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城への凱旋報告

「本日も世界の平和は、我が剣によって守られた!」


 街はずれ、薄明かりの灯る二階建ての建物。

 豪奢な石造りの城……に見えるのはアランだけで、現実は年季の入った娼婦宿だ。


 ドアを開け放ったアランは、胸を張って中へずかずか進み、カウンターにいた女将へ敬礼する。

「ただいま戻った! 魔の森に潜む首なし獣は討ち果たしたぞ!」

「……また来たのかい、アラン坊や」

 化粧の濃い女将は片眉を上げ、うんざりとした視線を向ける。


「首なし獣? あんたが倒したのはただの倒木じゃないのかい」

「木に見えるのは魔物が化けた姿だ! 油断してはならん!」

 アランは真剣な眼差しで言い切る。背後でフィオナが頭を抱えた。


 奥の部屋から女たちが顔を出し、くすくす笑いながら寄ってくる。

「また武勇伝かい? ちょっと聞かせてよ、アラン様」

「今日は何匹倒したの?」

 アランは得意げに剣の柄に手をかけ、劇的な身振りで語り始めた。


「まずは――」

「お騒がせしてすみません!」

 その言葉を遮って、フィオナが女将に深々と頭を下げる。


 しかしアランの調子は止まらない。

「民草の安寧を守るのは騎士の務め! そなたらはただ安心して笑っておれば良い!」

「はいはい、ありがとねぇ……」

 女将は苦笑しつつ、カウンター越しに手を振った。

「で、今日も報告は終わり? なら帰っておくれ。お客さんの邪魔になるから」


「む、城主殿は忙しいと見える……ではまたのちほど!」

 アランが颯爽と踵を返すと、フィオナは慌ててその背を追う。

 外へ出た瞬間、彼女は小声で囁いた。

「……何回追い出されれば気が済むんですか」

「何を言う、我らが守る民の顔を見に来るのは騎士の嗜みだ」


 そんなやり取りをしながら、二人は夜の街を歩き出す。

 アランの背中は、本人にしか見えない“英雄の輝き”を放っていた。

 ――それがどれだけ周囲を困らせているか、まったく自覚のないまま。

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