六話 学校
「こっぴどくやられたね」
真白はニコッと笑って言った。
お前のせいだろ、少しは申し訳なく振る舞えよ。
胸中で毒づきながら、僕は机に向かって日本史の教科書を読み込んでいた。
右手で教科書を読み、左手で菓子パンを頬張る。
真面目なわけではないが、これしかすることがないのだ。
「それ読めるの?見るからにグチャグチャだけど」
真白は僕の教科書を覗き込んで言った。
真白の言う通り、僕の教科書はイジメでグチャグチャにされている。
川に捨てられてページは波打ち、ところ狭しと落書きが書き込まれていた。
確かに読みにくいが、隠されなかっただけましなのだ。
「そんな読みにくい教科書よりも私の話を聞いてよ、無視しないで」
真白は頬を膨らませ、僕の前の席に勝手に座った。
ここまで無視されて、なぜ話しかけることができるのか。僕には分からなかった。
面倒なことになる前に早く諦めてくれよ。僕は嫌な予感を感じとり、教科書を閉じて立ち去ろうとした。
しかし、遅かった。僕の後方から橋本南くんとその取り巻きが、下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。
「何お前ら、ヨゴレ同士で付き合ってんの?」
橋本くんがそう言うと取り巻きがクスクスと笑いだした。
橋本南くんはサッカー部のエースであり学級委員長を努めているこのクラスのスクールカーストの頂点。そして、僕へのイジメの主犯格でもある。
日焼けした赤銅色の肌と程好い筋肉がついた腕、そしてサッパリと刈り上げたスパイキーへア。全てが僕とは真逆。陽向側の人間だ。
これ以上面倒なことにならないようにと、僕が何も言わず立ち去ろうとしたしたところで、橋本くんは僕の手を掴んだ。
「おい、無視すんな。今日はお前に用があるんだよ」
橋本くんはそう言って自身の後方を指差した。
そこには、橋本くんの取り巻きの陰に隠れた稲村亮平くんの姿があった。
稲村亮平くんはアニメや漫画が好きなオタクで、クラスの端でいつも数人の友達とサブカルな話をしている。
何もセットしていないボサボサの髪に黒縁のメガネをかけ、体は痩せこけている。僕程ではないが、橋本くんにいじられる側の人間だった。
「稲村くんがお前と話してるの見かけてさ、可哀想だからお前のことを稲村くんに教えてやろうと思ったんだよ」
なっ、と橋本くんが肩を組むと、稲村くんは困ったように笑った。
「じゃあ移動しようぜ」
橋本くんは掴んだ手に力を入れて僕を連れ出した。
無抵抗に引きずられながら教室を眺めると、真白が無表情でこちらを見ていた。




