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街にて



神楽はどうやら殆どの持ち物が借り屋にあるようで、荷造りに時間はさほどかからなかった。

俺に関しては、そもそも荷物がないので、神楽の用意が出来次第すぐに出発した。


「なぁ神楽、こんなに堂々と抜け出してもいいのか?」


俺達は今、王宮の廊下にいる。


「大丈夫だ、問題ない。」


仮にも一国の姫君がそろでいいのだろうか?


「以前、嫌になってここを出て行った時に、止めに入った衛兵を全て薙ぎ倒してかなり暴れてな。

被害が多い上に、結局止められないとわかって以降、私が見咎められる事はなくなった。」


「なるほど、やんちゃだったんだな。」


俺にも俺の世界で同じような事をしたので、神楽に何か言う権利はなかった。

まぁ、俺の場合はそんな生ぬるい話ではなかったが。




そんな事を話していると俺達に近づいてくる男がいた。


「これは神楽様、今からそちらに伺おうと思っていたのですよ。

どうでしょう、久しぶりに帰られたのですから、私とお食事でも。」


俺の事はいないように振る舞う目の前の男はどうやら位が高いらしく、かなり豪華な服を着ていた。

見てくれも悪くない。


男はいきなり神楽の手をとり口付けしようとする。


俺は神楽を引き寄せ、頭に手をそえた。


「ごめんね、神楽は俺と今から用事があるの。」


俺は神楽の手を男の魔の手いや魔の唇から守った。


「貴様、愚民の分際で神楽様に触れるな!!」


凄い、眉がピクピクしてる。


「ほら、俺は近衛だし。

神楽を悪漢から守らなきゃね。」


「私を文官長と知っての狼藉とは、よっぽど死にたいようだな。」


「知るかよ、バーうっ……」


神楽は無言で俺の腹に肘鉄を加えてきた。

仕方ないので神楽からしぶしぶ離れる。


「氷夜が失礼をした。


これから街に出るから、すまないが、夕食を共にはできない。」


「いつお戻りになるのですか?」


うわ〜、俺の時とは大違いの素敵なスマイルだな、おい。


「さぁ、気が向いたら、としか言えないな。


急ぎの用があるので私達はこれで失礼する。」


神楽の機嫌がいつになく悪い。

そして、逃げるように神楽は男から離れていった。


「愚民風情が調子に乗るなよ?」



男がすれ違いざま俺にしか聞こえないように呟く。


が、俺は特に気にする事はなく、三歩も歩かない内に男の顔も忘れた。



「氷夜、お前は子供か?

あと、頼むから人前でああいう事をしないでくれ。」


どうやらしっかり恥ずかしかったらしく、今更ながらに顔を赤くして抗議してきた。


「じゃあ、人前じゃなければいいの?」


「いいわけあるか!!」


「まったく我が儘だな。」


「はぁ、せめて王宮内ではそういう事はしないでくれ。」


「善処しよう。」


仕方がないのでそれで妥協することにした。


「最近、私はその言葉を信じられないんだが……はぁ。」


酷い言われようだった。


「そう言えば、急ぎの用ってなんなんだ?」


「あぁ、それはあの男から逃げる為の口実だ。

あの男、私に四回も求婚してきた上、事あるごとに食事に誘ってきてな。

全く、下心が見えすぎだ。

この間なんて、危うく部屋に押し掛けられそうになったからな。」



「ちょっとセクハラの罪で処刑してくる。」


俺は結構まじめに計画を練り始めた。


「大丈夫、いざとなったら一生立てないようにしてやるさ。」


そうは言うが、神楽も女の子である。そんなことに気を張っていては疲れてしまうだろう。現に、神楽の顔は男と会ってから少し曇っていた。


「安心しな、俺が守ってやるから。」


俺は神楽を引き寄せ、軽く抱きしめる。そして神楽の頭を撫でてやった。


「神楽も女の子なんだから、たまには弱くても良いと思うぞ。

そのための近衛であり、俺だろう?」


「……………あぁ。」


しばらく俺は神楽を無言で撫で続けていた。






「ありがとう。大分楽になったよ。

しかし、ものの数秒で約束を破るとはな。私もびっくりだ。

まぁ、今のは許してやるが、もう破るなよ?」


神楽が言っているのは"王宮内でそういう事をするな"という約束のことだろう。


「善処しよう。」


「はぁ、まったく。」


呆れたような声を出す神楽。

しかし、表情はさっきまでとは打って変わってご機嫌だった。




「じゃあ、気を取り直して街に行くか。」











††††††††††††


「おっ神楽ちゃん、今日は貝が安いよ!!

神楽ちゃんはべっぴんだからな、いっぱいおまけしちゃうぞ。」


「ありがとう。また後で寄るよ。」


相変わらずこの街の人達は愉快な人ばかりだ。



「神楽は人気者なんだな。」


氷夜は街の雰囲気についてこれないらしく、じゃっかん戸惑っている風だった。


「そんなことはない。

誰に対してもこんな感じだよ、この街は。

だから私はこの街が好きなんだ。

まぁ、氷夜も慣れてくれ。」


「たしかに、俺もこういう雰囲気自体は嫌いじゃない。

この果物はなんだ?」


氷夜もこの場所を気にいってくれたようで私はホッとした。


「それは、カイエだな。

甘くておいしいんだ。

買ってくか?」


「おや兄ちゃん、もしかして神楽ちゃんの彼氏かい?」


話しかけてきたのは八百屋のおっちゃん。


「はい、そうです。」


即答したのは氷夜。


「違います友人です。」


即否定するのは私。


最近は氷夜の扱い方にも慣れてきた。


「あらら、兄ちゃん振られちまったよ。」


「確かに、僕達は"まだ"友達ですが、ずっと友達のままとは限りませんよ?」


氷夜の奴、初日の私の失言をまだ言うか!!


「いいんね、兄ちゃん。

やっぱり物事は何でも前向きに考えなきゃな。

よし、そんな兄ちゃんに良いことを教えてやる。

神楽ちゃんはな、言い寄ってくる男は多いが、一緒に行動することはないんだ。

だから兄ちゃんは見込みあるぜ。」


「待て、そんなことはないぞ!!」


ここは何としても否定しなければ。

氷夜がまた調子に乗るのは目に見えている。


「じゃあ、最後に男と一緒に出掛けたのはいつだい?」


「つい一週間ほど前だ。」


よし、これで私が氷夜にからかわれる事はなくなった。


「へぇ、ちなみに誰と?」


「カリスとだ。」


おっちゃんが苦笑した。


「カリスって、あのお爺ちゃんだろ?

カリス以外だと最後に出掛けたのはいつだ?」


カリス以外、カリス以外…

脳内検索中……

該当する項目はありません。


「……黙秘権を行使する。」


そこには勝ち誇ったおっちゃんの顔があった。


「なるほど、それは良いことを聞いた。

おやじ、このカイエとやらを三つ程貰おう。」


「兄ちゃん、話がわかるねぇ〜。よし、二つまけてやろう。

はい。じゃあこれで六百ユトいただくよ。」


「だって。」


氷夜は私に手を差し出してきた。


「その手は?」


「だから、お金。」


そういえば、氷夜は一文無しなんだった。

仕方ないので、氷夜に六百ユトを渡す。


「はいよ、おっちゃん。」


「あんがとよ、まさか神楽ちゃんを手懐けるなんてな。

兄ちゃん、応援してるぜ!!」


「おうよ!!」


さっきまで戸惑っていた氷夜は既に私よりもこの街に馴染んでいるきがする。






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