二十七話 終わり
夜空に満点の星空が姿を現し始め、その時が近づいてきているのを感じていた。
僕と美香は同じベンチに座り、完全に星空が満ちるまで待っていたのだ。
僕は美香が言うのかと思って待っていたが、星が煌々と輝き始めても、美香は何も言わなかった。
繋いだ手から震えが伝わってくる。怖いのだ死ぬのが。そんなのは当たり前だ。僕らは死にたいから飛ぶんじゃない。生きたくないから飛ぶのだから。
けど、僕らは今日死ぬと決めたんだ。僕はそう自分に鞭を打ち、立ち上がって美香の方を振り向いた。
「そろそろ、行こうか」
美香は暫く僕の顔を見ていたが、少し微笑んで歩き始めた。
フェンスに向かって歩き、僕が先によじ登る。続けて僕の支えを借りながら美香がフェンスに登る。
人が死ぬには十分な高さが、大口を空けて待ち構えている。僕は生唾を飲んだ。
「ねぇ翔太」
美香が口を開いた。
「私のこと、好き?」
美香から初めて聞かれて、僕は一瞬口ごもった。いや、今さら恥ずかしがって何になるんだ。僕らにはこれが最後なんだから。
「美香は、冗談言ってばっかだし、卑怯なところがあるし、たまに悪いことをする」
美香は黙って聞いている。
「でもよく笑って、僕のことを救ってくれて、一緒にいると楽しい、美香の全てが、僕は好きだ」
僕の横で啜り泣く声が聞こえる。
「翔太は意気地無しだし、変なところで真面目だし、細いし、男らしくはないけど」
「私のことを否定しないし、慰めてくれるし、庇ってくれたし、救ってくれた、私も翔太が好きだよ」
僕の視界が涙で滲む。止まってくれ。止まってくれないと、星空も、横にいる好きな人の顔も見れないじゃないか。
僕らの恋心は、お互いに対する同情から生まれた気の迷いかもしれない。そうじゃなかったら、一週間でこんなに親密になることも、こんなに愛おしく思うこともなかっただろう。
けど僕は、僕らはそこに目を向けなかった。お互いに、自分達の最後を綺麗な感情で終わらせたかった。
「そろそろ行こう」
美香はそう言って、僕と手を繋ぎ直した。恋人繋ぎだった。
お互いの手に爪が食い込むほど強く握る。
僕は美香の顔を見つめた。夜空の星よりも、こっちを見ていたかった。美香の顔を見ながら死にたい。
美香は僕の視線に気づくと、僕の方を向いて笑った。白い歯が愛おしい、綺麗な笑顔だ。
僕は文字通り今生の惜しみ、その顔を脳裏に焼き付けた。
地獄に行っても、生まれ変わっても思い出せるように。
「ねぇ翔太、もう一回言って」
「好きだよ、美香」
「私も好きだよ」
そう言って僕らは、一歩前へと進んだ。




