㉚ 言葉の重み。和奏の想い。『あたしたちの子供、たくさん産みたいわ……』
アシカショーを見終えた僕たちは、水族館に併設されたレストランに入る。
壁の一部が水槽になっていて、この水族館のマスコットキャラクターでもあるマンボウが泳いでいた。
子供が描いたらしい魚の絵も壁に張られており、アットホームな雰囲気もある。
親子連れ。席ではしゃぐ小さな子供。
水槽には、1メートルくらいのマンボウたち。
マンボウ同士でぶつかって傷ついたりするのを防ぐためらしく、泳いでいる数はあまり多くない。
ネットでマンボウのことを調べてみると、
『マンボウ すぐ死ぬ』という都市伝説めいたことが書かれたサイトを見つけた。
水が冷たすぎて死んでしまったり、朝日が強すぎて死んだり、仲間が死んだショックで死亡……など、嘘かまことか、よく分からない情報が並んでいた。
『マンボウはデリケートだから、やさしくみまもってあげてね』と張り紙がされている。
レストランのサービスで、子供がマンボウの絵を描くと『特製マンボウくんプリン』がもらえるらしい。壁の絵はその子供たちが描いたものらしい。
メニューが出来上がるまでの待ち時間、小学校低学年くらいの男の子と女の子が熱心に、水槽を泳ぐマンボウたちを見ながら、熱心に絵を描いていた。
ふと、壁に視線を向ける。
その中で、ひときわ目立つ絵があった。
画用紙の右下に、描いたと思われる子どもの名前が記されている。
大きなマンボウと、小さな女の子が、一緒にお風呂に入っている。なんだか不思議な雰囲気のその絵。
右下の名前——、『別好』と書かれている。
べつすき……? なんて読むんだろう——。
「あたしにも、ああいう子どもが産めるのよね……」
思考に差し込まれる、和奏の声。
ふたりの子供を見ながら、目を細めている。
「もしあたしが、女の子同士で付き合って、パートナーになって……。
そうなっていたら、ほんとうに好きな人とは、ふたりだけの血の繋がった子どもは産めないと思っていたの……。
まあ、養子を迎えたり、精子提供とかの選択肢はあるけどね……」
僕に顔を向ける。
「……将来、もしもあなたと結婚できたら……。
かわいいあたしたちの子供、たくさん産みたいわ……」
——その言葉の重みにドキリとした。
「……でも、その前に、ふたりでエッチなこと……たくさん、しましょうね?」
◆◆◆◆
なにを注文するか選びはじめる僕たち。
メニューを見ると、学生にも安心の価格帯でホッとした。
僕がアサリのスパゲティ、和奏がシーフードスパゲティを注文する。
できあがりまでしばし時間を過ごす。
「あっ、そうそう……」
——ふいに和奏が、ポーチから小さな紙袋をとりだす。
「これ、優に……」
渡された紙袋。中から取り出してみる。
——さきほど、おみやげショップで見た、マンボウくんストラップだった。
「さっきね、アシカショーがはじまる前に急いで買ったの……。
本屋で助けてくれた時のお礼もできてなかったでしょ……? もらってほしいの……」
「……分かった、ありがとう。大切にするよ……」
もらったストラップを大事にそっと握りしめる。
——和奏の思いとともに……。




