第50話 チユはテマルとの関係性を考える。
楽しんでもらえれば嬉しいです。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
2章はアマタの世界で神子は動きます。
私はいつものように弟の部屋をノックする。
春休み・・・だけど教師は日替わりで学校へ行かなければならないのだ。
テストの問題作りとか・・・自分の受け持つ授業のパワーポイント編集とか、新教科書のチェックとか。別に学校に行かなくても出来るけど細かい仕事はいろいろある。
毎朝、出勤前には声をかけて行くのだが・・・
「アマタ、入るよ。」
毎朝この光景を見るのが怖かった。
弟は死んだように眠ってる。血の気は引いて、真っ白の顔。文字通り死んだようにとはこの事だ。
おまけに体温も低すぎる。・・・魂が抜け落ちたように眠ってる。
毎日だ。この光景を毎日見続けているのだ。
ゆすってもつねってもアマタは起きてこない。
いつかそのまま目を覚まさないんじゃないかって思って、様子見てると、昼ぐらいに何事も無くムクっと起き上がる。
怖いのだ。親に相談しても、アマタの話になると神経質になる。
この症状って一体何?病院に連れて行ったら治るのかな?
誰にも相談出来ずに1人悩んでいた。
でも、退院するときの診断は異常無しだった。意味がわからない。この奇妙な現象に私は毎朝頭を悩ませる。
学校の先生達に聞いても、私が通ってた短大の先生に聞いても答えは帰って来ない。でも・・・
アバターに潜っている人の身体ってこんな感じで眠り続けるんだって話をエイルさんから聞いた。
アマタってアバタールーム無しでもアバターに潜ってる?
いやいやそんな訳ないでしょう。そもそもアマタってアバター失ったって言ってたし。
私の中でアマタは不可解な怪奇現象に巻き込まれているのだと無理矢理理解した。
・・・もう、深く考えるのやめよう。
そう思って昨日、外に連れ出した。その時も元気そうだったし。なんか吹っ切れた。
でも大丈夫かな?本当大丈夫かな?
昨年度はいつにも増してやんちゃな生徒が集まった。やんちゃって表現は生優しい。バレなければ法を冒す。平気で魔道具を駆使して人を陥れる。そんな手の掛かる生徒ばかりが集まりやりたい放題やっているのだ。
3年生徒会長を武力で抑え、一年にして生徒会長に昇り詰めた薬師寺さんは本気でヤバい。私、先生だけど、正直関わりたく無い相手である。
この生徒ちは先生も上級生達も、また他校の生徒まで頭を悩ませているのだ。そんな学校に通わせるなんて私は少し嫌だったけど、エイル君がいる。
エイル君は学校の中でも一際目立っていて、そんな手の掛かる悪ガキ共を黙らせる存在である。風紀委員会を立ち上げ、アンチ生徒会長を掲げている。
そんな存在が親友なら頼もしい。多分大丈夫だ。
そんな私の不安も知ってか知らずか、死んだように眠るアマタを横目に「はぁ。呑気なものね。」とため息をつく。
来週から学校が始まるんだけど、私、アマタを起こす自信ないよ・・・。
私はアマタの机の上に、学校へ行く時準備するもののリストを置く。
「行って来ます。いつか時間作って旅行行こうね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ああ、昨日も夜更かししてしまった。
向こうの時間で夜10時に寝たら、こっちの時間で朝の10時に目を覚ます。ああ、学校始まったら完全遅刻だぞ。
学校・・・というワードが出てきたのはレイア姉が机に置いていった紙の束が目に入ったからだ。
来週には学校が始まる。近いうちに制服の受け取りに行かないとダメだ。
スケジュール管理出来るかな?向こうで6時50分には布団に入るようにしなければアウトだよな。
<マスター、向こうには時計が無いと聞いてます。テマルンドに頼んでアラームをかけてもらいましょう。そして、是非ともチユ様に闇魔法スリープを覚えてもらってご就寝。>
(いや、それはそれで睡眠魔法が無ければ寝られない人みたいじゃないか!!嫌だよ。)
<そうですか?>
でもアラームかけて貰うのはありだと思ったのだった。
そう思いながら・・・チユがボーとしている。いつも寝起きに弱いチユだが、今日はいつにも増してボーっとしている気がする。
(どうしたチユ?ボーっとして。なんか考え事か?精神的に疲れてるのか?)
(そうなんです。考え事を・・・)
(どんな事に悩んでるんだ?)
(それは・・・あの・・・アマタさん。聞きにくい事なんですが、テマルさんって一体誰ですか?)
突然、チユの質問に言葉を詰まらせる。
幼馴染・・・命の恩人・・・9歳でこの世を去る・・・一言では到底言う事が出来ない出来事がいっぱいなのだ。
(突然どうしたんだ?)
(アマタさんが事ある度に回想してました。記憶を覗いてしまって済みません。ですが・・・私と関係がありますよね。)
関係あるかどうかは確証が持てない。限りなくチユの顔はテマルにそっくりなのだが・・・。
(どうしてそう思う?)
(夢です。)
(夢?)
(最近になって思い出したんです。夢って私、ずっと無音で、映像だけずっと目の前に広がっていたのですが、昨日見た夢に、私と年齢の変わらない。アカネって女の子が出てきました。)
(アカネ!?そんなことが・・・?)
だってチユはまだ、アカネに会った事ないだろうに。
(その時の夢ははっきり言葉を交わしてたのです。アカネさんに私はテマルって呼ばれてました。エイルさんの研究室でシルフィードを一緒に開発しました。)
(なんだって!?)
(理論もしっかり把握してます。だから、私、あんなにはっきり再現出来たのです。だから・・・)
そんな事ってあるのだろうか?それが本当ならテマルの転生した姿がチユという事なのか・・・?
(だから?)
(全然思い出せないので、テマルさんの話してください。)
(そうだな・・・テマルは・・・)
テマルはエイルの双子の妹で俺たちの中でお姉さん的な存在だった。面倒見が良く、エイルに似て、困った事があれば良く相談に乗ってくれた。戦闘では剣よりも狙撃が得意だった。
正義感が強くて、誰か悪い事したら夜を徹して怒っていたな・・・。でも、誰よりも優しくて俺はテマルに恩を貰ってばっかりで少しも返す事が出来なかったんだ。
あの日、ウロボロス戦。俺たちは敵戦力を見誤った。
結局準備不足でエイル、アカネ、レイモンド、ミーヤの前線は崩壊。
逃げる事も叶わず白兵戦になって・・・心の中で整理がついたと思ってたんだけど何故だろう。言葉が出ない。
(そうなんですね。アマタさんの命の恩人なら私も会って見たかったな。そんな事言っても仕方ないですけど。何も思い出せずにすみません。)
この発言を聞く限り、やはりチユにはピンと来ないのだろう。テマルの生まれ変わり・・・という線よりテマルと何か密接な関係があると見た方が良いのか?
どちらかだな。
(チユはチユだよ。もしかしたらシンクロ率ってあるだろ?魂が同居してるから、俺の記憶を垣間見たんじゃないか?)
(適当に言って誤魔化さないで下さいよ。私、真剣に考えてるんですからね。だって、アマタさんはシルフィードがなんなのか知らないじゃないですか!!私とアカネさんだけの秘密ですよ。)
(確かにな。チユとテマルの関係性。なんかヒントが見つかれば良いな。)
(多分、こっちじゃないとわからないのです。しっかり調査するのです!!)
そう息巻いているチユであるのだが、俺はもっと息抜いて楽しめばいいと思うのであった。
それに、チユのシルフィードはアカネのスキルの半分程度の威力なのだが、これは言わないでおく。
今日の予定。ノープランだけど・・・エイルに連絡してみよう。
(チユ、ものは試しでエイルの家に行って見るか?テマルの部屋に入れば何か思い出すかも知れない。)
(テマルさんの部屋?もしかして記憶が突然蘇る・・・?)
(そう都合よくフラグ回収出来たら良いな。)
(ちょっとアマタさん。フラグってなんですか!?)
(さあな。)
そんなやり取りをしながら、いつものようにアマタイルにLINEを打って貰う。
チユは部屋を出てお着替えタイムだ。
とはいえ、レイア姉のクローゼットを物色・・・「ドレスアップ!!」と一言魔法を呟くだけでパッと着替えてしまうもんだから突っ込む暇がない。
ついでに「メイクアップ」まで。チユ、化粧はしなくていいんだぞ。俺そんな女装趣味ないし。
(チユ、あのな。男はワンピースなんか着ないんだぞ。エルフの村では皆似たようなの着てるかも知れないけど、こっちはこっちの服装があってな。)
と俺はチユを説得にかかるが・・・
(そうなんですが・・・。いえ、なんとなく理解はしてるのです。)
(してるならなんで着ないんだ?男服。)
(済みません、正直に言いますと・・・ジーパンもパーカーもピッタリし過ぎて来てて気持ち悪いのです。見た目的にも・・・私は好きになれなくて・・・避けてました。ごめんなさい!!決してアマタさんのセンスが悪いって言ってる訳じゃないんです。ですが・・・)
な・・・俺の服のセンス・・・?
(あ、ご、ごめんなさい!!傷つけるつもりは無くって!!その・・・。)
(あ、いや、いいんだ。一応聞くけど、ジーパンが苦手なのか?)
(あのサイズ感が苦手です。アマタさんにあっているかと言われたらその・・・。なんでスリムな足に、さらにスリムに見えるボトムスを履いてるのかなと疑問で・・・。足長く見えるどころか、細過ぎて貧弱に見えてしまいます。まるで鳥の足です!!パーカーも・・・パッとしないというか・・・。この家で1番お洒落な服がこの服だったのです。)
(あ・・・いや。今度服買いに行こうか・・・)
(はい!!!)
俺、一応、ファッション雑誌読んでるんだけどな・・・何が悪かったんだろ。
<それは、マスターのセンスでございます!!今度一緒にマスターに合うコーディネート検索しましょうね!!>
うっ!!アマタイルめ・・・なかなか痛い所を突く!!ちょっとショックだぞ。マジで。
そう思ってたらエイルから返信・・・。
どうやら家にいるらしい・・・
「今日はエイルさんと、お家デートですか!?嬉しいです!!」
チユ、これは決してデートじゃないからな・・・。
電車に乗って一駅。ルンルン気分でエイルの家に到着した。一軒屋・・・というよりなかなかの豪邸に住んでいる。
インターフォンを鳴らし、中庭を通り玄関まで行く。
「どうぞ入って。」
「お邪魔します」
という事で、エイルの家にお邪魔した。
(チユ、なんか思い出す事あるか?)
(わぁ。立派な木のお家。エルフの村も木で出来てるのになんてクオリティが違うんでしょう!!)
全くもってはじめて入る人の反応だ。エイルのお姉さんがお出迎え。あれ?エイルにお姉さんっていたっけ?
「エイルを呼んでくるわね。」
「エイルのお姉さんですか?お綺麗ですね。」
俺の思念を読み取ってチユが代弁。
「あらやだ、アマタちゃん。お母さんよ。」
えっ?こんなに若かったっけ?20代に見えるぞ。エイルが16歳だから・・・50代でしょ!!
そう思ったらエイルが部屋から出てくる。
(わぁ・・・今日もエイルさんカッコいい。部屋着もイケメンです。)
(チユ、エイルの事好きなのか?夢で・・・良くして貰ったか?)
(夢では一回も出て来ないですよ。好き・・・かどうかは分からないけど、なんかいつまでも観ていたい格好良さです。)
つまり目の保養って事か?いや、もっといい表現があるだろうけど。
「おう、アマタ!!今日はまた女装なんだな。」
「どうもこんにちは。」
俺達の視線に気が付いたエイル。
「ああ、母の事だろ?お前の貰った回復薬のせいだぞ。」
「え?回復薬?」
「初めはな、親父禿げてるだろ?だから親父、髪に振りかけたんだ。」
おい、それ育毛剤じゃねぇんだぞ。エルフの村に伝わる秘薬を一体何に使ってるんだよ!!
「育毛剤?」
「育毛剤って優しいもんじゃねぇ。ニョキニョキ髪が生えてきてよ・・・大喜びだぞ。それを見た母がな、あろう事か肌に塗りたくり始めた結果、ああなった。」
さすが神子の霊薬。再生力がハンパないようだ。若返りすぎだろ!!整形レベルだぞ!
「整形レベル。」
チユがそう呟くと、エイルに口を抑えられた。
「母、それ、結構気にしてるから勘弁な。声のトーン的に聞こえてないみたいだしセーフだ。」
よくわかりました。
お読みいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




