神羅Ⅲ
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俺は子供の頃の出来事によって、他人を信じられずにいた。
例外は、白夜とマゼリナ。
白夜は俺の唯一の家族で、マゼリナは俺達の心を救ってくれた、心優しい女の子だ。そして今は、白夜の恋人でもある。
マゼリナのお陰で俺は他人を好きになれないまでも敵だとは思わなくなっていった。
白夜に関しては、友達までつくるようになった。
「明、明日は休みだろ?
三崎と、翔連れてどっか行かないか?」
「あぁ、いいぜ。
三崎と翔には俺から連絡をとっとくよ。」
「白夜、私は〜?」
「バーカ、俺が行くのにマゼリナが行かないわけないだろ。」
そして、互いに見つめ合い笑いあう白夜とマゼリナ。
イチャイチャするのは構わないが、見せつけるようにするのはやめてくれ。
「氷夜も行くから、六人か〜、遊園地にでも行く?」
俺が行くのは決定らしい。が、明日は用事で出かけなければならない。
「悪い、俺は明日パスだ。」
「え〜〜〜〜〜」
不満そうなマゼリナ、だが明日は実は極秘で仕事が入っているのだから仕方がない。
「そう言うなマゼリナ。
兄さんだって忙しいんだよ。」
「でも"どこでもドア"使えばすぐに追いつけるじゃん!!」
「悪いな、明日は夜遅くまで用事があるんだ。」
「それにしても、"どこでもドア"なんてネーミング、子供みたいだよな。」
明はおかしそうに笑った。俺は青い狸の物語が好きなんだ。悪いか?
「安心しろ、別に俺は嫌いじゃないぜ。」
豪快に笑って意味不明な事をいいながら背中をたたく明。
おかしそうに笑ったのはお前だろうが。
「触るな。」
俺は明が好きじゃない。
まぁ、嫌いでもないから普通と言った所だろう。
ほとんどの人間を嫌っている俺が普通という評価をつけるのだから、そこそこは良い奴なのだ。
「ちぇっ、つれないねぇ〜」
しかし、今日の明はあまり元気がない。
「どうした?
風神ともあろう明が、今日は元気ないな?」
白夜も気付いたらしく、心配そうだ。
「"また"女の子にでも振られたの?」
マゼリナ、それは逆効果だと思うぞ?
「ったく、お前ら馬鹿ばっかりだな。
よし、明日は俺が奢ってやるよ!!」
明は無理やり元気を保とうとしているが、何か思いつめている感を隠しきれていない。
だが、俺も白夜もマゼリナもそれを深く追求する気はなく、白夜とマゼリナは奢ってもらえる事を素直に喜んでいた。
「残念、氷夜。
お前は明日来ないんだよな?」
明は何故か勝ち誇っている。
悔しくは無いがむかついたので、反撃する事にした。
「そうか、彼女に送るプレゼント用のお金が浮いちまって有り余ってるんだな。」
「なんだとコラー!!」
「「アハハハハハ」」
白夜とマゼリナは腹を抱えて爆笑した。
「ったく、笑ってんじゃね〜よ!!」
次の日。
予想以上に仕事が長引いてしまい、戻るのが遅くなった。
突然、携帯がなりメールが届く。
『兄さん、会議室に来て。』
訳が分からないが、とりあえず会議室に向かった。
そこにいたのは、泣きそうな白夜と、それに寄り添い泣いているマゼリナ。
そして、"水神"の由香里と"地神"の薫の死体だった。
どちらも"神羅"の幹部で白夜とマゼリナの友人。
昨日まで笑いあってた奴らだ。
部屋の状況は酷くボロボロで、"水神"の由香里、"地神"の薫、その他にも"雷神"の三崎、"炎神"の翔、そして"風神"の明による傷もあった。
俺達以外の幹部が全て裏切った。
いや、俺達が裏切り者として処罰されたという方が適切か。
しかし、白夜とマゼリナは幹部を総動員しても殺せない。
それほどまでに"創造神"の力と"原始の吸血鬼"の力は強力だった。
「ごめん、死んでくれ。兄さん。」
俺を殺せば大量のエネルギーが生まれる。
そしてそのエネルギーで、白夜はマゼリナの故郷へと道を繋ぐ気だろう。
白夜はこの世界に絶望してしまったのだ。
「まったく、我が儘な弟を持つと苦労するな。」
「あぁ、ごめん。」
「弟の我が儘を叶えるのも兄の仕事だよ。」
そして白夜はロンギネスの槍を手に持ち、それを一閃。
俺は死に、次元の扉が開いた。
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「ここにいるのか、明。」
そこは街外れにあった貴族の別荘だった。
さすがに貴様の別荘だけあってかなり大きな構造をしていた。
中からは光が漏れ、少なくとも1stクラスが十五人はいる。
一際大きい気配は明のものだろう。
「正面突破、かな。」
俺は堂々と正面のドアに向かった。
「誰だ貴様!!?」
ドアの前にいたのは見張りと思われる2ndクラスのゴツい二人。
「未知物質」
鋭い形状をしたそれが見張り二人が何かする前に心臓に突き刺さる。
「な、何事だ!?」
それでもバレてしまったようで、建物内の奴らが応戦状態になってしまったのが分かる。
だが俺は気にする事なくドアを開ける。
「何のようだ?」
入ってすぐは大広間になっており、十七人の能力者がいた。
俺は右手を突き出し、握りしめる。
勝負は一瞬。
いや勝負にすらなっていない。
すでにそこには、球場の超重力に捕らわれ、ビー玉程度の大きさになった物が十七個転がるのみとなっていた。
「やっぱり検索を使わなくていいから楽だな。」
検索を使用しなくても良くなった今、氷夜は手加減抜きで力を使用できた。
「さて会いに来たよ、明。」
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「明様、侵入者です。」
「あぁ、分かってる。」
この懐かしい気配は氷夜か。
あいつ生きてたんだな。
俺が殺したのも同然なのに氷夜の生存を感じて俺は僅かながらも喜んでいた。
「でも、今回の任務は失敗か〜。
保険に期待でもしますかね。」
俺はおそらくここで殺されるだろう。
それくらいの事をしたんだから当然だ。
「なぁ、氷夜。
俺はもう疲れちったよ。
だから、最期にお前と華々しく舞って散りてぇや。」
いつか来ると思っていた死に神の足音が近付いてくる。
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「久しぶりだな、明。」
「そうだな、三年ぶりか?
しかし、全然変わらないな氷夜は。」
「お前は変わったがな。」
「同感だ。」
三年前と変わらぬ距離感に懐かしさを覚えるが、同時に怒りも込み上げてくる。
「なぜ俺達を裏切った?」
「お前達も知らない、お前達の事を聞かされてな。
それで、俺達はお前達を殺すしかなかった。」
「俺達の知らない、俺達のこと?」
たしかに、俺達は自分自身のことをよく分かってはいない。
その秘密に俺達を裏切った訳があるのだろう。
「氷夜、もういいだろ?
お前だってこんな話をしに来た訳じゃない筈だ。
お前が死んだあの日から俺達はもう終わっていたんだから。」
「そうだな。
ここでは狭いな。場所を変えよう。」
俺は"どこでもドア"を開く。
「懐かしいね〜、"どこでもドア"じゃん。
まだこれ、"どこでもドア"って呼んでんの?」
「まだ、も何も、これからもずっと、これは"どこでもドア"だが?」
「アハハハハハ
やっぱり氷夜は変わらないな。
本当、あの頃に戻りたいねぇ〜。」
明は悲しげに笑った。
「あぁ。
だが、もう俺達は変わりすぎちまった。」
「分かってるよ。」
これをくぐったら俺達は殺し合うのだろう。
それを知ってなお、俺達はこれをくぐった。