㉕ 無言のフェリー。迷子のアイデンティティ。『なんだか今日の優、あなたらしくないわ……』
ボウリングデートにて、かっこよく、男らしい姿を和奏にたっぷりと見せた僕。
フェリーに乗るため、埠頭へと移動した。
ふたり分のチケットを購入し、戻ってくる。
壁に寄りかかり、所在なげな和奏。
「——お待たせ」
和奏の肩の横、壁に向けてドンッ! と手をつく。
いわゆる壁ドンってやつだ。
これでときめかない女子はいないと聞く(当社比)。
そんな僕に、はぁ……、と溜息をつく和奏。
「なんだか今日の優、ヘンよ……、あなたらしくないわ……」
彼女が歩き出す。
(はっ……? 僕らしくないって……?
一体なんなんだよ……?)
イケメンデート計画が順調に運んでいた僕。
和奏の漏らした発言に、腑に落ちない思いを抱える。
和奏の元へ向かおうと俯きながら歩き出す。
——バシャッッ!!
走り出した瞬間。なにかが僕の体に掛かる。
真横には、慌てた顔のおじさん。右手には空のバケツ。スカートを見おろすと、裾のあたりから上が大きく濡れている。
「……お嬢さん、すみませんっ!」
おじさんが駆け寄ってくる。
「だっ、大丈夫ですか……? ほ、ホントにすみませんっ」
「気にしないでください……」
濡れたまま、とぼとぼと歩き出す。
◆◆◆◆
和奏の元へとたどり着く。
僕のスカートを見てびっくりした。
「優っ、そのスカート……!」
黙って俯いたままの僕。
彼女が手に下げていた袋からなにかを取り出す。
「これ、待ち合わせ前に買ってたの……、よかったら着て?」
ダークピンク、ボタニカル柄のミニスカートだった。
◆◆◆◆
運よく見つけた多目的トイレに入り、濡れたスカートを履き替える。
濡れたのは表面だけで、ショーツは無事だった。
フェリー乗り場からフェリーに乗船する。
これに乗ると、和奏のマンションから10分くらいの場所まで行ける。
「……………………」
「……………………」
和奏とふたり、並んで座るも終始無言。
永遠に時間が続くかと思われたが、やがて、和奏のマンション近くの埠頭に到着してしまう。
◆◆◆◆
和奏の部屋。
彼女がベッドに腰掛けて俯いている。
その前に立ち尽くす僕。
「今日のあなた、なんだったの……? なんであんなこと……」
カチンときた。
「僕のなにが悪かったって言うんだよ……?」
「急に、かっこつけみたいなのしちゃって……、」
「……和奏、いつも僕のこと、男として見てないでしょ?」
少し強い口調で言うと、和奏が肩をびくりとさせた。
「……そんなこと、ないわ……」
声が震えている。
「そんなこと、ある!
男として見てるなら、なんで、僕が和奏のハダカ見ちゃった時も、まるで女友達みたいに見られたくらいに、平然としてたのさっ!?」
「……そ、それは……っ!」
和奏の顔が今にも泣き出しそうに、くしゃりと歪んだ。




