十三話 家出
「死ぬのは一週間後ね」
土手を後にして歩き出した真白は言った。
「何で?」
「最高の死にかたをしたいから、それを考える時間」
真面目にそう言う真白を見て僕は吹き出した。それを見て真白は拗ねたように頬を膨らませる。
「重要だよこれは、死ぬ時くらい未練無く逝きたいじゃない」
僕は真白の言葉を笑いながら聞いていた。同級生と死にかたについて笑いながら歩く。
普通の人が聞いたら自分の耳を疑ってしまうような物騒な会話だけど、今の僕にはこれくらいのバカらしさが心地好かった。
「だから一週間、このまま家出したいわけだけど、相沢くんいま何円持ってる?」
そう言われ僕はポケットを探ると、裸の二千円を取り出した。昼御飯代として渡されているお金の二日分だった。
中学生とはいえ、僕でも二千円で一週間を過ごすのは無謀なことくらい分かる。
不安な表情で手元の二千円を眺めていると、真白が得意気にポケットからなにかを取り出した。
手に握られていたのは革製の長財布。艶のある黒色で高級感のある財布だった。
「何それどこから盗ってきたの」
「何で最初に盗品だと思うの?まあお父さんから盗ってきたんだけどさ」
笑って言いながら真白は財布を開けて中のお金を数え始める。
「今日もよく分かんない理由で怒ってきたから、ドサクサに紛れて盗ってきちゃった、三千円入ってるね」
悪びれることもなく真白は言った。
三千円と二千円しめて五千円。それが僕たち二人に許された軍資金だった。
この紙切れが僕たちの命綱なのかと思うと、途端に頼りなく感じる。
「これで一週間、生き残れるのかな」
僕はポツリと不安を溢した。すると真白はキョトンとした顔で僕を見つめ、
「生き残る必要はないんだよ、死ぬんだから」
と事も無げに言った。僕は驚いて目を丸くする。考えてみれば当たり前の事なのだ。
僕らは死ぬために一週間を過ごすのだから。僕には、自分が死ぬということを完全に受け入れきれて無かったのだった。
今まで沢山ひどい目にあってきたけど、死ぬことなんて考えたこと無かった。お母さんに蹴られている時も、高橋くんに殴られている時も。どこかで死ぬ訳じゃないと高をくくっていたのだ。
一週間で自分が死ぬなんて全く想像ができない。
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
僕は脳裏に浮かんだ迷いを真白に言えなかった。言葉にしてしまったら止められない気がしたのだ。お母さんにイジメのことを言ったときのように。
「これからどうするの?もう時間も遅いけど」
僕は逃げるように話題を変えた。真白は暫く怪訝な目を僕に向けていたが、一つため息をつくと沈みかけた夕日に目線を移した。
「うーんそうだなあ、どこかで夜を越したいけど、このお金で泊まれる宿なんてほぼ無いし、かといって帰るのは論外だし」
そう言ってから真白は悪巧みを思い付いた子供みたいに笑った。
「ちょうど良いや、早速私のしたいことに付き合ってもらおうかな」