中学生が5人
女子高校生はなぜ、冷酷な悪魔になってしまったのか・・・アンバランスが生んだバランスの物語
翌日の土曜日。はなみは隣町の中央公園にいた。
天気の良い休日は、ここのベンチで読書をするのが彼女のお気に入りだ。
昨日とうって変わって涼しい、絶好の読書日和。
活字に疲れると景色を見渡す。芝生や松の緑は目の疲れを癒し、人間観察は気分転換になった。
遊歩道を挟んだ向い、ピクニック用の木のテラスでは、中学生くらいの女の子たちが5人集まっていた。テーブルの上には大量にスナック袋が盛られていて、彼女たちは一つずつ開けては、中からシールを出して一喜一憂していた。コレクション系のお菓子を大人買いしていたのだろう。
ひとしきり中身を確認したところで、茶髪の子が「じゃ、行くよ!」と言って机に上がり始めた。
「やめなって」「もったいないよー」口々に言う周りの子たちを、茶髪は「つうか、これ楽しみにしてたんだけど」と見下ろして言っていた。周りの子も咎めるというより、囃し立てる感じだ。
茶髪はとつぜん、そのスナック菓子の上にジャンプして飛び乗った。
そしてお菓子をバリバリと袋ごと踏み潰しはじめる。端の袋がいくつかこぼれ落ちたが、お構いなしだった。
表情は満面の笑みで、周囲も釣られて笑っていた。茶髪は時折「やべぇ、超楽しいわー」という感じに絶叫していた。圧力で勝手に封が開き、中身がこぼれ落ちているものもあったが、容赦なく踏まれすぐにゴミと化した。
はなみは柄の悪い中学生たちにちょっと驚きながら、同情してしまった。あのお菓子は発売当初に一度だけ買ったことがある。中身は若手男性俳優の写真カードと、コーンスナックが入っている。その味は駄菓子そのもので、「大人買い」したら処理に困るだろうな、と思ったものだった。俳優にもそこまで興味がないから、以来買うことはなかった。所詮はその程度の品物である。
気付けば陽が傾いてきている。少女たちはイタズラを楽しみ続けたようだが、はなみはそれを尻目に家に帰ることにした。
思えば、二日連続で変な光景に遭遇している。
昨日の少年のことはあまり気にしなかったはなみだが、こうも立て続けだと、少しだけ考えてしまった。あの子たちはいつから、好き好んで破壊行為をするようになったのだろうか。前にある男子が、ストレスで殴った壁に穴が開いたとか言っていた。彼氏と痴話ゲンカした帰りの女子が、教室に入るなり泣きじゃくりながらロッカーに猫パンチを繰り返し、両手をばんと突いて扉を凹ませていたこともあった。あの少年や茶髪娘も何かのストレスを、咎める人が居ない状況下で発散させていたのだろう。でもこれって、案外人に危害を加えるよりはよっぽど健全なのかもしれない。重ねてはなみは「少年には悪いことをしたな」と少しだけ思った。
その途中、なぜかムショーにクッキーが食べたくなったので、帰るなりお菓子を入れている戸棚を確認した。
チョコチップのクッキーが1つあったが、箱に書かれた賞味期限は先月で切れていた。
「はぁ?」とはなみは思った。一日、二日なら食べられなくもないけど、さすがにこれは無理。何も無くてもテンションが下がったかもしれないけど、見つけてコレじゃ、落胆はかなり大きい。
ここでふと、昨日今日の二つの現象を思い出した。どうせゴミとして捨てるだけなんだし、いっそ踏み潰したらストレスが発散するんじゃないか。と考える。親もパートで出かけていて、誰にも見られない。
気付いたら箱は手元から床に落ち、げしげしと左足はそれを圧縮した。
そして、「ばん!」と振りおろすと、胸の奥がどきっとする変な感覚と、不思議な達成感が彼女を包み込んでいた。少し呆然とていたが、我に返ると、何度も何度も踏み潰した。音もしないぺしゃんこになった所で、「袋から漏れたら掃除が面倒くなる」事に気付き、それを生ゴミ入れに放りなげた。
そういえば「少年の出来事」で、ただでさえ興奮状態だったのが、帰りにスルメを踏んだ時はもっと高まっていたかもしれない。決して良いことじゃないけど、何かを踏んづけることって、快感だ。はなみは、自分の感性が少しだけ変化したことに気付いた。
それから一週間くらいしたある日。
「はなみちゃん、ちょっといい?」
昼休みをぼんやり過ごしているはなみに、班で一緒の栗田皐月が話しかけてきた。皐月は中学でバレーをやっていた子で、細身だがすらっとした体系をしている。白みがかった肌色は淡白な顔付きと似合う。
「今日さ、学校終わったら皆でカラオケ行くんだけど、はなみも来ない?」
普段摩耶とばかり接しているはなみだが、他の子と全く関りを持たないわけではない。こう誘われることは滅多になかったが、とくに断る理由もないので「うん」と頷いた。
「よかったー!じゃ、後でメールするね」
このカラオケで何が起きるか、はなみは特に考えることもなかった。
適当に歌って騒いで帰るだけだ。どうせ。