黒衣の魔女は夜に輝く
冬童話2026
全てが凍りつく世界
冬の夜空には、美しい魔女が現れ、見る者を魅了する舞を踊ると伝えられている。
それは、冬の訪れと終わり、2度だけ見ることができる。
その魔女が何処から来て、何の目的で舞うのかは、誰も知らないー…。
今年の冬も、また例年と変わることなく、魔女が現れるだろう。
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「さあ、今宵は冬の始まりの舞を踊りましょう。冬の精霊、私と共に楽しみましょう」
秋が終わり、森の動物達が安心して眠ることができるように、黒衣の魔女は冬の精霊を呼びだし舞を踊る。
魔女の舞が精霊を目覚めさせ、雪を降らせ、気温を下げ、静寂をもたらすのだ。春が来るまでの森の休息時間ー…。
魔女が高らかに精霊を呼ぶと、夜の冷たい空気から、きらきらと氷の粒が現れた。そしてそれはくるくると小さな竜巻をおこしてゆく。冬の精霊の訪れだ。
竜巻の中から、アイスブルーの瞳の容姿の整った青年が姿を見せた。襟足までの髪も瞳と同じアイスブルーだ。黒衣の魔女を見て、フイと視線をそらした。
「……どーも」
「あらあら、今年の冬の精霊は素敵な王子様ね。無事に冬が来るように、一緒にダンスを踊りましょう」
魔女の差し出した手に精霊が自らの手を重ねると、氷の粒が光と共に辺り一面降り注いだ。
魔女と精霊の背中にアイスブルーの翼が生える。
「このまま世界を冬で覆いましょう。行くわよ。王子様」
きらきらした氷の粒をまき散らし、魔女と精霊は夜空を駆けた。
風をきり、氷の粒をまきながら、空を駆ける魔女は、精霊に問う。
「毎年ね。私のお手伝いをしてくれた精霊には、1つだけ願い事を叶えてあげるのよ」
「知ってる。あなたが俺の仲間の願いを叶えるのを毎年見ていたから。だから知ってる」
精霊は繋いだ手に力を込め、魔女を見て呟いた。
2人はそのまま踊り、世界を冬で覆った。
世界をすっかり冬に変え、凍る木の枝に腰かけて魔女は精霊に問う。
「さあ、王子様。君の願いは何?私が叶えます」
ある精霊は花の精霊になりたいと願った。
また別の精霊は人間になりたいと願った。
魔女は快く願いを叶えてきた。自分だけの力では冬の魔法を使えない。手伝ってくれた優しい精霊にお返しをしたかったから。
魔女の目を見つめながら、精霊は口を開く。
「俺は、来年、再来年もその先も、あなたと過ごしたい。そして舞も、ずっと俺が手伝いたい」
「ぇ」
「あなたが何処から来て、何処へ向かうのかは知らない。森に休息を与えてくれるように、俺はあなたに温もりを感じてもらいたい。あなたはずっと一人だから」
「……」
「ダメ、か?」
精霊が魔女の顔を覗き込むと、しばらく魔女は固まっていたが、頬を赤くしながら口を開いた。
「その願い、変更できないわよ?」
「変更するつもりはない」
「来年、また願い「願い事は今回だけでいい」」
魔女の言葉を遮り、精霊は挑む目で魔女を見た。己の意思は変えないと伝わる目。
魔女はしばらく黙っていたが、精霊の願いを叶える魔法を使った。
その瞬間、2人の周囲にきらきらと光る氷の粒が舞った。
「ありがとう」
光の氷の粒に隠された涙の雫は魔女のものだったのか、精霊のものだったかは誰も知らない。
永遠の孤独ではなくなった黒衣の魔女の幸せな物語。
魔女ときらきらになるかな




