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33:レティシアの推理


 昼食を食べた後、3人で本を読み続ける作業に戻った。けれど、ネックレスの魔石――精霊の涙に関する情報は、あまりに少なかった。


 いくら探しても、最初の本に書かれていた内容と、ほとんど代わり映えしないものしか出てこない。


「やはり、貴重な魔石だけあって、本で調べるのは限界かもしれませんね」


 サイラスが珍しく厳しい顔をしている。 


 手詰まり感が見え始めた頃、図書室の扉が勢いよく開かれた。険しい表情で入ってきたクレアは、隅のテーブルで調べものをしていた3人をすぐに見つけ、素早く近寄ってきた。


「あっ……」


 サイラスから『やってしまった』感満載の声が漏れる。クレアの足音が大きい気がするのは、多分気のせいではない。


「こんな時間までレティシア様をつれ回すなんて、一体どういうことですかっ!」


 はっとして窓を振り向くと、すでに陽は沈み、外はすっかり暗くなっている。図書室の中は魔法の明かりでずっと光が保たれているから、全く気付いていなかった。

 

 集中していると、時間はあっという間に過ぎていく。今更ながら、使い続けた頭の重さを感じて、レティシアはぎゅっと目を閉じる。


「ごめんなさい。つい、夢中になってしまって」


 レティシアは謝ってから、本を閉じて棚に戻した。サイラスも魔法で数冊の本を一気に飛ばし、元の場所へと納める。

 クレアの目がサイラスに向いている間に、セシルはこっそりローブの下へ本を数冊、滑り込ませていた。


 セシルの表情は、いつもよりどこか固く見える。


「無理は駄目ですよー」


 クレアの声色は、あくまでも穏やかで優しい。


「はい。クレアさんがいてくれて、良かったです」


「本当に。クレアがいなければ、徹夜で本を読みふけっていたかもしれませんね?」


「もうっ! サイラス様たちにとっては普段通りの生活でしょうけど、レティシア様を巻き込まないで下さい!」


 クレアの雷が落ち、サイラスは苦笑いを浮かべた。……やっぱり、サイラスはしょっちゅう徹夜をしているらしい。


「焦っても仕方ないですし、ゆっくり調べましょう。また明日ですね」


 明日の約束。そんな些細な一言に心が跳ねる。期限付きの日々を、少しでも長く一緒に過ごせるのなら――こんなに嬉しいことはない。


「はい。よろしくお願いします」


 だから、レティシアは努めて明るく返した。






 翌朝。


「これからセシルたちと調べものをされるんですよね? だったら髪飾りや指輪は邪魔になってしまうでしょうか……」


 ドレッサーの前に座ったレティシアは、クレアと一緒に身支度をしていた。サイラスの妹姫のものだという宝石がついたアクセサリーが、クレアの手で次々と却下され、ケースに戻されていく。

 結局レティシアが身に付けたのは、サイラスから貰ったイヤリングくらいになった。


「……?」


 美しくカットされた宝石たちを見て、レティシアは小さな引っ掛かりを覚えた。

 

 思わず精霊の涙に触れる。これもまた、その名に相応しい雫型にカットされ、宝飾品に加工されたものだ。魔石は宝石と同じく、元々は鉱物として発掘され、研磨・加工された後で活用されている。


 精霊の涙だって、きっと例外ではない。発掘されたときはこんな綺麗な雫型をしていないはずだ。現に、本に載っていた挿し絵では、ごつごつとした鉱石に見えた。


 感じた引っ掛かりが、形になっていく。


(……勘違いかもしれない、けど)


 可能性があるのなら、調べてみたい。そう思った。




 朝食の後、レティシアはクレアと別れて図書室を訪れた。


「おはよ」


 いつもの席にセシルがいて、レティシアを見て軽く手を上げてくれた。彼の隣にはなんと、サイラスの姿がある。こんな時間にサイラスを見かけるのは珍しい。


「おはようございます」


 サイラスは微笑んでいるが、その顔には隠しきれない疲労が滲んでいる。

 挨拶を返し、彼らの向かい側の席に腰を下ろした。近くで見ると、より一層サイラスの顔色が悪いように見える。


「あの、大丈夫ですか?」


 レティシアが訊ねると、サイラスの代わりにセシルが首を横に振った。


「いつも徹夜して午前中に寝てるくせに、今日は起きてるから調子悪いんだよ」


 セシルの容赦ない暴露攻撃に、サイラスは視線を落とす。


「研究が立て込んでいて、つい。徹夜はよくするので、大丈夫ですよ」


 ここでレティシアはようやく、午前中にサイラスと一度も会えなかった理由を知った。


「本当に大丈夫ですか? 少し休んだ方がいいのでは……」


 レティシアの戸惑いに、サイラスは力強く首を横に振った。


「『精霊の涙』のことが、どうしても気になって寝られなかったんですよ」


 サイラスとセシルの前には、昨日と同じく本が山積みになっている。


「……あの、そのことなんですが」


 レティシアがおずおずと切り出す。


「少し、おかしいような気がしませんか」


「おかしい、ですか?」


 レティシアは頷き、ふたりによく見えるよう、ネックレスを持ち上げてみせた。

 この場の全員が、レティシアに注目している。


「私のネックレスはこの通り、雫型です。でも、魔石が発掘されたその時は、雫型ではないです。なのに原石の段階で『精霊の涙』と名前がついているのは、変ではないでしょうか?」


  

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