⑭ 猫のキモチ。胸元に流れる時間。『優しく接して……触れ合ってあげてね?』
ゲーセンを出た僕たちは、先ほどスマホで存在を知ったキャットカフェへと向かう。
どうやら、高架下の路地の中にあるらしい。ネット情報によると、下町のなかにある、穴場スポットなのだとか。
複雑に入り組んだ狭い道。頭上を見上げる。
薄暗くなってきた空。その中に、この街へ来る際に乗ってきた電車の高架線が見えた。
しばらく迷っていると、古民家のような建物の前にたどり着いた。
「ここじゃないかな?」
僕のスマホに表示したキャットカフェの外観と一致している。
ややこぢんまりした店構え。実際の古民家を改装したらしく趣が感じられる。
「……あっ!」
突如、和奏が声をあげる。
「……どうしたの?」
「優の格好……、やっぱり、スカートでキャットカフェはマズいんじゃないかしら……?
もし、猫がスカートに潜り込んで、下着が見えちゃったりしたら……」
(たしかに、スカートが万一めくれでもしたら、ショーツの下の膨らみで、男ってバレるかも……!?)
キャットカフェの前で騒いでる僕たち。
——ガラッ。
キャットカフェの扉が開く。
「——もしよければ、無料で着替えを貸し出してるからどうぞ?」
扉を開けた女性が、僕たちふたりに微笑みかける。
胸元に猫の足跡のイラストがプリントされたエプロンを纏っている——。
キャットカフェの店員さんだった。
◆◆◆◆
キャットカフェ店内。
更衣室で、店員さんから渡されたジーパンに履き替えた僕。
席に腰掛け、店内を見渡す。
店内は猫と触れ合える猫スペースと、飲食できるカフェスペースに分かれている。
僕たちは、そのカフェスペースから店の中を眺めていた。
三毛猫や、灰色の毛の猫……。
キャットタワーから眼下のお客さんを見下ろしていたり、猫鍋状態になっている猫たち……。
お客さんはと言えば、猫スペースで、お店で買ったおやつをあげたり、カフェスペースでコーヒーを飲みながらのんびりと眺めている人などがいる。
そこには猫と人間。おたがいゆったりとした時が流れている。
先ほど、扉の前を開けて僕たちに声を掛けてくれた女性店員さんがオーダーにくる。
大学生くらいで、スレンダーな体つき。
注文を厨房に通したあと、その店員さんからキャットカフェの話を聞く。
「この猫たちはもともと野良猫や、捨て猫、迷い猫とかの保護猫がほとんどなの。うちでは里親探しとかも行なってるのよ」
優しく微笑むキャットカフェの店員さん。
——和奏と違い小振りな胸。でもしっかり大人の女性の雰囲気を感じさせるその胸元へと両手を当てる。
「だから、優しく接して……触れ合ってあげてね?」
「ええ……」
「わかりました」
厨房からガタガタと音。
パタパタパタパタ……。
「あっ、情ちゃん! ちょっとこっち手伝ってくれるかしら?」
「はーい! ……ごめんね、呼ばれちゃった! またあとでねっ」
厨房へと消えてゆく、情という名の店員さん。
「優しい人ね……」
「うん……」
◆◆◆◆
しばらくキャットカフェを堪能した僕たち。
借りたジーパンを返し、丁寧にお礼を告げ、キャットカフェをあとにする。
本日はお開きにしようと、駅へ向かう。
狭い路地。先ほどより暗くなってきた道。
見上げると、空模様があやしい。
「あれ? こっちだと思ったんだけど……」
高架線が割と近くに見えるので、駅は近いはずなのだけど……。
——ポタッ……
顔にあたる冷たい感覚。
頭上を見上げる。
細い雨筋。
「優、急ぎましょ!」
——サーーーーーッ……。
和奏が言うも虚しく、あっという間に本降りになる空。
服はずぶ濡れ。スカートも水を絞れるほどびしょびしょだ。
(ブラウスが……スカートが、肌に張り付いて気持ち悪い……今すぐ脱いで着替えたい……!)
そのまま濡れ鼠状態でさまよう僕たち。
すると、ネオンに輝く、見覚えのある看板に、あやしげな雰囲気の建物が見えた。
この街へと来た際に、電車の車窓から見えた独特な書体の看板。
——ラブホテルだ。
『休憩 3700円』……。
記された現実的な料金に目が行く。
「休憩……ひと休みしましょう?」
雨に濡れた髪に、肌に張り付き、透ける服。
——和奏が妖艶に微笑んだ。




