その大きさは予想よりも遥かに大きく、"リリス"によって燃え尽きる前に俺に肉迫する。

俺は"バルムンク"を盾に身を守った。

次の瞬間、死角から"不可視の刃"が現れ燃え上がった。

どうやら明が柄のみの槍を振り下ろしたのはフェイクで実際はその"不可視の刃"のみを複数操れるようだ。


間に合わないと悟った俺は死角に現れた"不可視の刃"を概念重力によって墜落させる。

更に縦横無尽に現れる"不可視の刃"。

それを俺は"バルムンク"で切り裂き、概念重力で墜落させ、"リリス"で燃やし尽くす。

一秒にも満たない時間で千を超える殺りとりを俺と明は交わしていた。



「なぁ、楽しいな氷夜。」


"不可視の刃"による攻撃が止む。


「俺は楽しくない。」


「そんな笑って言われても説得力がないぜ?」


どうやら笑っていたらしい。

事実、俺はこの戦いにカリスとの戦闘とは比べものにならない精神の高揚を感じていた。



「このまま、時がとまれば最高なのにな。」


「どんな物にだって終わりはあるさ。

それは俺ですら例外じゃない。」


「ま、その通りだよ。」



明は俺の視界から消える。その代わり、俺の周りに竜巻がいくつも現れ、風の刃となって俺を襲う。

"リリス"は今までの攻防により勢いを増しており、竜巻を難なく防ぐ。

その複数の竜巻は俺を中心として回転し始めた。

それは、俺を囲むような風の檻を発生させる。

その勢いは"リリス"をも巻き上げるほどのものだった。

そして、上空から龍の形をした風が、風の檻を通って俺に迫る。

俺も"リリス"を"バルムンク"に纏わして力を倍増させ、荒れ狂う力を黒い龍の形に宿し放った。


明の放った風龍は風の檻を巻き込みより巨大になって俺を襲う。

俺の放った黒龍は風龍とぶつかり、噛みつき、食いちぎろうとする。

風龍は燃え上がり、そして爆発した。

おそらく、最初から爆発するようにできていたのだろう、おかげで黒龍もろとも俺の"リリス"は飛び散り、今、俺を守るものは無い。


明が槍を構えて俺に迫る。どうやら風龍の後ろにあらかじめ潜んでいたようだ。

俺は明が俺の攻撃範囲に入るのを待ち、入った瞬間、"バルムンク"を一閃。

しかし、切られた明は煙のように霧散した後に炎上した。


これもフェイクか!?

だがそれはカリスの時のような幻影とは違い、概念である風と概念となった明との見分けをつけることは不可能だった。


次の瞬間、俺は死角から殺気を感じ、体を捻る。

が、攻撃を避けきることはできず、左手が切られ、風と消えていった。


「今のは殺せると思ったんだがな。

まさか避けるとは流石、氷夜だ。

しかし、いくらお前でもすぐに再生はできないだろ?」


確かに、空気中から必要な物質を集め、左手を再構成してはいるが、すぐに元に戻すことはできそうもない。



「俺の勝ちだな。氷夜。」


「そうでもないさ。

明、俺はお前がそこに来るのを心待ちにしてたよ。」


明がいる場所、そこはちょうど最初に明が立っていた場所だった。


「"空気爆発(クード・バーン)"」


最初に明の周りを圧縮した空気は明に避けられた後も、そのままそこにあった。

俺はそれを利用し"クード・バーン"を放った。



「俺に爆風が効くとでも?」


明は平気な顔で周りに風を張り巡らせ、俺の攻撃を防いでいた。

だが、俺の狙いは爆風による攻撃ではない。

元の半径二十メートルの大きさまで戻った所で、俺は概念重力により球場の形を維持するようにし、その周りを"リリス"で覆った。

爆発した風龍の概念のかけらをも燃やし尽くした"リリス"は半径二十メートルの球体を完全に覆えるほどになっていた。


「どうしちまったんだ!?

なんで"一体化"ができないんだよ!!」


球内から聞こえる明の声。

俺は圧縮した空気を全て俺の概念下、つまり未知物質(ダークマター)に変えていた。

"空気爆発(クード・バーン)"により明が"一体化"できる空気を押しのけ、俺の未知物質(ダークマター)が明の周りに充満し、普通の空気とほぼ変わらないそれに明は気付く事ができずに、まんまと俺に捕まったという訳だ。



「俺の勝ちだ、明。

永遠に溶けぬ夜よ来たれ"氷夜"」


俺と同じ名前のその技は、球場に閉じ込めたその中から全エネルギーを奪いとる。

そうして造られるのは永遠に変わらない氷細工。


だが、今回は失敗したようだ。

明は瀕死だったが、まだ生きていた。



「負けたよ。

やっぱり氷夜は強いな。」


概念となった明の体は足の方から徐々に薄くなり、その命を散らしていった。

明はいつもの苦笑を浮かべながら言葉を紡いでいく。



「最後まで、"神格化"しなかったのは、俺のためだろ?」


「お前が弱っちかっただけだよ。」


嘘だ。

確かに俺が"神格化"してしまえば勝負はすぐについただろう。

しかし、そうしてしまえば明は完全に消え去り、もう二度と生まれ変わることすら許されない。

明の事が嫌いならそうしていただろうが、いくら憎くても俺は明の事は嫌いにはなれなかった。

勿論、好きでもなかったので、やっぱり普通だ。


「氷夜らしいな。

その悪人に成り切れない所、俺は好きだったぜ。」


「俺は、明の俺を嫌わない所が嫌いだったよ。」


「そういう所、本当に氷夜らしいや。

白夜とマゼリナに会ったら謝っておいてくれないか?

なんだったら代わりに土下座しておいてくれ。」


「誰がするか。」


明はそれを聞いて笑った。

俺もつられて笑ってしまう。


「最期にお前と笑えて、俺の人生も悪くは…なかっ…たな。」


明は風になって消えていった。


「俺、やっぱりお前の事、嫌いだったのかな?

涙も流れないし、何も感じないんだよ。

なぁ、明……。」













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