⑨ 華やぐ試着室。優の女子力。『どこからどう見ても、女の子にしか見えないわね……』
——和奏に、自分でしている姿を見られてしまった僕。
昂りもなんとか鎮まり、トイレから出る。
壁に寄りかかり待っていた彼女が、僕に気付いた。
「……ごめんなさい、なにも考えずに覗いてしまって……」
「……いや、僕が鍵かけてなかったし、気持ち悪いところも見せちゃったし……」
(男子がひとりでしているところを見たい女の子なんていないだろう……)
「あなたのは気持ち悪くなんかないわよ……。優の大事なところ、何度も見ちゃってごめんなさいね……」
目を伏せる和奏。
「——ねぇ、早く服見に行こうよ!」
彼女に向けて、努めて明るく言う。
「……うん。そうね、いきましょ!」
◆◆◆◆
服売り場へと移動する道中、すれ違った女子中学生に女装がバレたかもしれない、という話をした。
「そんなことがあったのね……」
「やっぱり、リップの塗り方下手だったから、女装ってバレたのかも……」
「……その子たち、多分バレてないわよ?」
「え……?」
「だって、その子たち、あなたがトイレから出てくるのを待ってる間に目の前を通ったけど、
『さっきのピンクのリップの女の子、かわいかったねーッ!』って、はしゃいでたから」
「ほ、ホント……?」
「もうッ。あたしが太鼓判押すから、もっと自信持っていいわよ?」
◆◆◆◆
「いらっしゃいませぇ〜」
アパレルショップに入ると、店員が独特の声であいさつしてくる。気圧され、思わず身構えた。
現在は、肌寒くなってきた10月後半。
秋物服のコーナーへと足を運ぶ。
「これいいわね……、あっ、こっちも!」
僕の体に服を当て、楽しそうにしている和奏。
「……和奏の服を買うんじゃないの?」
「あなたにぴったり合う服が欲しかったのよ……。
あっ、店員さん!」
傍に居た店員さんがこちらへと振り返る。
「試着するのは、この子なんですけど、一緒に入って見てあげてもいいかしら?」
「大丈夫ですよ。
今は混雑してないので、ごゆっくりどうぞ」
和奏に試着室へ押しこまれる。
狭い空間の中、彼女と差し向かいになる。
「近くて、はずかしいんだけど……」
もじもじと、ボブカットの毛先をいじる僕。
「なによ、今さら……。
……あ、でも、ポロリはもう、やめましょうね……?」
やんわり釘を差された。
◆◆◆◆
なりきり制服のブレザー、ブラウス、インナー、スカートを脱ぐ。ブラジャーとショーツだけになった。
ショーツがおちんちんで膨らんでいるため、和奏しか見ていないものの、気はずかしい。
「どこからどう見ても、女の子にしか見えないわね……、下以外は」
——彼女の視線が、僕の口元で光るピンクのリップ、それに、パッドで僅かに膨らむブラジャーへと注がれる。
「……下以外は完璧、女の子よね……」
膨張を続ける僕のショーツに、はずかしそうに目をやる和奏。はずかしいなら見なきゃいいのに……。
とりあえず、ブラウスを手に取ってみる。そしてブラジャーの上からそのまま羽織ろうとする。
「あっ……、素肌だと汚しちゃうかもしれないから、インナーは着てから試着してね?」
(……なら、ブラジャー1枚になることなかったじゃん!)
◆◆◆◆
姿見に映る僕の姿。
上はディープグリーンのブラウス、下はダークレッドのフレアスカート。華やかな秋の装い。
「……おお。割と似合ってる?」
華やかな組み合わせの色柄。口元のピンクのリップにもよく映えている。
——鏡の前でくるっと1回転。スカートの裾がふわりと翻る。
「かっ、かわいいっっ……♡♡」
和奏から歓喜の声。
僕の上半身からつま先までをひと通り見た彼女。テンションのあがった和奏が、飛び跳ねて僕の胸に抱きついてくる。
彼女の、スタイルのいい体が密着する。僕の胸に彼女の大きな胸が押しつけられる。
(や、やばっ!)
——スカートの下に感じる、暴走の予兆。
「ちょっ……危ないって」
自身のオスの部分が暴れださないうちにと身を離す。
「ぶぅ〜〜〜っ」
頬を膨らませる和奏。
(……ぶう、じゃありませんっ!)
「まあ、いいわ。会計済ませましょ」
「まだ着替えてないんだけど……」
和奏が手を引っ張り、更衣室を出ようとする。
しかし、僕の格好は試着したままだ。
「似合ってるし、そのまま会計行きましょうよ。
店員さんに言えば対応してくれるから」
「んー……、まあ、和奏が言うなら……」
◆◆◆◆
試着室から出て、そばにいた店員さんに、
『着たまま会計したい』と伝えると、レジの人に連絡してくれた。
「——円になりまぁす」
着たままタグをはずしてもらう。
値段を告げられ、僕が財布を出そうとする。
「大丈夫よ。この服は、あなたが着ない時はあたしが着るんだから……あたしに甘えて?」
微笑む彼女の顔。
「う、うん……」
思わずうなずく。
先ほどまで着ていた制服は、紙袋をもらったのでそれに入れた。
「さぁ、時間が惜しいわ。次行きましょ!」




