⑬ 下町情緒。ふたりのプリクラ。『あら、かわいいじゃない……凛みたいで』
週末、土曜日。
まずは和奏のマンションへと向かい、前回のデートで購入した服へと着替えた僕。
本日は、下町を散策したいという彼女の希望により、電車をいくつか乗り継ぎ、ちょっと遠めの場所にある町へと移動する。
その移動中の列車内。
「……結局、行き先は和奏に任せちゃったけど、どんな場所に行くの?」
下町とひとくくりに言っても、浅草のような観光地や、住宅地的な場所など、さまざまだろう。
「今日行く所は、観光というより、古くからの住宅地的な場所になるわね……」
和奏はスマホで、本日行く場所の情報をあらためて確認し始めた。
手持ち無沙汰になった僕は、車窓から外の景色を見る。
専門学校の看板や、昔からある家の軒並み、古めかしいラブホテルの看板——。
どこの町にでもありふれたような、その景色。
やがて目的地に到着。ホームへと降り立つ。
改札をくぐり抜ける。
駅前は、閑散としているわけではないが、人や車はいるのに、どことなくもの静かな雰囲気。
「下町情緒って言うのかしら……」
スマホをバッグにしまった和奏がつぶやく。
商店街には昔ながらの八百屋、魚屋、豆腐屋、クリーニング店にスナックなどが立ち並んでおり、落ち着いた雰囲気がある。地元の人々のそばへと寄り添う、そんな街の姿。
路面電車も行き交い、不思議と懐かしい気持ちに包まれる。
その中に立つと、ブラウスにフレアスカートという僕の出で立ちは、すごくアンバランスに感じられた。
僕の住んでいる溝ヶ淵という街は、多少なりとも活気があるが、この街は物静かな雰囲気。陰と陽……いや、そんな言葉は適当ではないだろう。
駅前から離れ、細い通りへと足を踏み入れると、現実から切り離されたような静けさ。
小さな駄菓子屋さんがあり、中を覗いてみる。
「いらっしゃい……若いおふたりさん」
座布団に座ったおばあちゃんがシワだらけの顔に、柔和な笑みを浮かべる。
「ふたりとも、ベッピンさんやねぇ……」
華やかな服装と雰囲気の僕たちを見たおばあちゃん。僕が男だって気付いてないのだろうか……。
「あったかいお茶、飲んでくかい? 外から来て寒かろう……」
和奏と顔を見合わせる。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただいてもいいかしら?」
ありがたくも、おばあちゃんに温かいお茶を淹れてもらう。
店内を見回すと、小さな空間の中にびっしりと色々なお菓子やおもちゃが並んでいる。
昔からやっているアニメキャラのお面や、僕の知らないアイドルのブロマイド、小さなお菓子の数々……。
「あ、これ……」
薄いプラスチックケースの中に入った、グミやゼリーのような小さな正方形のカラフルなミニ餅。
昔、よく食べたその駄菓子。
「あら、それ懐かしいわね……」
和奏が覗きこんでくる。
「……和奏でも食べたことあるの?」
(てっきり、お金持ちのお嬢様かと思っていたけど……)
「あたしをなんだと思ってるのよ……?」
ふたりそれぞれ、チェリー味とサイダー味を購入。
ちょっとずつ分け合い、おばあちゃんの入れてくれたお茶を飲む。
——至福のひととき。
しばしのまったりタイムを過ごす僕たち。
20分ほどおばあちゃんとお話して、長居も悪いだろうと、暇乞いをする。
「お茶おいしかったわ……、おばあちゃん、ありがとう」
「おばあちゃん、ありがとうございました」
「またおいで」
小さく手を振ってくるおばあちゃん。
(また来よう……、次も和奏とふたりで)
決意を胸に、駄菓子屋をあとにする。
◆◆◆◆
駅前へと戻りしばらく歩いていると、古い外装のゲームセンターがあった。
ガラス越しに中を覗くと、昭和末期から平成初期で時が止まったような店内。
筐体のモニタ内で忙しなく動くドットキャラ。ファミポン時代のアーケードゲームだろうか……?
ゲームセンターBXの、無野課長とかが喜びそうな空間だ……。
おそるおそる、店内へと入ってみる。
店内には、さまざまなゲームサウンドが渾然一体となっており、騒がしい。
見渡すと、大型の筐体がいくつも並んでいた。
『バーチャルファイト』という、ひと昔は一世を風靡したらしい、今ではカクカクにしか見えないポリゴンの3D格闘ゲーム。
(続編の『バーチャルファイト2』は、めちゃくちゃヌルヌル動くらしい)
その他、実際のバイク筐体に跨り操縦する、
『ハングオフ』という、ある意味ダイナミックなゲームなどに目を引かれた。
(でも、たとえゲーセンでも、流石にスカートでバイクは無謀だろうな……)
自身の足元。フレアスカートに包まれた両足を見る。
どうも、最新のゲーム機は置いていないようで、比較的新しい機種でも、僕たちが生まれた頃のゲームで止まっているらしい。
「あ! 優、あっち」
和奏が、ドラムの達人の筐体奥を指さす。
その奥。上だけ布で隠された縦長の筐体。
——プリクラだ。
90年代末期のタイプらしく、すこし時代を感じる。
値段は300円。令和のプリクラ相場は知らないが、物価高の昨今、リーズナブルと言えるだろう。
「撮りましょうよ」
「うーん……」
これまで女の子の知り合いなんていなかった僕。プリクラなんてやったことはない。
それに、最近は、男性のみでのプリクラは、盗撮やナンパ防止などのため禁止されているらしい。
まぁ、禁止されてなくても、航汰とプリクラなんて撮りたくないけど……。
「あたし、プリクラ好きでね、……ほら、凛と撮ったり、クラス委員長の恩田さん……麻音とかと撮るのよ」
和奏がポーチからプリクラノートを取り出し、凛や恩田と撮ったプリクラを見せてくる。
「……僕、はじめて撮るよ……」
「……ふぅん……? じゃあ、あたしとが『初体験』ってわけね?」
クスリと微笑む。
「プリクラが! ね」
プリクラを強調する。
プリクラの仕切り内に入る僕たち。
和奏がハートのフレームを選択。
流れるように腕を絡めてくる和奏。
——ぶにゅりと伝わる、やわらかい感触。
(む、胸が当たってる……!)
何度か味わってしまっている、まだ慣れないその感触。
動揺を悟られまいと、なんとか笑顔を作ろうとする。
『はい、チーズ……!』
機械音声。パシャリ。
『できあがるまで、ちょっとまっててね』
待つことしばし。
——カタン。
取り出し口の蓋を開き、小さな写真を手に取ってみる。
——ちいさなプリクラに写るふたりの姿。
僕の腕にしがみつき、眩しい笑顔を浮かべる和奏。
それとは対照的に、彼女に密着され、困り笑顔を浮かべる僕。
「なんかヘン……」
思わずため息が漏れる。
「あら、かわいいじゃない……凛みたいで」
——和奏に抱きつかれ、困り顔を浮かべる凛の顔が頭に思い浮かぶ。
「……それ、褒め言葉?」
「もちろんよ……、
今撮ったプリクラも大事にノートに貼るんだから……」
そう言って、口元に笑みを浮かべる和奏。
「あはっ、そっか……!」
思わず僕の口からも笑いが漏れる。
和奏といると、なんだかホントに楽しいな……。




