従者交代?魔王の手先?
その日、広場は妙にざわついていた。
どうやら王都からやってきた商人一行が開く品評会があるらしい。
珍しい布や宝飾が並び、人だかりでごった返している。
そんな中──ご主人様は相変わらず人目を集めていた。
イケメンの宿命というやつだ。
長身に整った顔立ち、そして鎧姿。市場の娘たちがこぞって視線を送ってくる。
「あの人、誰?」
「騎士様じゃない?かっこいい……」
「横の女の人、従者かしら……いいなあ」
……横の女、つまり私である。
ちらちらと刺さる嫉妬の視線。
慣れてはいるが、今日はやけに熱量が高い。
人混みを抜けた瞬間、二人組の町娘がつかつかと近寄ってきた。
「ねえ、あなた、その人の従者なの?」
「ええ、一応は」
「じゃあさ、代わってくれない? 私たち、こういうの向いてるし」
笑顔だけど、目は笑っていない。
……はいはい、またこれだ。
私は大きく息をつき、肩をすくめる。
「いいですよ? じゃあ今からどうぞ」
「あ、ほんと? やった──」
その瞬間。
「何をしている!!」
鋭い声が響いた。
振り向けば、ご主人様が目を剥いてこちらを見ている。
「貴様ら、フィオナをどこへ連れ去るつもりだ!」
「えっ!? いや、その……」
「さては魔王の手先だな!」
ジャキン、と剣が抜かれる。
通りが一瞬で静まり返る。
娘たちは悲鳴を上げて、あっという間に人混みに消えた。
「……アラン様」
「危ないところだったな、フィオナ。怪我はないか」
「ありませんけど……」
「よし。次からは、見知らぬ者に声をかけられても絶対について行くな」
完全に親の説教口調である。
いや、そもそも私はついて行く気なんてなかったし。
でもまあ……アラン様は私を“絶対的に”信頼している。
その目は、幼なじみでも従者でもなく──死線を共にくぐった戦友を見るようなものだ。
だから、どんなに面倒でも、私は彼の横に立ち続けるのだろう。
……お小遣いと引き換えじゃ割に合わないけど。