第6話 エルフが人間界にやって来た。
人間界パートはコメディ強めな為、電車内及び公共の場での閲覧にはご注意下さい。
女みたいな悲鳴をあげてしまった。恥ずかしいと言えば恥ずかしい。
それにベッドに横たわっている所を見るとあのまま気絶してしまったようだ。
失態だよな・・・これ。
<アマタ様おかえりなさいませ。待っておりました!!私は嬉しゅうございます!!ハロー、アマタ、リアルへようこそ。>
ログインの音声を聞く。この人懐っこい機械音。まるで俺の<アバター>のサポートAIの声だな。
何故だ。身体が思うように動かないのだが!?
それに・・・ベッド・・・!?
ここは病院のベッドだ。そうだ。現実に戻って来たのだ。
ーーーー夢だったんだ
そう思ったら急に悲しくなってきた。エルフとしての生は虫を食べる悲劇を除いたらワクワクするものだった。
森の奥、見た事ない世界。未知なる冒険が待っているはずだった。
エルフの村改造計画は結構乗り気になっていたのだ。それが夢落ちで片付けられたら俺、マジで泣ける。夢だったけど、エルフとしての人生ってそれはそれで楽しかったな。
あのエルフの村での出来事が夢だったのだ。俺は本気でこの魔法もダンジョンもモンスターもいないこの世界で生活を考えないといけない。そもそもずっとアバターに潜り続けた俺がリアルの人生を楽しめって無理な話だ。この世界、未知なる大地なんてもの存在しないだろ?ワクワクなんてあるはずがない。
ため息を吐きたくなる気持ちを抑えながらただひたすらに天井を眺めていた。
身体動かない。障害レベルで身体動かない。やばい、昨日の夜アバタールームに忍び込んでしまったせいで本気で脳に障害が出てしまったのか?俺って植物人間?もしかして一生このまま?
ちょっと声すら出ないんだけど。本当でやばい、誰か助けて!!って声が出ないんだから看護師さんすら呼べやしない。ちょっと待って、誰か助けて!!
「えっ!ここはどこでしょう・・・」
俺の口が勝手に喋ったぞ。一体どうなっている!?
そう考えた後すぐにキョロキョロと周囲を見渡していた。俺の意志とは関係なしに身体が動いてる。一体どうなっているんだ?
「凄いふわふわ。グリフォンの羽に包まれてるみたいです。ふふふ。」
この病気は酷いことに俺の身体が急に勝手に動きだし、今現在意味不明な発言をして、さらにベッドの上で子どものようにトランポリンの要領でピョンピョン飛び跳ねている。
・・・俺は、重度な病気みたいだ・・・
「わっ、なんでしょうあれ!!うわ・・・・・・凄い・・・。」
そんな事を口にする俺。視線の先には窓が少し空いているのか乱れたカーテンが存在する。隙間から風が吹き、明け方の少し肌寒い空気を感じる。
でもそれが感動に繋がる訳がない。その視線はもっと先・・・カーテンの向こうへと釘付けとなっている。
薄暗い、灰色の街並みが広がる。始発はもう始まってるのか環状線を走る電車、高速道路を走る車やトラックが行き交っている。いつもと変わらない街並みなのだが、明朝の新鮮な空気に何故か胸がドキドキするのを感じる。
「チユは夢を見ているのです。」
俺は惚けながらそう言った。いや、俺じゃない!!自分の事をチユって言った!!つまり・・・
(チユ!!俺の身体を動かしているのはチユなのか!!)
強く訴えかけるように念を送ると優しい思念が返ってきた。
(この声はアマタ様ですか?そうです。チユです。)
どういう事だ?何故チユがリアル世界にいる。というか何故俺の身体を動かしている。というか何故俺は身動きが取れないのだ?いやいやいや、疑問が多すぎて何から突っ込んでいいか分からないけど、とりあえず優先順位を考えて・・・
(ここは病院だ。頼む、大きな声で騒がないでくれ。他の人に迷惑がかかる。そして、暴れないでくれ)
俺はそう注意を促す。
(他の人に迷惑がかかるからでしょうか?)
(そうだ。よくわかったな。病人はベッドで寝る。これが一番なんだ。安静にしよう。)
伝えるとチユは俺の身体を動かして、ボディタッチをしていく。頭の先から足の先まで念入りに。最後、股間に手が触れて口を大きく開けて止まった。
チユの今の気持ちを代弁するなら「触ってしまった。」だな。
しばらくフリーズしてチユはまた動き出す。
(アマタ様はどこか悪いのですか?健康そうですけど。チユみたいに病弱体質なんですか?)
チユみたいに?気になるフレーズがあったが俺はとりあえず質問に答える。
(違うよ。普段は凄く元気。でも頑張りすぎて倒れてしまってな。療養中だ。)
(そうなんですね。じゃあ、私がおまじないを掛けます。早くよくなぁれ、早くよくなぁれ。ライトヒーリング!!)
突然に身体全身が光出す。そして突然、聞き慣れた電子音。
<アマタ様のHP100% コンディション、オールクリアです>
さて、どこから突っ込んだらいいのかな。まず、狙って下ネタを言い合ってる訳ではないという事だけ弁明しておこう。魔法が使える事、アマタイルが発言した事・・・。俺、アバターじゃないんだけど。あれ?これ全てツッコミ切れないんだけど。
(チユ、魔法使えるんだね。)
まずは順番に魔法の件からツッコませて貰います。言うと窓に映った自分の顔が突然ドヤ顔になる。
(エルフですから!!でも、病弱な体質だったのでちゃんと成功したのは今が初めてです。さすがアマタ様、神様の身体なら魔法失敗する気が一切しません!!)
(俺、人間だって言ったよな。普通に魔法使ったよな。これ・・・一体どうなってるの?)
(それは・・・そういうものじゃないんですか?)
チユでも上手く答えられないでいた。そこへ脳内へと響く電子音が明確な解答をくれる・・・
<それはアマタ様とチユ様が同調した事によりお互いの良い所が受け継がれているのです。良かったですねアマタ様。今日から貴方は魔法使いです>
お前は俺のサポートAIなんだよな!?そのアマタイルまで裏切った・・・俺は人間でいたい。
(アマタイル、お前、なんで俺の身体の中にいる!?お前は俺のアバターごとスクラップになったんじゃなかったっけ?)
<そうですよ!!本当に酷いじゃないですか。エリコさんでしたっけ、魔素分離しやがったんです。マスターだから許しますけど、私、根に持ってますからね。いつかエリコさんぶっとばして下さいね。私の気がすみません。>
あれ?俺のサポートAI、こんな感情的だったっけ?
じゃなくて。
(消えてなくなったと思ってたのに何故?よりにもよって俺の身体の中?)
<チユ様の魔力がまるでアバターの生体のような環境を生み出して頂いたおかげでバックアップが発動し、マスターの元へ戻ってこれました。>
(俺のアバター異世界にいたのに、現実世界に?)
<魂は空間を超越しますからね>
ちょっと待って、その解釈よく分からないんだけど!?
「アマタさん、そうなのです。現実、こうなってるのだから受け入れるのです。」
そうか。チユの言葉はまるで鶴の一声だな。深く考えちゃダメって奴だな。オッケー。
・・・ってこれでいいのか!?俺はアホの一歩を踏み出してやしないか!?そもそも俺に身体の主導権はないんだよな。
今後の生活を本気で考えないとダメだ。まず親兄弟にはどう説明する?友達のエイルには?アカネ、ミーヤ、レイモンドには?来月には入学が待っている。学校どうするよ。チユに受けてもらうのか?
「学校!!楽しみです!!!」
チユが急に声を上げるから俺は面食らってしまった。どうやら俺の考えがチユに筒抜けになっていたみたいで変にワクワクさせてしまったらしい。
(チユ、頼む!声に出さないでくれ。他のお客様に・・・)
(迷惑だからですよね。ごめんなさいです)
チユが操る俺の身体は大人しくベッドに横になった。俺の身体なのに一切身体の主導権がないというのは随分と悲しい事実なのだが。
眠れないのかチユはゴロゴロと寝返りをうちまくる。気が散って考えに集中出来ないのだが。
今更ながら、チユって一体なんだろうって考えた。エルフの少女って事は分かるけど。そう言えば自己紹介がまだだった。
(あの、チユ?)
(なんでしょう?)
(自己紹介がまだだったな。俺の名前は雨宮アマタ。15歳だ。)
(私はチユです。8歳です。苗字はありません。苗字があるという事はアマタ様は名のある名家の出なのですか?)
(いや、親も爺ちゃんも一般の人間だよ。特殊と言えば・・・たまたま才能が認められて「テンプラー」っていうアバター集団にスカウトされたけど運が良かっただけ。今は辞めて一般人だよ。)
「テンプラー」について補足だが、レイモンド、ミーヤ、アカネ、俺のグループだけが「テンプラー」と呼ばれている訳ではない。株式会社 天賦 その最前線のダンジョンに潜るアバター戦闘集団にのみ呼ばれる総称。それは2軍、3軍とあり国一番の実力を発揮している。
(辞めたんですね・・・。)
(チユはどんな人だったの?)
(病弱だったから私、取り柄がないんだけど・・・でも神降しの儀に宿主として選ばれた事は光栄に思ってます。)
チユは病弱だった。その事実を今思い出した。
月に何度かは夢に出て来て生活の一部始終を見ている。同年代が家族の家事をいろいろ覚え、魔法とか覚えて狩り連れ出されて行く中でチユはいつも部屋にこもって眠っていた。
だから他のエルフと大いに差がついてしまい生活魔法に至ってもまだ2、3個しか覚えていないのだ。しかもその全てが3回に1回は失敗する。
俺が夢で見続けたチユの人生はそんな感じだ。
そういえば、村長が俺に言った言葉を思い出す。「神子様。受肉した身体は使いやすいですかね?」というフレーズだ。
これは病弱なチユの身体は問題ないですか?という意味になる。あの時変な解釈してしまったっけ。「酒の耐性のない身体でごめんなさい」的な勘違いを。
(夢で私の事を見守ってくれてたのですね。もっと健康的な身体をアマタ様に捧げられたら良かったのですが。)
思考の最中そんなチユの声が聞こえてきた。俺は発言して伝えた覚えはない。ならチユはエスパーかも知れない。
(心の中を勝手に読まないでくれ。恥ずかしい。)
(ご、ごめんなさい!!だって意識しなくても聞こえちゃうんです!!)
<マスター。思考する時意思が強いのではないのですか?強い思念が相手にチユ様に伝わるのです。マスターはもっと普通の思考術を身につけてましょう。>
アマタイルまで追い討ちしてくる。なんだ、俺のせいか?自業自得って訳なんだな。それにしても・・・
(普通の思考術って・・・何?)
<AIなので、人の思考は分かりません。データ求む>
もう、考えるの辞めよ。
(アマタ様、私、この身体ならいろんな魔法を使える自信あります!!私、皆の遅れを取り戻す為に一杯一杯頑張りますね!!)
(チユ、張り切っていて大変申し訳ないのだけど、こっちの世界では魔法は使わないで欲しいんだ。)
(・・・・・・今、なんておっしゃいました?)
(魔法禁止で頼む。俺、人間だし皆がビックリする。)
(そんな・・・アマタ様、私がそんなにお嫌いですか!!?)
(いや、嫌いとかそんなんじゃなくてな、常識的に考えて・・・)
ポツリ、ポツリと、俺の膝に暖かい雫が落ちた。
<あーあ。マスターがチユ様泣かせた。ああ、なんて可哀想なチユ様なんでしょう!!せっかく魔法使って沢山のモンスターを倒してくれるというのにマスターはチユ様にのアイデンティティを殺すんですね!!なんとおいたわしい。>
だから、なんでAIが俺を茶化すんだよ!!
(アマタイル!!リアルにモンスターは居ない!!ダンジョンは廃れ、モンスターは存在しない。あるのは廃ダンジョンと呼ばれる遺跡だけ。異世界と一緒にしないでくれ。)
<マスター、それは本当ですか?戦闘しない世の中なのですか?私、情報のアップデートを要求します>
(またの機会でな。)
アマタイルに構っていると、今にも暴走しそうな存在がそこにいた。
(アマタ様、遺跡、行きましょう!!楽しみです。)
え?行っても何も無いよ。
(チユ、もう少しだけ寝ようか。)
お付き合い頂きありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
『ブックマーク』と『いいね』をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』ならモチベーションが上がります。