四話 否定
自然と声が出た。
真白はここで反応されると思っていなかったようで、目を丸くして驚いている。
僕も驚いていた。
あまりにも無意識に言い返していたのだ。怒りに突き動かされた口はぎこちなく続ける。
「虐待は、なんの理由もなく子供を殴ったり、蹴ったりすることだろ、僕のこれは、僕が悪いことをしたから、お母さんは僕のために、やってるだけなんだ、いじめは……その通りだけど」
僕は必死に言葉を並べた。人と喋りなれてないので途切れ途切れになる。
真白は僕の顔をじっと見つめたあと、ニヤリと広角を上げた。肌と同じ白い歯が顔を覗かせる。
「囚われてるね」
真白は僕に顔を近づけて言った。囚われている?何を言っているのだろう。僕が何に囚われているって言うんだ。
「そう思いたいよね、親が自分に悪意を向けているなんて、思いたくないもんね」
真白の言葉は子供を諭すような口調だった。出来の悪い子供に言い聞かせるように。
「でも、君が受けている暴力に正当な理由なんてたぶん無いよ。なんかウザいとか、なんかキモいとかそんな感じだろうね、私の親もそんな感じでさ、こんな生活が続くんだったら死のうって思ったんだよね、ねぇだから君もさ……」
「違う!」
大声をだしなれていない僕の口から、上ずった叫びが溢れた。
お母さんを勝手に決めつけるような真白の言葉は、僕の数少ない琴線に触れた。
「僕のお母さんは君の親とは違う、知ってるぞ、君のお父さんは呑んだくれで暴力もので、よく警察に連行されているヤツだろう、そんなのと僕のお母さんを一緒にするな!お母さんは……お母さんは……」
お前がお母さんの何を知っているんだ。お前みたいなのが、お母さんを勝手に決めつけるな。
頭の中で感情が駆け巡るが、言葉にならない。僕は血走った目を真白に向けた。シャトルランをしたあとみたいに息が荒くなる。
真白は肩を落としてため息をついた。やれやれといった感じでお手上げのポーズをとる。
「いや、だからさ」
真白が何かを言おうとした時、ガチャリと音がなった。
音のする方向を振り向き、僕の顔は青ざめた。
「何やってんの」
お母さんが、ドアから顔を出して、僕の様子を伺った。さっきの声だ。さっきの声がお母さんの琴線に触れてしまったんだ。
「あ、お母さん初めまして、同じクラスの真白美香と申します」
真白が懇切丁寧に挨拶をした。冷や汗が溢れだす。考えうる限り最悪の展開だった。
お母さんの顔がみるみる紅潮していく。柘榴みたいに赤くなった顔が、僕の方を振り向いた。
お母さんは僕の手をつかんで強引に部屋の中へ引きずり込んだ。長い爪が皮膚に突き刺さる。
「あの、私は……」
「うるさい、どっか行け!」
お母さんは真白に怒号を放ち、僕と共に部屋へと入った。




