表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『コミカライズ』浮気はいりません

作者: にのまえ

 三十路前だった私が、乙女ゲームの悪役令嬢キャロットに転生するなんて思わなかった。どうせ転生するなら長閑な村の宿屋、定食屋の肝っ玉女将か。優しい旦那がいて、幸せな結婚を既にしている女性になりたかったな。

  



 乙女ゲームが始まる学園に入学して、ひと月が経ったあるの休日。

 

 この日は王妃教育が予定よりも早く終わり、たまには執務が忙しい王子をお茶に誘おうと、王城のメイドに庭園へお茶の準備を頼み、婚約者の彼がいる執務室へと向かった。  


「ご苦労さま。ジュリオン様は中にいらっしゃる?」

 

「……キ、キャロット様⁉︎」


 執務室の扉前で警備する騎士は訪れた私を見て、ギョッとして、苦笑いを浮かべた。なぜかと言うと、このとき執務室の中から婚約者のジュリオン・ローベルスと、男爵令嬢ナナカ・アンジェリカの戯れる声が聞こえた。


(まぁ学園に入学してひと月あまりで、二人の関係はここまで進んでいるの? ……フフッ若いわ、盛りのついたなんとやらね)


 入室を止める騎士を無視して、ノックをせず、執務室の扉を音を立てて開けた。


「きゃっ!」

「な、」


 執務室にいつも側にいる彼の側近は居らず、2人はソファーの上で濃厚なキスしていた。お互いの着衣は乱れ……いまから、甘い愛の語らいでもするのかしら?


 ――わたしは笑ってしまいそうな、口元を扇子で隠して、


「あら失礼、ノックを忘れてしまいましたわ。ジュリオン様を、お茶に誘いにきたのですが……お忙しいようなので、またにします」


 優雅にカーテシーを決めて、扉を閉めた。

 執務室の中から、彼らの慌てる声とわたしを呼ぶ声がしたけど、それを無視して庭園へと向かった。


 庭園に王子とではなく1人で現れたわたしに、メイド達は手を止めて静かに頭を下げた。庭園には、わたしが伝えたとおり、綺麗に咲くバラ園の中央に日除けのパラソルと、テーブルがセッティングされている。


 ここまで、準備してくれた彼女達には心苦しいけど。


「ごめんなさい、ジュリオン様はいまお忙しいみたいなの……せっかくお茶の準備をお願いしていたのに、中止になってしまいましたわ」


 と伝えた。

 メイドは首を振り。


「いいえ、キャロット様。お気遣いは不要です」

「そうです、キャロット様」


 何事もなかったかの様に、片付けを始めた。

 わたしはそのメイド達にこう伝えた。


「あ、待って。準備されたお茶は、そうね。彼がいる執務室に運んでください。中の方と、ご一緒にお茶をするでしょうから」と。


「……は、はい、かしこまりました」


「では、お願いするわね。あら、美味しそう。このお茶菓子を少し、いただいてもよろしいかしら?」


 メイドに伝えて、お茶菓子を少しお土産に貰った。


(フフッ、美味しそうなケーキとクッキー、後で従者といただきましょう)


 この後、執務室にお茶を運んだメイド達は一体何を見たのでしょうね。


 ……浮気男なんて大嫌い。




 前世、三十路手前で婚約者に浮気をされ。

 今世も、婚約者に浮気をされた。


 浮気現場を見るのも、前世と合わせて2度目。

 嫌味なことに、シチュエーションも似た様なもの。


 何度見ても嫌なものね。


 前世の私は、一ヶ月後に結婚式を控えていた。

 深夜遅く仕事を終えて、婚約者が待つマンションに帰ると、彼は知らない女性と楽しげに過ごしていた。


 納期前で仕事が忙しく、ふたりで過ごす時間が取れずにいた。忙しいながらも、朝食とお弁当は欠かさず作っていたし、掃除、洗濯だってしていた。


 それなのに彼は浮気した。


 浮気をした理由は、私に会えず寂しかった、と。

 さらに彼は「彼女が、私に似ていたからしょうがない」と。その言葉は私を深く傷つけた。


 ――こんな話に、私はどう反応すればいいのかしら?

 

 似ていたのなら仕方ないわ……って。私に似た誰かさんと体の関係まであるのに。許すのも。結婚するのも。おかしな話だ。


 私だって、あなたと一緒に過ごしたい気持ちを我慢していたのに。あなたは"私に似ている人"と、浮気という欲を楽しむなんて……酷い。


「結婚をやめるわ。私達、婚約を破棄しましょう」


 結婚式の取り止めを参列者へ報告、式場のキャンセル料、慰謝料の話、を済ませ、彼と婚約を破棄した日。


 私は一人、居酒屋でやけ酒を飲んだ帰りに事故にあったことを、第一王子の婚約者に選ばれた五歳のときに思いだした。


(昔遊んだ乙女ゲームの世界? わたしって転生しても悪役令嬢か……)


 王家によって、王子との婚約を決められてしまえば、断ることも出来ず。婚約者となって十年以上も王族と、周りの貴族達の重圧に耐えてきたのに、学園に入学してひと月後――王子はゲームの通りといえば通りなのだけど、ヒロインと浮気した。


 その、浮気王子が何を言い出すのかと思ったら。

 彼女と目と目が合った瞬間に恋に落ちたとか?

 彼女は僕の心のオアシスだとか?

 心に花が咲くのだ……この王子、バカなのかしら?


 わたしはゲームの内容を知っているから、心は痛めたが落ちつけただけ。あなたは気になる人が出来たのなら"おいたをする"前に婚約者のわたしに伝え、話し合いをするなり、婚約を破棄して責任を取るべきです。と告げた。


 図星も図星で、王子は額に汗を浮かべ、わたしから目を逸らし一言


「すまない」


 と言った。

 



 ――ほんとうなの? あなた達はわたしがあれほどした、忠告を忘れたの?

 

 わたし達の婚約の破棄もまだなのに、よくやるわ。

 半年後に開催された王子の誕生会で、エスコートとファーストダンスを踊るジュリオンとナナカ。何を言っても通じない、王子とヒロインの頭の中はお花畑なのね。


 でも、これだけ分かる。

 ヒロイン、ナナカはジュリオン狙いだと。


 それなら、それでいいわ。

 早いけど、此方も動きましょう。


 コツコツ集めた浮気の証拠を、いまからお父様とお母様に見せることにした。もし、この証拠を両親に見せて話をしてもダメだったら、家出をすればいいだけ。いまの私は三十路前ではなく、肌はツルッツルで水もはじく十六歳。


 ――まだ、やり直せる!


 顔だけ、頭がお花畑の浮気男を眺めるだけの、学園生活はあきた。王子の婚約者となった五歳の頃から、王都に引っ越して、王都と実家がある辺境だけしか知らないのも勿体無い。


 ここには魔法もあるみたいだし。

 もっと、この世界を楽しまなくちゃ。

 

 冒険、モンスター、食べ物、研究、ダンジョン、色々やりたいことを考えだしたら、楽しくなってきた。「帰るわよ」と壁際に立つ長身、黒髪、切長な赤い瞳の従者に声をかけた。


 その、わたしの従者は。


「お嬢様、本日は王子の誕生を祝う舞踏会ですよ、勝手に抜け出してもよろしいのですか?」


 不敬に値するのでは? と、チラッとわたしを見る従者に、微笑み返した。


「いいに決まっているわ。弟君が貸してくれた魔導具のネックレスに、一ヶ月前から執務室での二人の行為と会話、学園での密会、いまファーストダンスを踊る二人もバッチリ撮影したから。あちらから"不敬"だと言われても、返り討ちにできる」


 首にかけた魔導具の青いネックレスを、悪役令嬢ならではのツン目で、三つ年上の従者ランスロットに見せつけた。


 ランスロットは、


「魔道具のネックレスですか? キャロットお嬢様は用意周到ですね。しかし、お嬢様はジュリオン王子のことを、好きではなかったのですか?」


「え? わたしが王子を好き?」


 彼の浮気を知った後。ひとり、部屋で泣いたことを言っているのね。あれは前世の婚約者と王子が被って、気持ちが昂っただけ。


 ――何度も言いますが、浮気をする様な男は大嫌い。


「ねぇランスロット。あんなキャハハ、ウフフと頭の中がお花畑で浮気までしているのに『まだ、わたしは王子が好き。もっと努力して、取り返さなくっちゃ!』……なんて思える?」


 それにあの2人がくっ付けば、ヒロインのナナカに婚約者を取られたと、泣く令嬢達が減る。


「だから、気にしなくていいわ。わたしはランスロットが側にいればそれでいいの。ランは……わたしの側から離れていかないでしょう?」


「あたりまえです。僕はキャロットお嬢様の側におります。――でいいか? キャロ?」


 いつものように、わたしがランと呼べば。

 彼もわたしをキャロと呼び、普段通りの話し方に戻る。


「ええ、ランが嫌じゃなかったらの話だけど」


 高い身長のランを下から見上げれば、ポッと頬を赤くしたランが目線をはずした。


 ――なに、その可愛い反応は?


 彼、ランスロットは、幼い頃からわたしの側にいてくれる魔獣。彼が魔獣でもいいの。だって、わたしが王妃教育に疲れた日、泣いた日、傷ついた日、モフモフの狼の姿で癒してくれるから。


 ランは、わたしにとって無くてなはならない存在。

 何をなくしても、ランだけは離したくない。


「俺が嫌じゃないなら? ――その言葉、本気になるぞ」

「いいわよ、浮気しないのだったら」


 浮気男は二度と、ごめんだ。


「ククク、愛するキャロが手に入るのに、浮気なんてするわけない。……だが逃げるならいまだぞ、俺の本気はなによりも重い」


 わたしを見つめる、ランの切長な赤い瞳の奥に欲望の炎が灯る。


 ランの、本気の瞳だ。

 ちょっとでも気を抜いたら、すぐランに食べられる。

 

 ――まあ、それも悪くない。


「もう少し待って。わたし達が本気になるのは、あのお花畑王子と無事に婚約破棄できたあとね」


「わかっている。手を繋ぐくらいはいいだろう?」

「えぇ、わたしもランと手を繋ぎたい」


 二人並んで舞踏会を抜け出して、屋敷に戻った。







 ランと屋敷に戻り、魔導具に映る第一王子とヒロインのおいたの映像を、夕食おわりの食堂で「見てほしいものがあるの」と両親と兄弟に見せた。


 ヤートお父様は腕を組み。


「ほぉ殿下は浮気をしているのか。……この映像と、キャロットの話の内容からして。その男爵令嬢と、深い仲であるのは確認できる。……はぁ、実につまらん浮気物語だな」


「あらあら、まあまあ。これはまぎれもなく完璧な浮気ですわね……でも、この女の子、胸は大きいけどかなり肌荒れをしているわ。いま便秘気味ね」


 便秘って、スノールお母様。


「それで、キャロットはこの浮気王子と、婚約を破棄をしたいのだな」


「はい、お父様」


 そうだと頷くと、お父様はあっさり。


「わかった。明日の早朝、陛下に会いに行こう」


「だったらこの話は長引かせず、キッチリつけてきてくださいね。キャロットが浮気王子と婚約を破棄するなら、私もつまらない王都になんて一秒たりともいたくないわ、辺境地に戻る準備をしなくてはね」


「そうだな。私も辺境地に戻って、ゆっくり本を読みたい。明日の帰りに書店の本を買い占めてくるよ」


 二人は怒るどころか、どこか楽しそう。


「善は急げ、婚約の破棄に必要な書類を書いてくる」


「えぇ、よろしくね」


 ヤートお父様は書類を書きに書斎にゆき、スノールお母様はウキウキと屋敷中のメイドを集めて、帰る支度を始めた。

 

 王子の浮気を見ても暴れず、眉間にしわを寄せこめかみに青筋を浮かべて食堂で黙っていた、熱血ギークお兄様と冷血弟ジンセが話しはじめる。


「母上。私も、可愛い妹キャロという婚約者がいながら浮気した、あのクソ王子の近衛騎士をやめて辺境地へ帰りたい。帰ったあとは冒険者ギルドに登録して、各国を周り冒険者になるのも面白い」


 お兄様は「強いものと戦いたい」と自慢の拳を握った。


「お母様、僕も帰っていい? キャロを蔑ろにした浮気王子がいる王都は嫌い。辺境地の、人がいない研究室で魔導具の実験がしたいし、この子達にも美味しい空気を吸わせたい」


 弟は「ゆっくりしたいね」と、キラキラ光る可愛い精霊達に話しかけた。


「いいわよ。明日の朝イチに、魔導馬車で一瞬で帰るわよ。領地に帰ったら温室のチェックと、調合室の片付けをしなくてはね」


 現役、国家薬師のスノールお母様。

 五歳年上で、王子の近衛騎士をしている脳筋ギークお兄様。わたしの一歳年下で、魔導具所長を務める精霊使いの弟ジンセ。


 みんなは今の地位を捨てて、領地へ帰る気満々だ。


「さぁはじめるわよ。あなた達はキッチン、お風呂場、食堂を片付けてちょうだい。私は大切な調合具ちゃん達をしまっているから、何かあったら調合室まで来てね」


「はい、奥様」

「かしこまりました」


 楽しげなスノールお母様に、ランが話しかけた。


「スノール様。俺はキャロと、魔族国を見てまわりたいのですが、よろしいですか?」


「魔族国? いいわよ。じゃー、これをラン君に渡しておくわ」


 ランはスノールお母様から赤い石がはめ込まれた、腕輪を渡されていた。


「このブレスレットがあれば、ラン君が魔族国の第二王子ランスロット様だってバレず、魔族領に入れるわ。この何でも入るカバンも持って、ふたりでのんびり新婚旅行にいってきなさい」


「ありがとうございます」


 いま、お母様はランスロットの事を魔族国、第二王子ランスロットだと言った。


(……ん! …………んん!! あ、ああ、乙女ゲームの隠しキャラ……魔族国、第二王子ランスロット・ガトリング⁉︎ 全キャラ好感度フルとスチル全種集めないと、攻略できない最高の難度のレアキャラだ)


 そんな人が、なぜ?

 魔獣と偽って、わたしの従者していたの?

 

「キャロ、どうした?」


 乙女ゲームの彼は銀髪、赤い瞳、ギザ歯、長い角と尻尾、肌色が焦げ茶の姿のはず。だけどいまはわたしと同じ肌色、黒い髪と赤い瞳だ。


「どうしたキャロ? 俺が魔獣ではなく、魔族の王子で驚いた? 初めて出会ったとき、キャロが魔獣姿の俺を怖がらず『ランチュロットだいちゅき』って、俺に抱きついたから」


「そんな事したの?」


「ああ、俺は嬉しかった。それに、キャロも似た様なもんだぞ。キャロの両親は俺の父上、魔王の右腕軍師と魔族専属薬師で。俺が人の国の文化を学ぶため、父上が付けた俺の護衛だ」 

 

「え、ええ⁉︎」


 魔王の右腕?

 魔族専属薬師?

 わたしが知ってる乙女ゲームって、こんな話だったかしら?

 

 生まれた時から公爵令嬢で、ランも当たり前の様に側にいたし。お父様とお母様はそんな素振り見せたことがない。


 それもそう。悪役令嬢って王子の婚約者で、婚約破棄されるだけだから、家族説明はなかった。キャロットの家族は出番がないからか立ち絵もなく、説明も両親と兄弟がいるとだけの説明。


 実際はゲームとは違い。


 本を抱いて寝るほど、異様に本好きなお父様。

 植物、薬草などに執着する薬師のお母様。

 頭の中は常に戦うことだけの、脳筋お兄様。

 魔導具作りと精霊だけに話しかける、家族以外の全ての人が嫌いな弟君。

 

 優しくて、大好きな、わたしの大切な家族。


「ほんとうは俺も、学園に通うはずだったんだが。お気に入りのキャロが五歳になって、強引に、あの王子の婚約者に選ばれたから、従者になって側にいた。……いやぁ、アイツがキャロに触れる度に、何度殺そうかと思ったよ」


「え?」


「だが、あのバカ王子、学園に入ったら他の女に手を出し始めて、キャロを傷付けて泣かすし。やっぱり殺そうと思っていたが。アイツより、キャロが俺のことを好きだと言ったから、さっき許した」


 凄いことをズケズケ言って、カッコよく微笑むラン。


「キャロの両親と、兄弟からさっき許可も貰ったし。キャロとの新婚旅行は楽しみだな」


 と笑い、そっと耳元で


「スケスケ、ネグリジェ持っていこうな」

「スケスケ? ラン!」







 翌日、王子がナナカと浮気をしていた証拠も数あり、陛下、王妃は何も言えず婚約破棄の書類に判を押した。わたしは学園の卒業を待たず、無事王子と婚約を破棄できた。


(フフ。前回の苦い経験を活かして、徹底的に浮気の証拠を集めておいてよかった)

 

 ナナカは「待って、王子1人は嫌よ!」とか「まだ、他の攻略者たちに会っていない」「学園を卒業していないのに婚約破棄できるの?」って、あなたも転生者だったのね。


 ――終わったことだし、もうどうでもいいわ。




「ランスロット君、キャロットを任せた」


「えぇ、任せるわ。キャロット、ランスロット様、私達は先に領地に戻っております」 


 ウキウキな両親とは逆に、キレ気味のお兄様と真っ黒なオーラを纏う弟君。


「クソッ、ランスロットに決闘で負けていなければ、キャロも一緒に帰れたのに! 鍛え直して再挑戦だ!!」


「僕の頭脳が、ランスロットに劣るなんて……呪う」


 馬車に乗らず、文句を言うお兄様と弟君の背中をお母様が押した。

 

「はいはい、負けた二人は黙って帰るわよ」


「ヤートお父様、スノールお母様、お兄様、弟君、気をつけて」


 みんなはバス並みの大きさの魔導馬車に乗り、お兄様は「根性!!」と、走って辺境地へ帰っていった。


「お兄様はいつも元気ね」


「そうだな……それにしても、あるもの全部持って帰っていったな」


「ええ、そうね」


 ヤートお父様は本棚ごと、スノールお母様は私の植物達と庭園に咲く木々、花達も全部引っこ抜き。お兄様と弟君も好きな私物を持っていったから、残ったのはもぬけの殻となった屋敷だけ。


 王都の一等地で、売り家となった屋敷。

 ここに住んでからの十年は大変だったけど、いい経験になった。


「キャロ、俺たちも行くか」

「うん、どこから回るの?」


「そうだな……先ずは、ここだな」


 チュッと唇を素早く奪われて、微笑んだランとわたしは霧となって消えて。ポフンと、キングサイズのベッドの上に落ちた。


 え、ええ?

 ベッドの上!!


 目の前にはギラギラ目を光らせた、ランが迫ってくる。


「最後まではしないからイチャイチャさせて、キャロにずっと触れたかった」  


 ランの瞳に、欲望の炎が灯る。


「いいけど。お、お風呂が先!」


「おぉ、風呂かいいなぁ。じゃ、一緒に入ろうぜ。小さい頃はキャロと一緒に入っていたよな」


 ニシシッと、笑うラン。


 前世、婚約者がいたから、それなりの経験はあるけど。 

 こんなに愛されたことがないから、恥ずかし照れる。


「きゃっ、ラン? いま変なところ触った」

「いいだろう。遠慮せず、キャロも俺を触れよ」


 ――俺を触れ?


「ま、ま、待って、わたしの手を掴んで下に持っていかないでぇ……ラン、恥ずかしい。いまは触らないわよ」


「いまはか。……ヤベェ、真っ赤なキャロ可愛い」


「……もう」


 本気になったランに、わたしはタジタジだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ