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罰ゲームで黒髪清楚な高嶺の花に告白した僕は、百合だったカノジョに女装させられて秘密の関係になった。  作者: きたみ詩亜


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⑦ かわいいメニュー。意外なマスター。 『私もあのイラスト、すきなんです』

 喫茶・時代家じだいやの店内。

 天井でくるくると回るシーリングファンの下、和奏と向かい合って腰掛ける、小さなふたり席。

 ひとつのメニューを、和奏と一緒に覗き込む。


 画用紙に大きく描いたイラストを切り抜き、茶色いスクラップブックに貼っているという仕様のメニュー帳だ。

 そのカラフルに描かれたイラスト。

 細かいところまで丁寧に描き込まれいて、とてもかわいらしい。

 女性的な優しい雰囲気が感じられる。


「……このイラスト、かわいい……!

 さっきのウェイトレスさんが描いてるのかな……?」

「どうかしらね……。

 すごくかわいらしいイラストだけど」


「あ、これ、気になる……!」


時代家じだいや特製・純喫茶プリン』、というメニューが目に入る。

 銀食器に乗せられたプリンのイラスト。

 サクランボがひと粒添えられている。

 時代家特製の熟成ソースをかけて食べるらしい。

 その、味まで伝わってくるようなイラストに、僕の目は魅入られてしまう。

 値段も、すくないお小遣いとお年玉貯金でやりくりしている僕にも手が届く範囲の、安心の価格帯。


「……純喫茶プリン? それもいいわね……」


 和奏が言いつつ、迷うようにメニューをめくった。


「あたしはこれにしようかしら……?」


 秋限定の和栗のモンブランケーキ。

 小さな栗の実が上に乗っており、こちらもかわいらしい。


 メニューも決まったので、ベルを鳴らす。


「——おまたせしました。ご注文お伺いします」


「あたしは、

 ハーブティーと、和栗のモンブランケーキを」


「かしこまりました。

 それでは——、」


 僕のほうへと向く、ウェイトレスさんの目。

 


 「ぼ……、じゃなくて……。

  あ、あたしは……、」



 (う、うまく答えられない……!

  ど、どうすれば……?!)



 「この子には、

  ホットコーヒーと、

  純喫茶プリンをお願いします」



 「はい。かしこまりました」



 言い淀んでしまった僕。

 そっと、和奏が助け舟を出してくれる。


「——ホットでよかったかしら?」

「う、うん……、助けてくれてありがとう。

 でも、さっき、声で男だってバレなかったかな……?」


 明らかに女の子の声ではなかった……、と思う。


「あら。声がれてる女性なんていくらでもいるわよ? ハスキーボイス、かわいいじゃない」

「そういうもの、かな……?」

「えぇ、大丈夫よ。……それにしてもこのお店、雰囲気いいわね」


 和奏が店内を見渡す。

 古道具屋を改装したのだろうか、いわゆるボンボン時計や、ショーケースに銀食器などが飾られている。

 

「……和奏の部屋もセンスあるよね」


 僕は、落ち着いた雰囲気の、和奏の部屋を思い出した。


「ありがと。

 ……まあ、ここには負けちゃうかもしれないけど」


 しばらくして、ウェイトレスさんが、注文したメニューを運んできてくれた。テーブルに並べていく。


「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう。

 ……あ、ウェイトレスさん、ちょっと聞いてもいいかしら?」

「はい、なんでしょう?」


 ウェイトレスさんが、かわいらしく首を傾げる。


「メニューのイラストは、誰が描いているのかしら?」

「あぁ、あのイラスト!

 たまに聞かれるんですけど、

 実はマスターが描いてるんですよ?」


 「……えっ?! 

  あのマスターが、あんなに

  かわいいイラストを……っ??」


 思わず立ち上がってしまう僕。

 強面なマスターの意外な素顔に、うっかり、素の声をあげてしまう。

 僕の声が聞こえてしまったのか、カウンターにいたマスターが、恥ずかしげに頬をポリポリと掻いていた。


「フフッ……、

 驚いちゃいますよね。

 でも、私もあのイラスト、すきなんです。

 お客さまたちと同様、女性に人気なんですよ?」


 ニコニコとした笑顔を浮かべるウェイトレスさん。

 足取り軽く、マスターの元へ向かう。


「……ね、ねえ、

 さっき素の声でしゃべっちゃったけど、

 僕、男だってバれなかったかな……?!」


「大丈夫よ……、

 あのウェイトレスさんの反応見る限り、特に気付いてはいないようだしね……、

 それに、あなた、顔と服装だけ見たら、ほんとに女の子にしか見えないわよ?」


(声は、流石に誤魔化せない気がするけどな……)


 そんなことを考えつつ、目の前の温かいコーヒーを口にする。


(——おいしい……!)


 豆から挽いているからか、香りと味わいがいい。

 大事に受け皿へ戻すと、カップのふちがキラキラと光ったのが見えた。どうやら、口をつけた際に、ピンクのリップがついてしまったらしい。

 和奏を見ると、ハーブティーのカップのふちについた赤いリップを、指先でぬぐっていた。


「あら。

 隅に置いてあるのって、トランクかしら……?」


 彼女が店内を見回したタイミング。

 和奏に見つからないよう、こっそりコーヒーカップのリップをぬぐってみた。


(ふぅ……)


 気持ちを落ち着け、目の前のプリンを、ひと口すくって食べる。甘さは控えめでしっとり固め。


「ちょっと固めで、おいしい……!」


 思わず口元に手を当てる。

 ちょっと甘めの熟成ソースを絡めると、ほどよい味わいとなる。

 和奏も自身のモンブランケーキに側面からスプーンを入れて食べる。


「ちょうどいい甘みだわ……!」


 ひと口食べて目を輝かせた。

 そして、モンブランの上に鎮座する和栗をスプーンですくう。


「ねぇ……あたし、モンブランは好きだけど、栗の実まるごとは食べられなくて……、

 もしよかったら、優が食べてくれるかしら……?」


 僕に顔を近づけ、店の人には分からない小声で聞いてくる。


「うん、いいよ」

「じゃあ……、あーん」

 

 栗の実が乗ったスプーンを、僕の口に向けて差し出してくる。


「……っ! 自分で食べられるからっ!」

「早くしないと、店の人に気付かれるわよ?」


 さいわいウェイトレスさんもマスターもこちらに背中を向けている。


(パクっっ……!)


 はずかしさを覚えつつも、差し出されたスプーンから栗を食べる。


「……間接キスだね」


 ニヤニヤした表情を浮かべる和奏。


「だから、自分で食べられるって言ったのに……」


◆◆◆◆


 メニューを堪能し終えた僕たち。

 ちょっとゆっくりしながら、次の行き先について話をする。


「……このあと、どうする?

 もしよければ、あたし、服が見たいのだけれど」

「うん。じゃあ、お会計済ませたら行こうか」


 ウェイトレスさんにもすこし慣れてきたので、頑張ってレジへと向かう。


「最近、キャッシュレス決済導入したんですけど、利用されますか?」

「じゃ、じゃあ、これで……!」

「フフッ……、ありがとうございます」


 僕に向けられた、ウェイトレスさんの笑顔。

 その優しい表情が、僕の目に眩しく映った。

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