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十四話 野宿

僕は真白に連れられ近くの公園に来た。


ブランコや滑り台、今となっては珍しい鉄棒まで置いてある少し大きめの公園だ。


中心にある石のドームが大口を開けて鎮座している。


既に夕日は姿を隠し、光の残滓だけが辺りを照らしている。闇夜と夕焼けの中間の景色の中で佇む遊具達はどこか寂しげに見えた。


「私たちはここで野宿をします!」


真白はふんぞり返って言った。暗くて表情は見え辛いが、どや顔をしているのが手に取るように分かる口調だ。


「野宿?こんなところで?」


僕は信じられないといった風に聞いた。


「そうだよ、前からやってみたかったんだ」


真白は何やら手探りをしながら言った。


「昔テレビでさ、どっかを横断しようとしてる途中で野宿をしてるタレントを見たことがあるんだ、あった」


真白はドームの穴を手探りで見つけると嬉しそうに言った。


そうだ、この公園のドームはカマクラみたいに中が空洞になってるんだ。小さい頃、お母さんに連れてきてもらった時に帰りたくなくて、ここに隠れてお母さん困らせたっけ。


まだお父さんもいて、お母さんも殴らない、平和で幸せな時間。


「何泣いてるの?」


真白の言葉で僕は正気に戻った。


僕の輪郭に沿って温かなものが流れているのを感じる。僕は慌ててそれを袖で拭った。


「泣いてなんか、ないよ」


苦し紛れにそう言った。真白は興味なさ気にふーんと言うと、すぐにまた石のドームへ視線を移した。


「話戻すけどさ、私昔から野宿したかったんだよね、それでこの死ぬまでの一週間はさ、やりたかったことをやろうと思うんだ」


「やりたかったこと、これが?」


僕はキョトンとした表情で聞いた。野宿なんてホームレスみたいで、あまり良いイメージは無いけど。


「そ、野宿って夜の寒さに震えたり、暗闇を照らす明かりもないけど、自分を縛るものが何もない、自由な感じがすごく魅力的に見えたんだよね」


真白は空洞の中心に胡座をかくと、視線をグルリと回した。プラネタリウムでも見てるかのような感嘆の声を上げる。


僕は意味もわからないまま、真白に倣って空洞の中に座った。


空洞の中は外よりも少し冷えていて、外の音が届かないのか静謐に包まれている。


僕は黙ってドームの静けさを感じていた。お母さんに怯えて黙っている時の沈黙とは違う。自分の意思で訪れる静謐は、存外に心地よかった。


「ちょっと分かる気がするよ」


「でしょ」


真白は照れたように笑った。僕にも自然と笑みが零れる。


「でもこれが本当に死ぬ前にやりたいことなの?なんか真白さんにしては素朴というか」


僕は口にしてからハッとして口を手で押さえた。


失礼な言い方だったかも。それに、真白にしては、なんて。僕が真白の何を知っていると言うのだ。


僕の一人反省会を気にすること無く、真白は高らかに笑った。


「相沢くんて死ぬ前にキャビア食べたいとか言うタイプ?意外と夢があるんだね」


僕は照れ臭くなって視線をドームの端に逃がした。


「でもそう言うのって本当にしたいことなのかな、本当にやりたいことって、案外素朴なものじゃない?」


そう言うと真白は僕の方を振り向いた。視線をそらした僕には見えなかったけど、そう感じた。


「相沢くんの、やりたいことは何?」


僕が、死ぬ前にやりたいこと。僕は頭を巡らせて考えてみたけど、終ぞ思い付かなかった。


真白に問いに答えられず沈黙が流れる。


「まぁ、そんなすぐに思い付くことじゃないよね、じゃあ明日は私のやりたいことに付き合ってもらおうかな」


分かりやすく真白は話題を変えた。


「やりたいことって?」


「明日のお楽しみ」


真白は悪戯に笑った。




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