八話 豹変
それから一拍置いて、衝撃が背中から腹へと抜けていった。地面に倒れている僕の背中を稲村くんが突いたのだ。
サッカーでゴールが決まったときのように橋本くんと取り巻きが歓声をあげた。
「もっと、もっと行け!」
橋本くんの囃し立てる声が聞こえる。
そこから衝撃が二度、三度と背中から抜けていく。
度重なる衝撃と、止まらない笑い声。
それでいい、僕のせいで稲村くんまでイジメられる必要はない。僕は大真面目にそう思っていた。
僕がイジメられるのは、僕が汚くて、陰気臭いのが悪いんだ。イジメはイジメられる側に問題がある。僕はその典型だった。
けど稲村くんは違う。クラスで孤立していた僕に話しかけてくれる優しい人だから。僕のせいでイジメられてはいけないんだ。
僕は衝撃から身を守るうずくまった体勢のまま、稲村くんをチラリと見遣った。
稲村くんの顔を見た瞬間、僕の胸中に脱力感が去来した。ああ、君もそうなるのか。
稲村くんの顔には笑みが浮かんでいた。先程までの自衛の笑みとは違う。蟻を潰す子どもみたいな、優越感と高揚に駆られた笑顔だった。
しかし、稲村くんの豹変を見ても僕の中に怒りは湧かなかった。
稲村くんが悪いわけではない。環境がそうさせているだけなのだと、僕は知っているからだ。
僕をイジメることが当たり前という雰囲気と、橋本くんの強要というイジメを正当化できる存在。
そして、イジメられるに相応しい僕の汚ならしい格好が、稲村くんをこの行為へと駆り立てていることを僕は知っている。これまでも、見てきたからだ。




