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いざ、お見合い 2


「将来結婚するつもりで三年も付き合ってたのに、彼が子どもなんて欲しくないって思ってたって、この前初めて知りました。バカみたいな話でしょ? いろんなことを話し合って、お互いに理解し合ってると思ってたのに……。わたしの方は結婚と子どもを切り離して考えることなんて出来ませんでした。それでわたしの方から別れを切り出したんです。わたしって冷たい人間でしょうか?」



 突然こんなふうに尋ねられても彼だって答えようがないわよね。

 彼は黙ったままわたしの話を聞いていた。それに促されるように話を続けた。


「結婚しようと思っていた相手なのに、たったそれだけのことでって思われるかもしれませんけど、子どものいる家庭を持つのがわたしの夢だったんです。だからそれだけは絶対に譲れませんでした。世の中には結婚したからって、子どもに恵まれない夫婦だっているっていうのも分かってます。そうだったらそうで、逆にしょうがないって諦めが付いていたかもしれません。一人ぐらいなら作ってもいいって彼は言いましたけど、わたしは一緒に子どもに愛情を注いでくれるパートナーが欲しかった。だから、最初っから子どものことを騒がしいとか、面倒くさいっていうような、そんな人じゃいやでした」


 膝の上で手を握り合わせながら、彼の方を見て続けた。

「わたしは今二十八歳ですから、あまり遅くならないうちに子どもが欲しいと思って、お見合いしようと決めました。子どもが小さいうちは自分の手で育てたいので、結婚したら会社は辞めようと思ってます。結婚することになったら、翔君のことも自分が産む子と変わらずに育てたいです。この前会ったときに人見知りもなさそうなお子さんだったので、大丈夫そうな気がしました。こういうわたしは結婚を考える相手としてどう思われますか?」

 一息に言うだけ言って、これでこちらの条件は全部話したかしらと考えた。あ、それと……。

「あと一つ、わたし、浮気は絶対容認できません。お見合い結婚にそこまで求めるなって言われるかもしれませんけど、二人の態度にも表れて、子どもがいやな思いをすると思うので、もし、わたしでいいと言ってくださるなら誠実にして欲しいです。もちろんわたしもそうします」



 ここまでほぼ一方的に喋りまくったわたしに、彼は呆気にとられた様子だったけど、しばらくすると彼はくっくっくと堪えきれないように笑い出した。自分でも非常識なくらいに率直に語った自覚はあるので、甘んじて笑われましたとも。

「諒子さんは、なかなか愉快な人ですね」

 そう? まじめと言われたことはあるけど、愉快なんて初めて言われた。さっきまで島野さんだったのに、いきなり諒子さんと言われたのにもびっくりした。

「すみません、こちらの条件ばかり並べちゃって。でもお見合いって結婚前提で会ってるんですから、結婚に対する考え方は先に話し合った方が誤解がないし、無駄に時間を費やすこともないと思って……」


 ちょっと考えるそぶりを見せた後、彼が言った。

「そうだね。じゃあ僕の方もいいですか。翔のことはさっきも言った通り愛情を持って育てて欲しいってこと。あと、住まいだけど、今は元妻と結婚したときに賃貸で入ったマンションにそのまま住んでるけど、いずれは実家をリフォームして母と同居したいと思ってます。その点は平気ですか?」

「同居にお母様は賛成されてますか?」

 ちょっと考える様子。

「……そう言えば、身体が弱いほうなんで同居の方がいいかなと思ったけど、母の方からそう言ったことはなかったかな……。わざわざ確認したことないな……」

「自分で気ままに生活してたのに、他人が入ってくるのをいやがる方もいますよ。わたしの方はお母様のお宅は実家も近いし、賃貸のお家賃にお金を掛けるくらいなら、早く同居してリフォームのローンを返す方にまわしたいくらいですけど」

「いいんですか?」

 意外そうに彼が言った。


「教育費なんかのことを考えると節約できることは何でもやらないと……。それに新生活の仕方が固まっちゃう前に同居した方が、後からお互いに気疲れしながら神経すり減らすよりも、いいんじゃないかなって気もします。あと、うちの近所って結構便利がいいし、公園とか幼稚園とかも結構いっぱいあって選べるんですよね。子どもを育てていくには、暮らしやすい環境だと思います」

「うん、それで翔も実家のそばの保育所に入れて母に迎えを頼んでるんだけど……」

「翔君ってこの前会ったとき、随分人なつっこいお子さんに見えましたけど」

 あの時の様子を思い出して、つい笑顔になった。

「そうですね。随分早くから保育所にあずけることになっちゃったんで、そのせいかもしれません……」

 彼の表情には翔君にすまないという思いのせいか、痛みのようなものが感じられた。これだけ子どものことを思ってくれる父親ならいいんじゃないだろうか。


「それだけじゃないんじゃないですか。保育所で楽しく遊んで、おうちでも愛情掛けられてるからあんなにいい表情でわたしにも笑いかけてくれたんですよ、きっと。わたしあの時悩み事……、まあ、結婚のことなんですけどね、あったんですけど、少し癒されました」

 そうですか、とうれしそうな表情を見せた。うん、いいかもしれない。子どもを大事にする人なら家庭も、ひいてはわたしのこともないがしろにすることはないんじゃないかしら。



「こういうお返事は酒井さんを通してするものなんでしょうけど……。で、どうなんでしょう? わたしは見込みありですか?」

 今度こそ彼はぷーっと吹きだした。

「見込みありですかって聞かれるってことは、僕は合格しそうなんですか? バツイチ、子持ち、ババアつきの一般的にはあまり良くない物件ですよ」

「さっきお願いしたことに了解していただけるんでしたら、しばらくお付き合いしてみてよっぽど性格が合わないとか言うのでない限り、今のところ大丈夫そうな気がしてます。で、どうですか? 笑い事じゃなくってわたし結構焦ってるんです。これがダメなら、結婚相談所とかですよ」

 またくっくっと笑った。そんなにおかしいこと言ってるかしら? まぁ普通とは言えないか。

「やっぱり諒子さんは面白そうな人だな……」

 だから大まじめなんですってば!

「うん、結婚前提でお付き合いしてみましょうか。しばらくってどれくらいかな? 半年くらい?」

「えっ、そんな先ですか?」

 一ヶ月じゃ短いかしら……。もちろん短いわよね。言おうかどうしようか迷った。

「……じゃあ三ヶ月くらい?」


 三ヶ月付き合ってそれから結婚準備するともっと先になって、子どもは三十過ぎ……? すぐに出来なかったらもっと後? そんなのやだ。

「あの、わたし本当に早めに子どもが欲しいんです。翔君もいるし、そんなに焦ることもないかとも思うんですけど、三十なんてあっという間です。結婚してすぐ子どもを授かるとは限らないし……。体力のあるうちに出産、子育てってなるとのんびりしてられないんです」

 テーブルを叩かんばかりの必死さでうったえた。

 それを聞いて、彼はまたクスクス笑った。自分でもかなり切羽詰まってたと思うけど笑うことないでしょ。多少むっとしたが、ここで引いてちゃダメと、頭をフル回転させる。

 そして思い付いたことをそのまま口にした。



「じゃあ結婚式の準備をしながら、その間にお互いを見定めるって言うのはどうですか?」

 どういうことですか? と彼は怪訝な顔。

「大げさな式だと、後でキャンセルも大変だけど、なるべく簡素に家族だけで結婚式挙げるっていうので?」

 今はやり(?)の地味婚ですよ、というわたしの言葉に彼は笑いを引っ込めて、まじめな顔にもどった。

「僕は再婚だからそれでもいいとしても、諒子さんは初婚だし、それはまずいんじゃないかな? ご両親もいい顔されないでしょう?」

「式にはたいしてこだわりもないです。キリスト教徒でもないし、熱心な仏教徒でもありません。神社にだって気が向いた年にだけ初詣に行くくらいのものです。何百万も掛けた結婚式や披露宴はそれこそ無駄だなって思うんですよね。うち、兄がその手の結婚式だったんですけど、一財産使ったんですよ。お嫁さんの実家でかなり負担してもらったらしくて、頭が上がらなくなっちゃって、養子に行ったわけでもないのに、入り婿扱いだって、うちの親はぴりぴりしてました。それにわたしも職場関係は呼びにくいし……」



 あまりに突飛な提案と思ったのか、わたしを伺う様子で彼が尋ねた。

「随分急いでる様子だけど、それで諒子さんはいつくらいに結婚しようと思ってるんですか?」

 さすがに言いにくいけど、黙っていてもらちがあかない。

「……一ヶ月先ぐらいはどうでしょうか……」


 彼は今度こそ絶句した。



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