思い立ったがお見合い
はじめまして。
『小説家になろう』さんの方へは初の投稿作品となります。自分が書いてるものとしてはまだ三つ目のお話で、拙い部分も多々あるかと思います。
お楽しみいただけるとよいのですが……。
「ねぇ、お母さん。どこかにお見合いの口でもない?」
少し遅めの夕飯の支度を母と二人でしているときに切り出した。
「えっ、あんた彼氏いるんじゃなかったの?」
びっくりした母の顔。
「結婚観が百八十度ずれてるってことにようやく気付いた」
呆れた様子でわたしを見つめる。
「……今頃……」
そう、今頃である。
わたしには三年以上付き合ってる彼がいた。……つい、一週間前まで。
一週間前に二人の間で何が起こったかというと、彼の浮気がばれたとか、突然彼の多額の借金が発覚したとかいうわけではない。ギャンブルが原因とか、実は彼がマザコンだったというわけでもない。
ただ結婚に対する考え方が根本的に違っているということに、お互いまったく気が付いてなかったということだ。そしてそれはわたしにとってどうしても譲れないことだった。
会社帰りにデート。同じ会社に勤めるわたしたちにはよくあることだった。軽い食事と少しお酒も楽しんでいた。
「ねぇ、そろそろ結婚する?」
まだはっきりと婚約を交わしたわけではなかったが、二人ともその意志は確認しあっていたし、お互いの家族にもそれとなく伝えてあった。あとはそのタイミングだけと、自分たちも家族もそう思っていたはずだった。
「そうだな。まあ、焦ることもないかと思ってたけど、いつ海外勤務になるかもしれないしな」
「子どももあんまり遅くならないうちにほしいもんね」
「……子ども? ……欲しかったの?」
しばらくの沈黙の後に不思議そうな彼の顔。わたしのほうも何でそんなことを聞かれるのか分からなかった。多分ぼけた表情で聞き返したんだと思う。
「えっ、なんで? 当たり前じゃない。二人か、できれば三人……」
「でも、諒子も仕事せっかくいいペースで昇進してきてるのに……」
どこか当惑したような顔。微妙な空気にこちらの方が戸惑った。
「わたし、子どもが小さいうちは自分で育てたいから、会社は辞めようと思ってたんだけど……」
わたしの言葉を聞いて、しばしの沈黙の後彼は言った。
「……俺、子どもは要らないよ。騒がしいし、何かと面倒だろ。子ども中心に家庭が回って二人の時間ももてなくなるじゃないか。第一、海外に出るとなると大変だろう?」
呆然とする思いだった。今まで彼と何を語り合ってきたというんだろう。彼が子どものことを面倒で騒がしいと言い切った瞬間、この人と結婚することは多分もうないと悟った。
彼とは同じ会社に勤めて、一緒のチームで仕事をして、懸命に仕事に取り組む姿勢に惹かれてつきあい始めた。
他人に厳しいけど、その分自分でも努力を惜しまない。それを向上心の表れと思っていた。キャリア志向で、海外勤務を経て出世コースをひた走ることを望んでいることも知っていた。
つきあい始めてしばらくすると、お互いに結婚を意識しだした。わたしが考える結婚生活や、家庭生活というものには、子どもは当たり前のように組み込まれていた。だから改めて彼にそんなことを確認する必要があったなんて、頭の片隅にも思い浮かばなかった。ところが彼の結婚観の中には子どもは含まれていなかったらしい。
思い描く未来があまりにも違っていた。彼とは結婚できない……。
一言も喋らなくなったわたしをいぶかしく思ったのか、彼がわたしの顔を覗き込んできた。
「どうしたんだ?」
「結婚のことはもういいから」
「あ、ああ。まだしばらく先でもいいよな」
「そうじゃなくて……、あなたと結婚することはないってこと」
「おい、なんだよ突然」
慌てた様子で聞き返される。
「あなたが結婚しても子どもが要らないって考えてるなんて夢にも思わなかった」
「な、なんだよ、そんなことか。お前がそんなに子ども欲しかったんなら、別にいいよ。一人ぐらい作っても」
「そんなこと?」
その言葉に、今度は嫌悪を覚える。
さっき子どもは要らないと言ったばかりじゃないの。それなのに、ただわたしを引き留めるためだけに子どもを作ろうというの? 子どもは道具じゃないのよ、このぼけ! と憤った。
彼とは絶対に無理! と言うのが確定した瞬間だった。
「……わたしは結婚生活に夫も子どもも求めてるけど、子どものことを面倒だって思ってる父親は要らないの。一緒に子どもの成長を見守って、慈しんで育ててくれる人にそばにいて欲しい」
これ以上ここにいると感情的になって暴言を吐きそう。
もう帰るねと席を立った。
「諒子、ちょっと待てよ」
「もう話すこともないから」
こういうとき、同じ会社の同僚というのは都合が悪い。あの後何度か話をしたけど、一度彼の本心を聞いてしまったわたしには、何を言われても心に響いてこなかった。
そういうやりとりを目にした人も何人かいたんだろう。そうこうしているうちに、社内でわたしたちのことが人の口に上りはじめた。いずれ結婚するつもりだったので、交際していることを特に隠すようなことはしていなかった分、気まずかった。
彼には何かとつきまとわれたが、わたしの決心は変わらなかった。そしてそのことに関しては、別の意味で少し動揺した。
さばさばした性格だと自分では思っているので、たとえば彼が浮気なんかして、恋敵が現れたとしても、たぶんわたしの場合は『彼を返して』なんてどろどろの愛憎劇を繰り広げたりしないで、相手を切り捨ててしまうだろうな、とは以前から思っていた。
でも考え方の違いというだけで、彼の方にたいした(わたしにとってはもちろん重要な点だったけど)過失があったわけでもなかったのに、こんなにあっさり彼に見切りをつけて、何の未練もないということが自分でもショックだった。そして何より、彼と別れたことよりも、結婚して子どもを産むという夢が一歩遠のいたことの方がダメージが大きかったということに気付いて愕然とした。
彼のことはもちろん好きだった。いや、自分では本当にそう思っていたのだ。
でもこんなにあっさりと別れを決意してしまえるってことは、彼のことをそれほど愛していなかったってことなんだろうか。ただ自分の夢に近付くためだけに付き合ってたってことだったんだろうか。
子どもは道具じゃないと彼に憤りを感じたわたしだったけど、わたしの方こそ彼のことを子どもを得るための手段と考えていたんじゃないだろうか。
自分っていう人間が、ただ打算的でイヤな女に思えてなんだか自己嫌悪に陥った。
わたしは愛情面に欠けるのかもしれないと、うじうじ悩んで一週間目。
それでも子どもが欲しいんだもん。
そう開き直った。
そうだ! 自分と同じように結婚して子供を持ちたいと誠実に、真剣に思っている人を最初から探せばいいんだと思い付いた。
何しろ自分ももう二十八歳。子どもは二,三人は欲しいのでまた三年付き合って、なんてのんびりしていられない。子どもは産むのにも、育てるにも体力が要るのだ。ぼやぼやしている暇はない。
そして思い立ったのがお見合いだったのである。
拙いお話をここまで読んでいただいてありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?