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短編(シリアス)

夜間病院

作者: 裏道昇
掲載日:2023/08/14

 暑い暑い夜のことだった。

 誰もが寝静まった町の裏路地を三本ほど進んだ先、一件だけ明かりの灯った扉を叩く少女がいた。


「開けてください! 開けてください!」

 泣きそうな顔で何度か声を上げていると、やがて扉が開いた。


「そんなに何度も声を出さなくても聞こえているよ」

 出てきたのは寝間着に白衣を引っかけた、無精ひげを生やした男だった。


「……どうしたの?」

 男は欠伸混じりに訊ねると、少女は早口で叫んだ。


「あ、あの、この子……結愛を助けて下さい!」


 少女が両腕に抱えていた子を差し出す。

 男は若干面倒臭そうにしながらも受け取り、


「中に入りなさい」


 独り言のようにそう言った。

 男は寝台に結愛を寝かせると、触診を始めた。

 結愛はぐったりとしていて、意識がないようだ。


「何歳?」

「二歳になったばかりです」

「昼間は元気だったの?」

「はい。いつも通りに遊んでいました。今日は両親が出掛けていて……」

「そ。服を脱がすよ?」

「は、はい」


 男は結愛の服を手早く脱がして体を一通り確認し終えると、少女を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫。ただの熱中症だ。軽い脱水症状も起こしているが……。

 まあ、体を冷やしながら点滴をすれば明日には良くなっているだろう」

「良かった……ありがとうございます!」

「ちゃんと気を付けてあげてね。周りが体調管理をしなきゃいけないんだから」

「はい」


 少女は項垂れて、唇を噛み締めていた。


「家は近いの?」

「あ、歩いて五分も掛からないです」

「それじゃあ、今は一度帰るといい。明日結愛ちゃんを引き取りにおいで」


 少女は頷いて、出ていこうとする。

 元気のないその背中に男は声を掛けた。


「……覚悟しておきな。夜間診療は高いぞぉ」

 少女は一度だけポカンとした顔で振り返り、


「なら、今月は節約しないとですね」

 初めて笑みを見せて帰っていった。


 夜が明けて、少女と両親が結愛を引き取りにやってきた。

 結愛はすっかり元気になっていて、少女の姿を見るなりその胸に飛び込んだ。


 三人はしきりに頭を下げていたが料金を支払う際に、

「本当に高いじゃないですか」

 と、少女はこっそり囁いてきた。


 そして、別れがやってくる。


 一晩だけの付き合いを惜しいと思いながら、

「次は気をつけろよ、結愛ちゃん」

 男は結愛の頭をぐりぐりと撫でてやった。


 結愛は大きな声で、

「ワン!」

 と鳴いて尻尾を激しく振った。


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