② 同性への恋心。異性への変貌。 『いいわよね、女の子同士の恋……』
罰ゲームにより、校舎裏で清楚美人の亜桜に告白した僕。
あえなく振られてしまったものの、突如彼女に連れられ、校門を潜る。
「ね、ねぇ……これ、恥ずかしいんだけど……??」
僕の手は、亜桜に握られたままだった。
手から伝わってくる彼女の体温。
周りに同じ学校の人はいないが、やはり気まずいし、気恥ずかしい。
「ちょっと急ぐから我慢して……? あのバスに乗るわよ」
バス停を見ると、ちょうどお客さんが乗降中のバスが停車している。
小走りで列に並び、交通系ICカードをタッチして乗車。
車内を見回すと、一番後方、左隅の席が空いている。亜桜が窓際、僕がその右横へと座った。
彼女は、バッグから茶色い書店のカバーが掛けられた本を取り出すと、そのまま読みはじめてしまう。
することがない僕は、車窓から外を眺める。
普段、僕が使っているのとは違う系統のバス。
見慣れない道を、バスは進んでいく。
——僕たちがバスに乗ってから、20分ほど。
図書館や中学校のある通りを過ぎると、高層ビルが立ち並ぶ一帯に差しかかる。
展開の読めない状況。不安と疑問が募ってゆく。
(——亜桜、僕をどこに連れて行く気なんだろう……?)
「——次で降りるわよ」
急な亜桜の声で、我に返る。
彼女が読んでいた本はすでにバッグに仕舞われ、降りる準備を整えていた。
バスの前方に、ひときわ大きなタワーマンションが見えてくる。
「——前、——前、左右にご注意の上、お降りください」
先ほど見えたタワーマンションの横で停車するバス。運転手の声を聞き、僕たちはバスを降りる。
亜桜は、バスを降りると、一直線にタワーマンションのエントランスへと入っていく。
「あ、亜桜さん、ちょっと待って……!」
慌てて僕も彼女についていった。
「ここって、もしかして……?」
「そう。あたしの住んでいるマンションよ。
最上階があたしの部屋だから……」
エントランスを抜け、ふたりでエレベーターに乗り込む。亜桜が操作盤の前に立ち、ボタンを押した。
操作盤の前で背を向けたままの彼女。
「——殿村くん、
なぜ、あたしに告白してきたの……?」
背中を向けたままの彼女から、不意な質問。
小さいがよく通る声に、ドキリとする。
(やっぱり、そう思うよな……)
「……なんだか、
いい人そうだな、って思ったから……」
——あながち、間違った答えではない。
『罰ゲームだった』、なんて言うよりは、
100倍マシな回答だろう……。
「そう……? 分かったわ……」
顔が見えないため、亜桜がどんな表情をしているかは分からない。
しかし、怒っている、という感じではなさそうだった。
——ピンポーン
会話の終了を告げるかのように、エレベーターが上昇をやめて、扉が開く。
エレベーターから降りると、彼女に導かれ、共有通路を進む。
一番端にある部屋の前で立ち止まる亜桜。バッグから鍵を取り出し、解錠する。
誰も居ないのか、中は真っ暗だった。
「どうぞ……?」
「お、お邪魔します……っ!」
女の子の家に入るなんて生まれてはじめてで、声が震えてしまう。
「今、家族いないから、安心していいわよ……」
「え……?」
その言葉に心臓が一拍、ドクンと跳ねる。
廊下を進み、突き当たりの部屋の前で立ち止まる。
【wakana】と書かれたルームプレートが掛けられた、その扉。
「あたしの部屋よ……。入って?」
ノブを回す彼女。
緊張しつつも、亜桜の私室へ足を踏み入れた。
部屋に漂う甘い香り。
家具は、ベッドや本棚、ローテーブルなど、白を基調に揃えられていた。
「ちょっと、この本読んで待っててもらえるかしら……?」
本棚から本を2冊引き抜いてローテーブルに置くと、そのまま部屋から出ていってしまう。
僕ひとり残された亜桜の部屋。
「どうしよう……?」
とりあえず、先ほど彼女がローテーブルに置いた本を手に取ってみる。
タイトルは、『岬トライ&アングル』。
上下巻になっており、上巻の表紙には、ふたりの少女のイラストが描かれていた。
左には、三つ編みでキラキラした目の女の子。
右には、茶髪で快活そうな女子が並んでいる。
一見すると普通の少女マンガだが……、
(え、これ……!?)
ページをめくる。
主人公は、表紙の左側に描かれていた、亜桜と同じく巨乳の三つ編み女子高生、岬。
しかし、よくある少女マンガかと思っていたら、第一話で突如、表紙の右側に描かれていた快活な少女の触愛と岬がキスをしたり、ベッドの上で半裸で抱き合ったりするシーンが出てきた。
(亜桜は、こういうマンガ……、百合系が好きなのか……?)
そんなことを考えていると、
——シャーー……、
扉を隔てた奥のほう。
不意にシャワーらしき水音が聞こえてきた。
「……えっ?! シャワー浴びるの??」
まさか、このマンガみたいにエッチなことをするために僕を部屋へ連れてきたのか……?
……そんなことはあり得ないとは思いつつも、とりあえず目の前のマンガを読みはじめる。
しかし——、
なにげなく読みはじめたものの、アッと言う間に、作品の世界に引き込まれていった。
女の子同士の恋の駆け引き。
予想外の展開の連続。
続きが気になり、時間を忘れて
ページをめくっていった。
——ふと、気付くと、下巻の最終ページまで来ていた。
(顔が熱い……!)
大きなうねりにとらわれたような高揚感。
ヒロインたち、女の子同士のすさまじい恋愛模様。
その儚く切ない感傷。
読み終えたばかりの僕の胸が、ドキドキしている……!
(——こんなスゴい世界があったんだ……!)
壁に掛かった時計を見ると、読みはじめてからすでに1時間半ほどが経過していた。
「えっ?! もう、こんな時間……!?」
「お待たせ…………」
タイミングよく、部屋着に着替えた亜桜が部屋に戻ってきた。
その右手には紙袋を携えている。
上はグレーのトレーナー、下は紺のスウェットパンツ。
湯上がりの、まだ乾ききっていないサラサラの長い黒髪に、火照る身体から香るシャンプーのにおい。
——まだ童貞の僕には、彼女の香りだけで、頭がクラクラとする。
「お待たせしちゃって、ごめんなさいね……あたし、外から帰ってきたら、すみずみまで体を綺麗にしないと落ち着かないタチなのよ」
「そ、そうなんだ……」
「……あら? もしかして、もう読み終わったのかしら?」
亜桜が、僕の手に握られたマンガを指差す。
「う、うん。なんか夢中で読んじゃった……」
「そう……いいわよね、女の子同士の恋……」
うっとりとした表情を浮かべる亜桜。
おもむろに、紙袋から何かを取り出し、ローテーブルの上に並べる。
「ねえ……これ着てみてくれないかしら……??」
テーブルの上、畳まれた衣類。
——スカートやブレザー、ブラジャーに、小さなリボンのついたショーツ……。
(……って、これっ……!?)
「そう。女の子モノの、制服や下着よ……」
「な、なんで、これを、男子の僕が……っ?!」
「……殿村くん。あなた、なかなか、かわいらしい顔してるわよね……?」
よく言えば中性的な、僕の顔立ち。
亜桜が、その僕の顔に、そっと手を這わせる。
くすぐったい……得も言われぬ感覚が全身を走った。
彼女は、蠱惑げな表情を浮かべている。
「——あたし、なんだかあなたのこと気に入っちゃったわ。
もし、その服着て女装してくれたら、あなたの告白、考えてあげてもいいわ……」
「わ、わかった。とりあえず着てみるよ……」
了承の返事。
亜桜の妖艶さに圧倒され、思わず頷いてしまう。
◇◇◆◇
まず、足や脇の体毛剃りと、メイク前の洗顔をしたほうがいいということで、風呂場に入れられた。
全裸になり、渡されたカミソリで、脇やすね、足首の体毛をすべて剃る。
今の季節が秋で良かった。夏だったら、短パン姿になった時に、ツルツルになった足を囃されかねない。
下腹部のアソコに目をやる。
しかし、亜桜は、『肌荒れしたらいけないから……』と言って、ソコは剃らなくていいことになっていた。
アソコ以外の体毛を剃り終え、シャワーで体を洗い流し、髪や身体を洗う。
最後に、風呂場でそのまま洗顔をする。皮脂の汚れを落とし、保湿剤を指にとって、顔に塗った。
風呂場を出る。
渡されていた、亜桜父の、シャツと短パン、トランクスを穿く。全体的に僕には大きめで、彼女の父親の存在感が伝わってくるようだ。
——不安な気持ちを抱えつつ、僕は亜桜の待つ部屋へと戻る。
◇◇◆◇




