【無敗の終剣】
「いやぁ、エーデルさんも今年で卒業!そうしたら俺の上司なんですよねぇ!」
「まだまだ若輩者ですから、その時はよろしくお願いしますね」
私は夜の見回りをしながら先輩騎士と雑談をしていた。
「そういえば今年の新入生はアリエル様の妹君が入学なされたそうですね!」
「そうですね、新入生代表として挨拶もしてもらいましたし、色々と期待はしています。」
「やっぱり、しばらくは要注目の的ですもんね!」
「確かにシエル様もうそうですが…」
体育館でのあの騒ぎ、あまり見えはしなかったけどシエル様を圧倒していたあの男、もしかしたら
なんて考えているところに突如叫び声が聞こえてくる。
「キャー!誰かー!」
「!!行きますよ!」
「了解です、エーデル隊長!」
私たちは悲鳴のする方へと一斉に走り出した。
「ギャー!誰か助けて!!」
二度目の悲鳴、さっきよりも切羽詰まった女性の叫びだ。
しかし声の場所からしてもうすぐそこのはず。
「何事ですか!」
私たちが現場に到着した時に見えたのはおびえている女性と倒れている男性、そして怪しい黒コートの男だ。
恐らく男女のペアを奇襲し、男を殴り倒して女性から金品を奪おうとした直前に難とか間に合ったようだ。
しかしあの男、コートに目立った汚れがないことからほぼ無傷で男性を倒したらしい。相当な手練れだろう。
私は最大限に剣を抜き、警戒しながら声をかける。
「貴方、付いてきて貰えますか?」
声をかけた直後、怪しい男は脱兎の様に逃げ出した。
流石に野放しは不味い、彼を追わなくては!
「先輩はこの場の収拾を!私はあの男を追います!」
「了解!」
この場は先輩に任せて私は男を追いかけるために走り出した。
おいおいあの女騎士、10分くらい走ってんのに未だに追いかけてきてるぞ!
「止まりなさい不審者!」
息も切れる様子がないし、これは大人しく一戦交えるしかなさそうだな。
そう思った俺は広場に駆け出し、女騎士の方に向き直った。
「どうやら観念… という訳ではなく一戦交えるつもりの様ですね。」
追いついた女騎士はすぐさま構えを取り、宣言する。
「我が名はエーデル・フラム。男女暴行の容疑にて付いてきてもらうぞ」
俺も剣を取り、高らかに宣言する… はずだったんだが、大変なことに気付いた。
まず剣がない。正体を隠すために武器は投げナイフを使ってるんだった。
次に名乗る名がない。設定を固めておくべきだった。
最後に、そもそもの話だが声を出したら多分バレる。よりによって相手が学園の生徒会長であるエーデル氏だから今はバレなくても絶対そのうちバレる。
こんなことになるなら「一戦交えるか!」なんて考えるんじゃなかった!!
仕方がないので格好は付かないが、無言で投げナイフを目の前に構え試合前の挨拶とした。
開始直後、あいさつ代わりとしてナイフをぶん投げる。
それとほぼ同時に彼女は魔力を火球にして飛ばしてくる。
当然ナイフは一方的に撃ち負け、回避を余儀なくされる。
エーデル・フラム。魔力属性は「獄炎」で、黒みがかった炎が特徴の剣士。
グラスから貰った資料にはそう記してあった。
遠距離では一方的に撃ち負けるのは今分かった。ならば次は近距離だ。
俺は地面を蹴り、一気に距離を詰める。
「たかがナイフ程度で剣相手に近距離戦ですか、舐められたものですね!」
剣を振り応戦してくるエーデル。
「そろそろ負けを認めたらどうですか?」
お互いに有効打はないものの、戦況を見れば俺が不利なのは明らかだった。
ナイフと剣、この武器差と言うのは分かってはいたが圧倒的で、防戦一方な戦いを強いられた。
そのうえ腕前は昼に剣を交えたシエル等比べ物にならないレベルだ。
そろそろ不意を突いて逃げてもいいころ合いなのだが、折角の強敵との邂逅。勝って終わりてぇ!
(あれをやるか…)
地味に痛いからやりたくはなかったんだがな。
覚悟を決めた俺は持っていたナイフで右の掌を盛大に切り裂いた。
「いったい何を!?」
その血から飛び道具、3本の槍を生成しそのまま放つ。
「何度やっても同じこと!」
今度は炎で壁を作り防御する。
本来であれば血と炎、勝てる訳ないが魔力対決なら話は別だ。そのまま槍は壁を突き抜ける!
「なっ、馬鹿な!?」
予想外に突き抜けた槍を回避するため、バランスを崩す。
その一瞬の隙を狙い、槍からワンテンポ遅れて突っ込んでいた本体のタックルが決まる。
そのまま彼女を押し倒し、ナイフを突きつける。
「…なんて大胆な戦術、参りました。私の負けです。」
彼女は諦めたように握っていた剣を離し眼を閉じた。
…勝った!この国最強に!!油断していたところを強襲しただけだが勝ちは勝ちだ!
決着が付いた後、彼女の上から降りて手を伸ばす。
「…殺したりはしないのですか?」
物騒すぎる。確かにこの時代であれば負け=敗北だが、俺はそんなに血に飢えてない。
彼女に手を貸した後、俺はさっさととんずらするのだった。
「…不思議な人。」
男女に暴行して金品を奪おうとする割には私の武具を奪わなかったり、手を貸した後去って行ってしまうし。
「隊長、こんなところにいた。」
「さっきも言ってましたが、まだ隊長ではないですよ」
分かれた騎士団のひとが駆けつけてきた。負けた後だと合わせる顔がないなぁ…
「あれ?追っていた人はどうしたんですか?」
「交戦までには至ったんですが、負けて逃げられてしまいました…」
「【無敗の終剣】エーデル・フラム様ともあろうお方が負けるなんて、珍しいなんてものですね」
別に無敗ではないのだからその二つ名は恥ずかしいって何度も言ってるんだけど、誰も聞いてないな。
「まぁそこは置いておくとして、話を聞く限りどうやらあの男は女性を助けていたみたいですって。」
事の顛末を聞いた私は、彼に申し訳なく思った。




