神羅Ⅱ
そこには氷夜と、三人の横たわる男がいた。
「ぐはっ!!」
そして今、男がまた一人息絶えた。
大体事情は掴めたかな。
俺は路地でこそこそ動きまわっていた能力者の匂いがする奴、三人に何を企んでいるのかを聞き、もちろん、普通に教えてくれる訳もないので検索を使用させてもらった。
掴めた情報によると、
・人間が雇った天界人がゼウスの周りを調査している。
・武器を密輸入している。
・最初に俺を狙った暗殺者とは関係ない。
・今夜、人間達が何かしかけるらしい。
・人間達の居場所はわからないが、依頼されたのは酒場である。
つまり、明達はゼウスを暗殺しようとしているわけだ。
しかし、いくら明でも神を殺すことは難しいだろう。
おそらく、暗殺は円の国が企んだことにして、ゼウスの国と円、上手くいけば円を利用して"神"とも戦わせる。そして弱った所を人間、いや"神羅"が横から勝利を掠めとるという作戦だろう。
「まぁ、やり口は汚いが効果的ではあるな。」
とりあえず、"神羅"の能力者を見つけて、奴らのアジトを探さなくては始まらない。
明は検索で追跡していたが、どうやら気づかれたらしく、もう居場所はわからなくなっていた。
やはり、さっき殺すべきだったか?
いや、それだと神楽を悲しませてしまうだろう。
仕方ない、まずは依頼を受けた酒場に行ってみますか。
「三人はいるな。」
今までは街中に匂いが蔓延していて分からなかったが、酒場に入った瞬間、能力者の濃い気配が三つあることに気がついた。
「しかも三人とも"1st"クラスか。」
"1st"とは、"神羅"における能力者達の強さのことで"1st"、"2nd"、"3rd"と分けられている。
この数字が若いほど、強い能力者だ。
ちなみに、幹部は全員"1st"クラスの上、"G"クラスに属している。
「さて、どうおびき出した者かね〜?」
「おい、作戦に支障があった。
すぐにここから離れろ。」
俺は能力者達の座る席に近づき、小声で話しかける。
「私たちは何も報告はうけていないぞ?」
俺は自分が能力者だと分かるように、微弱に力を漏らした。"3rd"クラスの能力者には力のコントロールが上手くできない奴もいるから手っ取り早く、味方だと思って貰える。
「この場所に兵士が大勢向かっている。
どうやら、ここに犯罪者がいるらしい、奴らが来たら犯罪者を捕まえるまでここに閉じ込められちまう。
それを知った俺が真っ先に伝えにきたんだ。」
「しかし、我等がここを動く訳には……」
「ここから逃げろという訳じゃない。
とりあえずこの酒場から出ればいい。
外で待っていても支障はないだろ?」
三人はどうするか話あった。
「まぁ、確かに。」
「連絡網が途切れる方が大変だからな。」
「分かった。
ひとまずここを出よう。」
「なら、裏口から出よう。
兵士に顔を見られたくないからな。」
俺達は酒場の裏口から外に出て行った。
そして俺は立ち止まり。
「おい、どうしたんだ?」
付いて来る三人の足下に"どこでもドア"を開いた。
「「「うわっ!!」」」
俺もそれをくぐり抜け、たどり着いたのはこの間、暗殺者を相手した空き地だった。
「てめぇ〜、裏切り者か!!」
「まったく、"3rd"クラス風情に騙されるとはな。」
「しかし相手が悪かったな、俺達は"1st"クラス。
しかも"G"クラスに最も近い位置にいる。
"ケルベロス"といった方がわかりやすいか?」
「……いや、知らないし。」
俺の顔を見ても驚かなかったということは、俺が死んで何年かした後に"神羅"に入ったのであろう。
しかも"ケルベロス"って…
実力が伴わない通り名ほど痛い物はないな。
"1st"クラスと"G"クラスには超えられない大きな壁がある。
それは生まれた時から決まっている事なのだ。
この三人が"G"クラスに行くのは適わぬ夢だろう。
「先輩が良いことを教えてやるよ。
俺は氷夜。
元"G"クラスといった方がわかりやすいか?」
「は?
嘘ならもっと増しなのをたのむぜ。
そんな力のコントロールもできてない奴が、"G"クラスになれる訳がないだろう?」
「………いや、俺は聞いた事がある。
偶然見ちまった組織の機密ファイルに三年前、組織を牛耳っていた"G"クラスの男、"氷夜"の事が記してあった。」
お〜、俺の事は機密扱いにされましか。
まぁ、当たり前だけど。
しかし、あれから三年も経ったのか、結構長いな。
「ただの偶然だろ。」
「えぇ、それにもしそうだとしても私達三人がかりなら"G"クラスだって倒せるはずです。」
「そうだな!!」
……いや無理でしょ。
次の瞬間、俺の足下の土が膨れ上がり、鋭い岩が俺を串刺しにしようと迫ってきた。
俺はそれを避けるが次々と地面から鋭い岩が俺を目掛けて迫ってくる。
全て避けるのは厳しいと判断し、どうしても避けられないものは蹴り飛ばし、破壊する。
だが、それは俺の決定的な隙だった。
全ての岩を難なく避けたと思った刹那、雷撃が放たれた。それと同時に、足下から岩がを俺を逃がすまいと現れ、檻のようにとり囲む。
雷撃が俺を直撃。
更に俺の足下から間欠泉のように炎が吹き出し、トドメとばかりに頭上から巨大な岩が俺を押しつぶす。
「どうだ、これが"ケルベロス"の力だ!!」
「いえ、まだ敵は生きてます。」
「やっぱ体術だけじゃ勝てないな。」
よっぽど今の攻撃に自信があったのだろう。
三人は無傷の俺を見てかなり驚いている様子だった。
俺は、俺の周りを重力によって歪め、全ての攻撃を無力化したので無傷だ。
そして、この空き地を囲うように同じ物を発生させる。
「これで俺が暴れても、街に被害はないな。」
俺は重力を使い、空気を操った。
そして、三人の中心にサッカーボール程の球体が現れる。
「!?」
いい反応だ。
球体が現れた瞬間、三人はそれから離れた。
「だが、遅い。
"空気爆発"」
空気を圧縮した為、その分この空間の大気濃度が下がっており、三人は反応したはいいが、酸欠により速く動くことができずに、圧縮された空気が元に戻ろうとする爆発のような衝撃をまともにくらった。
「まだ終わりじゃないよ。」
俺が操り圧縮したのは水素と酸素。
よって、俺が少し火種を作ってやれば……
「「ドーン」」
その場に巨大な火柱が上がった。
俺は周りを歪めており、尚且つ、酸素供給も他の空間と繋げる事で行っていた。
だから俺はこの火柱によるダメージも無いし、この空間の酸素を全て使用したが酸欠にもなっていない。
「へ〜、今ので死なないのか。」
やはり"1st"クラスは伊達じゃないか。
三人はボロボロになりながらも立っていた。
「だが酸欠でもう動けないんじゃないか?」
「はぁ、はぁ、まだだ。」
「あれ、やる、ぞ。」
「あぁ、もうそれ、しかな、い。」
三人は一カ所に集まり、最後の力を振り絞って能力を発動させた。
「「「£%#&*」」」
現れたのは、顔が三つある五メートル程の犬、地獄の番犬こと"ケルベロス"だった。
能力によって生み出されたそれは、体は鉱物でできており、雷をまとい、火の息を吐いている。
三人はそれで力尽き倒れた。
「ごめん、そろそろ俺、飽きてきたわ。」
この戦いにカリスとのような精神の高揚はなく、はっきり言ってつまらなかった。
俺は"未知物質"を剣状にし、取り出し、重しを解く。
「一瞬で終わらせてやるよ。」
音速を超える一太刀は、"ケルベロス"の纏った雷を破り、その体を切り裂いた。
「「「&#%£*※♂」」」
三人が最後の力で呼び出した"ケルベロス"は現れてから何もできずに消えていった。
俺は倒れている三人の頭に検索をかけ、明の居場所を突き止める事に成功する。
「お祭りまでには、終わらせなきゃね。」
神楽とのお祭りに思いを馳せながら、氷夜は明を殺しに向かった。