一夜明けて
「まさか初日からそんな大物に出くわすとはね」
夜も明けそうになったあたりで戻ってきた俺たちはそれぞれの活動報告をしていた。
「しかし相手の隙を突いたとはいえ、まさかこの国最強の騎士をこんなおもちゃで倒しちゃうなんてね」
グラスは俺に渡した小さなナイフを持って呟く。
「渡したのはお前だろ?」
「まさかそんな大物と初日に遭遇するなんて思うわけないじゃない」
「全く持ってその通りだ」
「で、そっちの活動はどうだったんだ? 何か組織についての情報とかは出てきたのか?」
「そっちは全然ね。まぁあるって確証がある訳でもないから当然と言えば当然だけど」
流石にあるかもわからない組織の情報を引きずり出すのは大変のようだ。
いくら有能な彼女でもしばらくはかかりそうだ。
「その代わり、この国の上層部の汚職の証拠ははいて捨てるほど出てきたわよ」
前言撤回、コイツ有能が過ぎる。
「じゃあ私は帰って資料の整理をしてから学園に行くけど、貴方はどうする?軽く寝るんならまた起こしに来るけど?」
「お前もちょっとは休めよ… 俺は少し身体を動かして飯食って学校で寝るわ」
「…別に文句はないけど、そのうちシエルお嬢様にぶっ飛ばされるわよ?」
「不意を突いたとはいえ、この国最強に勝った俺をぶっ飛ばせるならソイツがこの国最強だよ」
「ふふ、言えてるわね」
グラスと会話をして別れたのち、俺は少し遅めの整理運動と寮の食堂で朝食を取り学園に向かった。
「それにしてもお前、昨日は凄かったなぁ!まさかあんなに強かったとは思わなかったぜ!」
登校途中にトドロキが声をかけてくる。
「武器も使わずあそこまで戦えるなんて、お主もしや伊賀の者で御座るか?」
絶対お前日本人だろ。
クラスに男子がほぼ居ないせいか、この3人が集まるのはほぼ確定だった。
正直俺としては男子より女子にちやほやされたいんだけど、同じ女子で、しかも人望も厚いシエルをほぼ一方的にボコったんだから冷たい目で見られるのは当たり前か。
学園前に着いた俺は見たくないモノを見てしまった。
エーデル・フラム氏率いる騎士団が正門前で挨拶をしていた
「昨夜、怪しい人物が出ましたのでお気を付けください。」
「ありがとうございます、生徒会長!」
多分注意喚起が主なんだろうが、この右手の包帯を見られたら何を言われるか分かったものじゃない。
「どうした?ゼロ。」
「置いていくで御座るよ?」
「あぁ、先に行っててくれ…」
二人がのんきに「おはようございまーす」だなんて正門を通っていくのを尻目に、俺はその場を離れていく。
「グラス、見てるな?」
「えぇ、見てるわ。」
人目の付かない路地裏、俺が声をかけると彼女は影からヌルリと姿を現した。
「お察しの通りだ、お前の魔術で学園に送り込んでくれ」
掌に撒いてある包帯を見られたらバレる、と簡潔に告げるが、予想外の答えが返ってきた。
「それは出来ないわ。」
彼女がここまでキッパリと断るんだ、何か理由があるはず。
「彼女は昨日のシエルさんとの試合で貴方に一目置いているはずよ。」
しまった、まさかあの騒ぎを見に来てたのか… 重要なポジションの人間だしそういう野次馬精神はないと思ってたんだが
「恐らくだけど、貴方が校門を通るのを待っていると思うわ」
騎士団としても、生徒会長としても、最強の騎士としても強者にコンタクトを取っておいて損はないしね。なんて付け加え
「じゃあ今日はもう学園さぼるか?」
「昨日あれだけ体育館で暴れて次の日休み、しかも途中まで登校してるんだからそっちの方がもっと目立つわよ」
「じゃあどうすればいいんだ?」
滅茶苦茶困ってはいるが、困ったときに選択肢を提案してくれるのが彼女だ。
「一つ目、遅刻ギリギリで駆け込んで挨拶する隙を与えない」
「多分一番現実的だな。ただし失敗した際は遅刻確定&正体バレしてそりゃもう大変なことになるな」
「二つ目、今から掌をグチャグチャに切り刻んで昨日の戦闘とは無関係と主張する」
「俺の身体だからってひっでぇ選択肢出してきたな!?」
俺だって痛みとかあるんですよ!?
「三つ目、そのまま堂々と学園に入る。」
「バレるぞ、と言いたいんだがお前が提案するんだ。何か策があるんだろ?」
「おはようございまーす」
「おはようございます。貴方はゼロ君ですね?少しお話よろしいですか?」
予想通り呼び止められた。
「昨日のシエル様との試合、見ていましたが貴方はかなりの強者の様ですね」
「えー嬉しいなぁ、お世辞でもありがたいです」
なんて、ひどい演技に見えるが俺にはこれが精一杯だ
「ところで昨夜、不審人物が現れたのはご存じですか?」
「いやー、夜は寝てたから知らないなぁ」
「率直に言います。私は貴方だと思っているので掌を見せてもらっていいですか?」
ストレートすぎだろ、この騎士様。
「いいですよ、どうぞ」
差し出した掌は、それはもう綺麗なものだった。
「…何もないですね、隊長?」
「…失礼しました。かなりの強者ですのでお気を付けください」
しばらく進み、校舎内に入って騎士団が見えなくなったところでテープを剥がす。
現代では有名になった特殊メイクの様なものだが、まさかこの世界にあるとは。
しかもグラスの話だとまだ世間には出回ってない様だ。
もしかしたら学園の中にも、何かが入り込んでいるのかもな…
「それはそれとして、生徒会長サマにはバレたかもしれねぇな…」
「どうやら隊長が目を付けていた彼は違ったようですね」
「…そうですね」
いや、間違いなく昨日の怪しい男の正体は彼だ。
傷こそ何らかの方法で隠していたようだが、触った際に跡があるのが分かった。
あんな少年が何を思ってあんなことをしたのか…
私は、私を負かした彼の行動が善意からであることを祈り一人黙って泳がせることにした。




