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25:花祭りと近付く距離 -中編-


 つまるところ、ロードリックはレティシアからサイラスに花を贈れと言っている、のだろう。


 そんなつもりではないとは、言えなかった。


 だって――花祭りの話を聞いて、レティシアの頭に真っ先に浮かんだのが、サイラスだったから。


 でも、今日お祭りに来てみて、サイラスに贈るのは早々に諦めていた。

 彼の目の前で贈り物を買う訳にはいかない。ましてやサイラスから貰ったお金で贈り物を買うなんて、気が引けてしまう。


 なのに、ロードリックはあっさりサイラスを追い払って、レティシアに思ってもみなかった『チャンス』をくれた。


「ロードリックさん……」


「言い訳は駄目です。贈りたいか、贈りたくないか、答えはどちらかしかありませんよ」


 ロードリックの顔は真剣だった。

  

 花祭りの話をされてから今まで、サイラスはクレアのことばかり話題に挙げていた。彼の言葉を思い出すと、訳もなく心がざわつく。

 サイラスは、レティシアから花を贈られるかもしれないとは、少しも考えていないのだろう。


(それは寂しい……気がする)


 彼らしいと思う反面、レティシアの心に小さなモヤモヤが生まれていた。

  

 優しくされて、楽しい日々を貰って――それだけでは物足りないと思ってしまう自分が、とても贅沢だと感じてしまう。


「年に一度の機会なんです。便乗しなきゃ損です」


 ロードリックの後押しに、レティシアははっとする。


 もちろんロードリックはレティシアの『期限』を知らないから、今を逃したら来年になってしまうと言いたかったのだと思う。


 けれど、彼の言葉はレティシアの心には強く、重く、響いた。


(私にとっては、最後の機会かもしれない)


 そう思い至ったら、もう止まれなかった。 


「公爵様に贈りたい、です……」


 気持ちを言葉にすることは、まだ慣れない。恥ずかしくて、レティシアは視線を下げた。


「なら、そうしましょう。美しい女性からの贈り物をいやがる男なんていませんよ、大丈夫です」


 ロードリックの言葉はとても大袈裟だと思うけれど、間違いなくレティシアの心は軽くなった。


 便乗しなきゃ損。そう言い聞かせて、竦みそうになる心を奮い立たせる。


「わかりました。やってみます」


 レティシアはロードリックを連れて、自分の足で通りを歩きだす。

 

 何軒か見て回った後、ふたりがたどり着いたのは、店舗が広めで上品な装いの雑貨屋だった。


 花祭りだからか、花を象った小物が前列に並べられている。


 その中のひとつに、レティシアの目が釘付けになった。


 青い薔薇をモチーフにしたカフリンクスだ。地金がシルバーだから、シックな雰囲気を持っている。

 華美ではないけど、さりげないお洒落さがサイラスには似合う気がした。


(喜んでくれるかな)


 男性に贈り物をしたことなんて、当然ない。これでいいのか、訳もなく不安に駆られてしまう。


 レティシアの視線に気付き、ロードリックがカフリンクスを手に取った。


「素敵ですね。いいんじゃないですか? きっと喜びますよ?」


 ロードリックはまた、レティシアの内心をぴたりと言い当ててみせた。しかし、その言葉にはどこか含みを感じさせる。


「あの、何かいけませんか?」


「いえ。サイラス様の瞳の色ですねと思っただけですよ」


 ロードリックの回答には納得できなかったけど、彼はこれ以上何も言いませんよ? とばかりにニコニコしている。

 釈然としないながらも、レティシアはこれを購入することにした。これ以上にサイラスに似合うものはないだろうなと思ったからだ。


 先程と同じように、ロードリックが支払いをしてくれる。

 

 店主の女性はなにやらニコニコしながら「うまくいくといいね」と声をかけてくれた。綺麗にラッピングされたカフリンクスを受けとり、クレアに持たされていた肩掛けのポーチにしまう。

 贈る時のことを考えると、何となく落ち着かない気持ちになった。


「ロードリックさんは公爵に何か買わなくていいんですか?」


 自分の気持ちを誤魔化すように、レティシアはロードリックに話を振った。


 サイラスに贈るなら今がチャンスなのは、レティシアもロードリックも同じ。なのに、彼は動こうとしなかった。


「ご冗談を。オルコット嬢への贈り物なら喜んで考えますが、男同士で贈り物は僕の美学に反します」


 女性好きな執事は、そうきっぱりと言いきった。




 

 

 おしゃべりをしている間に、合流地点の噴水広場へとたどり着いた。閑静な住宅街の一角という雰囲気の場所で、店が少ないためか、人通りはない。

 

 まだサイラスの姿は見当たらない。レティシアたちは店を覗いていたから、それなりに時間が過ぎたはずなのに。


「何かあったのでしょうか……」


 つい不安になってそんな言葉が漏れる。


「あー……それは、あれです。野暮用ってやつです。心配しなくても、すぐ来ますよ」


(野暮用?)


 レティシアが首をかしげた瞬間、見慣れた赤髪がレティシアの目に飛び込んできた。視線が合い、彼は足を早めてレティシアたちのところに来てくれる。


「お待たせしました」


 サイラスは声をかけるのと同時に、さっと何かを差し出してきた。


「……これは?」


 白い、手の平サイズの小さな箱だ。薄桃色のリボンが巻かれている。

 レティシアはサイラスの意図がわからず、まじまじとそれを見つめてしまう。


「オルコット嬢へ、俺から贈り物です。受け取っていただけますか?」



 

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