㉔ 優のニーズ。和奏の需要。そして、ボリプリ。『それ、コスプレかしら……?』
11月23日、火曜日(勤労感謝の日・祝日)。
和奏に男として見られていない現状を打破するため、『イケメンデート計画』を発動する。
なお、今週土曜日の和奏とのデートは凛に譲った。
——スマートだろう?
今回のデートの趣旨は『和奏にかっこいい姿を見せ、男として意識させる』というもの。
計画立案後。早速、スマホを取り出し、レインで和奏をデートに誘う。
すぐさま既読がつく。
しばらくして『ほんとにいいの……?』と返事。
僕は『もちろんだよ!』と返信。イケメンキャラがサムズアップしているスタンプを連打。
——しかし、和奏を誘ってみたはいいものの、いつも彼女に導かれるままデートをしてきた僕。
どんなデートをすれば、和奏にかっこいいと思ってもらえるのか分からない。
困り果てた僕。とりあえず、駅前の書店へと走る。
デートの参考にと『ボウリングのプリンス様』(通称ボリプリ)という恋愛ボウリング漫画を購入した。
——この漫画のデートシーンが、SNSを中心にバズっているという噂を耳にしたからだ。
おそらく、プリンス様が出てくるだけあって、かっこいいと評判なのだろう。
なお、今回のデートにあたり、10日間ほどをかけて、入念に準備をおこなった。もちろん、コーディネートは自分で組んだ。
上はネイビーブルーを基調としたミリタリー風ブラウス、下は足首まである黒のラップスカートを合わせた。イケメン女子というやつを狙ってのコーデだ。
これなら、和奏の女装してほしいという需要と、僕のイケメンムーブというニーズに合致する。
なお、今回の衣装は、なんでも揃うと評判の大手通販サイト、アマゾネスで購入。
ウィッグやブラジャーなどは、デートに誘ったあと、事前に和奏から借り受けていた。
事前に待ち合わせ場所を指定し、おたがい現地直行。
なお、自宅では女装できないため、着替え用にレンタルスペースを利用した。
準備万端、待ち合わせの2時間前にはスタンバイ。
約束していた時間の10分前に、紙袋片手に現れた和奏。僕の出で立ちに唖然としていた。
「優……、それ、コスプレかしら……?」
「なかなか決まってるでしょ。僕、かっこいいよねっ?」
「まぁ……、そうね。
——って、ゆ、優! あなた、そのくちびるの色……?!」
「あっ、気付いてくれた? 今日は気分を変えて、赤にしてみたんだ!」
僕の口元。真っ赤に染まったくちびる。
本日は、和奏からもらったピンクのリップではなく、かっこよく情熱的な、真っ赤のリップを塗った。
和奏が、僕の様変わりした姿に、困惑した表情を浮かべている。
どうやら、今日の僕がイケメン過ぎて混乱しているようだ……!
「それにしても、和奏! 今日は一段と美しいねっ!」
「そうかしら………」
目を逸らして前髪をいじる和奏。
(照れてる、照れてる……!)
心のなかで拳を握ってガッツポーズ!
◆◆◆◆
「ちょっと、トイレ行ってくるね(キリッ)」
「え、ええ。行ってらっしゃい……。」
一度、トイレに行くフリをして、和奏のもとから離れる。
道の隅へ行き、バッグに忍ばせた、『ボウリングのプリンス様』19巻を取り出す。
『第3話 ドキドキ! 涙のストライクデート!! の巻』
付箋をつけて何度も読み込んだそのデートシーン。
それを再現すべく、和奏の元へと戻った僕たちは、いざラウンドスリーへと向かう。
◆◆◆◆
和奏とふたりでボウリングをはじめる。
しばらく普通にプレイ。
僕はタイミングを見計らい、ボリプリ屈指の名シーンを再現にかかる。
ボリプリ主人公、越後屋アクマが、ボウリングデート中、突如持病のイップスを発症し、ガーターを10連発してしまう。
しかし、ヒロイン、虎崎梅乃の献身的な応援により、調子を取り戻したアクマが華麗にストライクを決めるという、涙無しでは読めないそのシーン。
僕は、和奏の前で、一世一代の名場面に取り掛かる。
◆◆◆◆
連続10回ガーター。
……ここまでは計画どおり。
「じ、持病のイップスが……ッ! 右腕が疼く……!
わっ、和奏! 僕を応援してくれッッ!」
自前の特殊メイクを施した右腕を必死に押さえ、ボリプリの名言ゼリフを完全再現。
あらかじめ用意していたポンポンを和奏に投げ渡す。
「ゆ、優〜〜……、がんばれぇ〜〜……。」
和奏がポンポンを手にぎこちない動きで、僕へ黄色い声援を送ってくる。
(————よしっ! チャージみなぎったあぁぁーーーーー!!)
11投目、ラップスカートを翻し、振りかぶって投球!
スカーーーーーーン!!
(決まったぁぁっ……ッッ!!)
見事、ストライク……!!
この数日間、学校帰りにラウンドスリーに通い詰めて練習した結果、ガーターも、ストライクも自在に狙って出せるようになっていた。その成果がいま、現れた。
和奏に向かってピースサイン! からの〜〜、ハイターッッチ!!
和奏が額に手を当て俯きながら僕のタッチを受ける。
どうやら、僕の姿が眩しすぎて、直視できないようだ。
「……、あたしトイレ…………、」
「僕がエスコートするよ(キリッ)」
「いいわ……、遠慮しとく……」
ふらふらとトイレへ歩いて行く和奏。
僕のかっこよさに照れちゃって、遠慮している彼女のしおらしい姿を見送る。
——どうやらこのイケメンデート、大成功のようだ……!!




